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糸井 |
堺くんがやってることとか見てると、
「自分だけの卵かけご飯」と
似たようなことやってるんだろうな、と思うから、
実はまだ読んでないけど、
『俳優修行』っていう本を買ったんですよね。
きっとおもしろいだろうと思って。 |
堺 |
ほう!
スタニスラフスキイ?
第1部はおもしろいですよ。 |
糸井 |
あ、そうですか。 |
堺 |
おもしろいです。
架空の演技クラスを描きながら、
そこに初めて演劇をする
コスチャと呼ばれる青年を主人公にしたものなんです。
ひと通り第1部を読めば、
スタニスラフスキイの何たるかはわかる。
で、第2部は、それをその当時の「現代」に
どう噛み合わせようかっていうのをやろうとする。 |
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糸井 |
応用編なんだ。 |
堺 |
でも、すぐ古びて、
第2部は誰も読んでないですね、役者はね。
第1部しか持ってない。
珍しいですよ、スタニスラフスキイ。 |
糸井 |
それはね、ちょっとね、
料理のこと気になるのと同じように、
役者のことが気になってさ。
きっとおもしろいだろうなと思って。 |
堺 |
へ〜え。 |
糸井 |
で、読むのはいつでもいいから、
とにかく買っとこうと思って。 |
堺 |
ええ、ええ、ええ。 |
糸井 |
素人臭い先生が生徒に教えるのを
聞いてるだけでもおもしろい時あるじゃないですか。
たとえ付け焼き刃の講義でも、
やっぱり面白い。
習い事は全部さ、料理でも何でもそうだけどさ、
誰かが考えたことの蓄積だから、
もう古いっていうふうにしても何にしても
絶対おもしろいんですよね。 |
堺 |
『俳優修行』の一節をそのまんま
『南極料理人』に使ってるところがありますよ。 |
糸井 |
そう! |
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堺 |
ものすごく当たり前のことを言ってるんです。
「魔法の言葉IF」っていう章があって、つまり、
「もしあなたが南極料理人だったらどうしますか」
っていうところから話を始めていきましょう、
っていうだけの話なんですけど。 |
糸井 |
はあ、はあ、はあ。 |
堺 |
でも、その「IF」って
ものすごく、広がりますよね。 |
糸井 |
なるほど、なるほど、魔法の言葉。 |
堺 |
だけど、案外役者やってて、
ちゃんと台本読んでっていうようなことやってると、
「もし自分が南極料理人だったら」っていう、
イロハのイをやらなかったりするんですね、時々。 |
糸井 |
自分のままになっちゃうんですか。 |
堺 |
なんだろう。
ちょっと違うこと考えちゃうのかな。
だけど、元々の仕事って、
もしぼくが本当にこうだったらって
いうところから広がる発想だったりするから。
今、糸井さんから『俳優修業』という書名が出て
ドキッとしました。
ちょっとイロハを忘れてたかもなって。 |
糸井 |
いやいや。
そういうのは、きっといいんだろうな、と思うんですよ。
昔の人のほうがいろいろ知らなかったから、
「まずはここまでわかった」っていうのを
言ったに違いないんですよ。 |
堺 |
うんうんうん。 |
糸井 |
つまり、大げさに言えば、
歴史上の偉人っていうのをベスト100を並べると、
ほとんど100に近いところまで
ギリシャ時代にいるっていうんですよね。 |
堺 |
ふーん! |
糸井 |
そう考えたら、芝居をやる、なんていうのは、
相当昔にできてると思うんですよね。
だから、飯島さんに何か質問するのと同じように、
堺くんとかに「そういうことやってたんだ」
っていうのを聞いてみたい気がします。 |
堺 |
ええっ、ぼく、そんなに‥‥。 |
糸井 |
『情熱大陸』では聞けないタイプのこと。 |
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堺 |
(笑)。 |
糸井 |
テレビで、「今筋肉を付けてます」っていう話を
すごく人は喜ぶんですね。
でもそこの話に、今、役者が
どんどん吸い込まれていくような気がするんですよ。 |
堺 |
そうなんです。 |
糸井 |
でしょ? |
堺 |
うん。 |
糸井 |
で、「役作りのために歯を折った」
とかっていうの大好きですよね。 |
堺 |
今回も途中で太るの止めたんですよ、逆に。
ムクムク太ってったんですけど、
なんかそこに話が行き着くのは絶対に違うと思って。 |
糸井 |
まずいよね、それはね、
俺はコピーライターやってるときにもね、
