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糸井 |
役者みんなが『南極料理人』を経験したら、
観客席に対する敬意みたいなもの、
ポップコーンつまんでる人たちに対して、
「お前、ちゃんと見ろよ」じゃなくて、
「いや、ありがとね。おいしい?」みたいな、
その関係がもう1回生まれるような気がして。
最近、そういうことがよくわかるようになってきたの。 |
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堺 |
へ〜え、おもしろいな。そうか!
糸井さん、昔一緒に京都行った時に、
釣りを始めた云々のときの話で、
「このままだと、
なんか嫌なジジイに
なっちゃいそうだったんだよ」
っておっしゃったのを、俺、すごい覚えてて。 |
糸井 |
ああ〜。 |
堺 |
ぼくもまだ35で、全然35なんですけど、
このままずっともし行ってったら、
あるふとした弾みで、自分で自分のこと、
「あれ? 嫌なジジイかも」って
思うかもしれないなって、ちょっと思ってて。 |
糸井 |
うーん、それはね、
人にも何回も質問したことあるんだけど、
そう思う人は、ならないみたいね。 |
堺 |
そうですか。 |
糸井 |
そういうことが気になる人はならないみたい。
堺くん、大丈夫だよ。
全然大丈夫だと思うよ。 |
堺 |
ありがとうございます。 |
糸井 |
で、嫌なジジイもね、
思えば俺も心配したけど、大丈夫かもしれない。
自分の本当の力を発揮できるっていう場所が
減っていくんです、年取ると。
今日も、さっき会ってた人は
「65を過ぎると、人はばったり
仕事頼んでこなくなるぞ」って
山口瞳さんに言われたって言ってたんです(笑)。 |
堺 |
(笑)へ〜え。 |
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糸井 |
「60はあるんだけど、65を過ぎると、
人はばったり頼まなくなるぞ」って言われたって。
で、山口瞳さんは
「俺のことだけだと思うかもしれないけど、
吉行淳之介だってそうだ」って言ったらしいですよ。
仕事って知らず知らずに、
相手との関係で決まるから、
偉い人の所に訪ねてくる
20歳の子なんかいないんですよね。
「堺雅人、俺、20歳の時から知ってるんだよ」
って、その20歳の子に
紹介してくれるおじさんがいたとしても、
その人も引退すると、
「堺さんって偉すぎて、ぼくはちょっとね」
ってなるんです。 |
堺 |
うんうんうん。 |
糸井 |
そうすると、もう仕事ないんですよ、きっと。 |
堺 |
ですね。 |
糸井 |
で、あらゆる世界でそういうことがあるわけで。
まあ、景気も関係するし、
年取った時に自分の仕事する場所っていうのは、
自然に減っていくんだと思うんですよね。
で、減っていってない振りをしなきゃならない、
っていう見栄の張り方があるわけで。 |
堺 |
うんうん。 |
糸井 |
みんなそういう顔してるんですよ。
本当はなくなりますよ、自然に。
老衰のように。
ただ大事にしてくれる人っていうのは
混じってるから、
どこかの顧問をしたり、
先生って呼ばれながら、
「一応見るだけ見てください」
っていう仕事はあるかもしれない。
でも、その人は、
偉いっていう印をあちこちに残すための仕事を
しないといけないんですよね。 |
堺 |
うんうんうん。 |
糸井 |
で、それ、俺は嫌だなあ、と。
現役感があって、若い人と平気で、
「よーい、どん」って競争できたり、
「俺はかなわない」って言ってみたりっていうのを
正直に言うには、もう俺の場はなくなるな
っていうのを先のことで考えたんですよ。
で、偉ぶって、
「なんでハイヤー来ないんだ」
っていうような形で
自分の顧問料を下げさせないみたいにする
テクニックは俺にはないから。
ないし、嫌だから。 |
堺 |
うんうんうん。 |
糸井 |
そっちに行かないようにするには、
どうしたらいいだろうっていうことを、
もう心配しとこうと思ったんですよ。 |
堺 |
その時、40? |
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糸井 |
43、4で。
で、さあ、大変だと思って、釣りを始めたの。
始めたら、何もかも準備全部自分でしなきゃならない。
釣りの現場では誰も俺を大事になんかしてくれない。 |
堺 |
(笑)うん。 |
糸井 |
で、大会なんか出ると、
本当によく語ることだけど、
朝早くから待ってて、順番にゼッケン貰って、
俺の前にいるのも学生だし、
その前にいるのは高校生かもしれないし、
じいさんいるし、みたいな所でゼッケンして、
「はい、1,500円ね」って払って、
「よーい、どん」って言って出ていって。
で、勝ったり負けたり、
釣れたり釣れなかったり、
全くみんな同じですよね。 |
堺 |
そうですね。 |
糸井 |
で、釣れなかった時には、本当に悔しい。
釣りで、大学生の兄ちゃんと一緒に
悔しがったり泣いたりしてるっていうのが、
なんか、戻してくれたんです。自分をね。
あ、ここからできるじゃんって思ったの。
で、運転もぼくは自分ですから、
陽に灼けた目玉とかって、
涙が出てしょうがないんですよ。 |
堺 |
へ〜え。 |
糸井 |
1日中釣りしてて、
帰りはもう泣きながら帰ってくるんです。 |
堺 |
(笑)。 |
糸井 |
疲れてて眠いし、渋滞だしって、
もう40いくつの人がやってるわけだから。
で、友達連れて行く時には、
道具の手配とかするわけじゃない?
全部自分でやってるっていうのは、
趣味だからできたんですけど、
「俺、できる」って思って。
で、仕事でも、地面から1個ずつやっていくことが
できるなと思って、インターネットを始めたんですよ。 |
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堺 |
つながってるんですね。 |
糸井 |
釣りを本気でやったおかげで
平気で若い子に「バカ」とか言い合える関係を
もう1回持てるようになって。
あれやってなかったら、俺の年だと
もう本当に顧問ですよね。
よくまあ、先達が、
「山は登るのは簡単だけど降りるのは難しい」
って言うけど、本当にそう。
落下傘つかって一気におりでもしない限り。 |
堺 |
ほぉー。 |
糸井 |
みんな難しがってますよ。
それは役者でもそうですよ。
だって、人気者になるし、
偉くなるに決まってるもん。 |
堺 |
そうですね。 |
糸井 |
「こんにちは」って言うと、
「キャーッ」とか言われるわけですね。
戻れないんだもん、それ。
で、「キャーッ」って言った人に
怒ってもしょうがないし。 |
堺 |
(笑)ねえ。映画の舞台挨拶なんて
「キャーッ」って言ってよろこんでもらうために
挨拶してるわけですから。 |
糸井 |
そうそうそう。そうなんですよ。
で、そう、諍いとか起こってたりね。
「私は何の時代からファンでした」とかね。
「まあ、まあ」なんて言って。見苦しいよね。 |
堺 |
そうですね。そういう人たちの期待で、
やらなくてもいいダイエットとかしたり、
「俺はいいけど、俺のファンが許さねえ」
なんて言うようになったりしたら‥‥ |
糸井 |
下手したらなりますよね。
でも、それはそれで、
本職の外側にある仕事ですから、
それは仕事ですよね。
でも「そこは降りる」っていう仕事は、
ないんですよ。 |
堺 |
ふ〜ん。 |
糸井 |
例えば作家が本を書かずに講演を始めた、
なんていう時は、
それは降りてるんだろうか、
降りてないんだろうか、わからないですよね。
降りながらの講演会もあるかもしれないですよね。 |
堺 |
降りながら講演、そうかもしれないですね。
純喫茶が焼きうどん始めた、
みたいなもんですよね。 |
糸井 |
見事だなと思うのは、谷川俊太郎さんが、
息子さんの谷川賢作さんと一緒に
詩を読んでピアノ弾くっていうのを、
楽しんでやり始めた。
「ぼくはタバコ屋の看板娘の役だ」って言って。
もう見事ですよね。
詩集も出してるし、
『LIFE』にも原稿書いてくれたりするし、
本気でやれることばっかり探してるんですよね。
そういう例を見てると、やっぱりいいなあ、と。 |
堺 |
うーん! |
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糸井 |
先達の中にはやっぱりそういう
キラッと輝くものがありますよね。 |
堺 |
現役感というかね。それはそうですよね。 |
糸井 |
役者はもう上がるに決まってるタイプの職業だから、
変ですよね。
誰かの言うことを実現するっていう商売ですからね。
この話は、堺くんに、
追跡調査で聞いてみたいですよね。
あの頃こう言ってたけど、
今こう思ってます、とかね。 |
堺 |
(笑)そうですね。 |
糸井 |
日記とかつけておいて欲しいですよ、本当に。 |
堺 |
だんだん年取るに連れて、
文体がしっかりしてくるんだろうな。
志賀直哉みたいな文章に
なってくるんだろうな、きっと。
(つづきます) |