スポンサーの偉いさんがね、
他の先輩のコピーライターのことを
「彼は2日ぐらい完徹(徹夜)しちゃうらしいね、
ひとつのコピーに」って、俺にしみじみと、
「恐ろしい人だ」って言ったんですよ。
で、俺は、
「頼むからそういうこと言わないでくれ」と思って。
「俺は5秒でできる」って言いたいと思って。 |
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堺 |
うんうんうんうん。 |
糸井 |
役者がそういうこと言われたら困りますよね。 |
堺 |
でも、そういうほうが、通りがいいんですよね。
そして、自分もちょっと思っちゃうんです。 |
糸井 |
危ないですよね。 |
堺 |
危ない。
ぼくは努力したって思っちゃうんですよね。
でも、それは違うんでしょうね、
どうでもいいことっていうか。 |
糸井 |
というか、すがる場所として、
「何をしたんですか」っていう1行があると、
とてもいいんですよね。
例えば弥勒菩薩っていうものは姿がないわけで、
誰も見た人はいない。
だけど、仏像を見た時に、
「これ、何菩薩ですか」
「弥勒菩薩です」
「はぁ〜」って、弥勒菩薩だと思うじゃないですか。
でも、あれは、仏師が考えた、
それまで人がこうだと思ってるものの
集大成を人間の形にしただけで、
あれは弥勒菩薩じゃないんですよね。 |
堺 |
未来の神様ですしね、弥勒菩薩は。 |
糸井 |
そう、そうです。
釈迦以外はみんなないんですよ。
だけど、その形が仏像になってあることで、
拝めるんです。その意味では、
ウェイトコントロールをしているのを、
菩薩像を彫ってるんだと思って
「そんなものはないんですよね」
って言っちゃったら、進まないんで。 |
堺 |
確かにそうかもしれない。 |
糸井 |
だから、やっぱりそこは、
「それが全てだ」と思わなければ、
やっていいんじゃないですかね。 |
堺 |
そうか。そうですね。
でも、ときに、それが全てだと思い込む
自分もいたりして。 |
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糸井 |
やってる時は、やってないやつに怒るっていう人が
また現れるんですよ。
たとえば堺くんが双子で、全く同じ立場で、
双子で腹の減った演技をしてる状況が
あったとするじゃないですか。
で、こっちの堺くんは毎日本当に腹を減らして、
どんどんこけてきてる。
で、もう1人にも、
一緒にこけて欲しいんだけど、
そいつは、「昨日さ、女と焼き肉食ってさ」
みたいにしてて。 |
堺 |
(笑)。 |
糸井 |
「お前さぁ」って言いたくなるでしょう。 |
堺 |
なりますね。 |
糸井 |
で、芝居としてどうかっていうことの前に、
怒ると思うんです、俺。 |
堺 |
芝居どころの話じゃない。 |
糸井 |
怒りますよ、絶対。
でも、後でできたものとして、
そこで役として完成されてれば、
怒っちゃだめですよね。 |
堺 |
だめですね。 |
糸井 |
でも、人は怒るんですよ。 |
堺 |
わかります、それ。 |
糸井 |
で、怒るのはだめだっていうことを、
どれだけわかってるかが、
なんかすごく重要な気がするの。 |
堺 |
わかります。 |
糸井 |
今しゃべってる限りでは
俺たち2人わかってるわけ。
でも、本当にあったら、
気をつけてないとねっていうのはそこですよね。
その世界に行くと、
そっちの人になっちゃう可能性ってゼロじゃないんで。 |
堺 |
うん、楽しいんですよね。 |
糸井 |
仏像ができあがってくるからね。
見事な弥勒菩薩があそこには見えましたよね。
で、特に、カメラがあろうがなかろうが
やってたことっていうのもあそこには絶対にあるはずで。
カメラの隙を見てっていうか、
カメラのない所でやってる
自分の努力はもっと好きですよね。 |
堺 |
ああ、ああ‥‥そうかもしれないですね。 |
糸井 |
それって、励みにはなるんで。
だから、カメラが見えてる所で
みんなが褒めてくれる以上のことは
俺はあるから、みたいな、
そういう気持ちよさもあって、
多分うっとりするんですよ。
で、どんどんそういう役者が
増えてる気がするんですよね。
で、これはね、危ねえって。 |
堺 |
危ない、と思う。 |
糸井 |
そういう人たち同士絶対仲良くもなれるし、
意気投合もできるし、
そういう人たちの集まる映画もできるし。
俺、そこでね、失われるものはね、
絶対あると思うんですよ。
で、そこで『南極料理人』ですよね(笑)。 |
堺 |
これですよね。そう! |
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(つづきます) |