楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第8回 真ん中に空虚を置く。
糸井 この1年ほど、堺くんは
いっぱい映画やったんだよね。
そのいっぱいぶりっていうのは、
おもしろいんだろうなと思ったけど。
どうだった?
おもしろかったですね。
でもいっぱいっていうほどでもなくて。
糸井 数だけでもそうとうあるでしょ?
5本とか。
多いという印象になるのは、
一昨年やった映画が去年公開されて、
そこで盛大に褒められたんですよ。
『ジャージの二人』と、
『アフタースクール』、
『クライマーズ・ハイ』、
その3本は一昨年撮っていたんです。
糸井 一昨年やったんですか。
全部時間のかかる映画ですね。
そうですね。
昨年はそれで盛大に褒められた年でしたから、
なんかそのご褒美じゃないけど、
これもやらせてあげるよ、
みたいな感じなのかな、と思ってて。
そこから『ジェネラル・ルージュの凱旋』っていう、
救命救急の話があって、
この『南極料理人』があって、
『クヒオ大佐』っていう結婚詐欺師があって、
今『ゴールデンスランバー』っていう
仙台で撮ってるやつがあるんです。
だから、今年は4本ですかね。
糸井 今バッと並んだのは7本か、じゃあ。
あ、そうですね。
その間、大河ドラマの『篤姫』があって。
糸井 あ、そうか、そうか。
『篤姫』もやってよかったよね。
はい!
糸井 みんな、『篤姫』は
楽しそうに語るよね。
そうですね。
樋口可南子さんと
お会いできなかったんですけど。
最後にナレーションにいらっしゃる時に
ちょっとご挨拶したぐらいで。
糸井 間に宮崎あおいちゃんがいて、
「堺さんがね」っていう話を、
かみさんが聞いたりしてて、
嬉しそうにしてましたね。
へ〜え! あれは本当に楽しかった。
糸井 仲がいいね、みんなね。
そうですね。『新選組!』もそうですけど、
なんか仲いい時ってありますね。
糸井 ああいうのはうらやましい。
体ごと仲がいいじゃないですか。
(笑)体ごとって!
糸井 いや、別に肉体関係っていう意味じゃなくて。
だって、かりそめに夫婦だったりするわけじゃない?
そうですね。そうです。
糸井 もう謎ですよね。
そうですね。そうか、
かりそめに夫婦ですもんね。確かにそうです。
糸井 山本夏彦っていう人のエッセイ集で、
『恋に似たもの』っていうのがあって、
それは娼婦の話なんです。
つまり、吉原とかさ、ああいう場所にあるのは
恋に似たものだったりして。
その「似たもの」っていう時の
恋の位置と、「似たもの」の位置の、
この微妙な──、
どっちも大したことないとも言えるし。
「みたいなもの」の辺りを考える人の
凄みってあると思うんです。
役者さんは「夫婦に似たもの」をやってるわけで。
そうですね。
糸井 瞬間的には誰より大事な人だって
思う時がありながら、
「じゃあ、お疲れ様でした」って言うわけでしょ?
そうですね。
糸井 そんな、病気になっちゃうよー、
みたいな商売じゃないですか。
隣で(お芝居で)食事している人を、
無条件に受け入れてしまう瞬間とかがあったり。
あおいちゃんの、カメラが回った時の
無防備な瞳を浴び続けることによって起きる、
自分の溶け方というか。
糸井 起こっちゃうんだね。
『篤姫』は本当そうでしたね。
糸井 おもしろいですね。反射なんですか。いわば。
いや、一途さなのかな。
糸井 すごいな、その話はすごいよね。
『新撰組!』の時に本当に思ったのは、
香取慎吾を愛する山本耕史の一途さなんですよね。
あれだと思うんです、ぼくはあの作品は。
糸井 はぁ〜!
そういった意味で言ったら、
宮崎あおいが篤姫の目を通そうとする、
あの一途さというか、
それがもうちょっと尋常じゃなかったんでしょうね。
糸井 「素直」とかね、
そういうような言葉でぼくらは思うんだけど、
これ、堺くんは知ってるっけ、文章で書いたっけな?
うちの京都の家に宮崎あおいちゃんが1回来て、
犬がいるじゃないですか。その犬に対して、
「なんかするんですか」って言うから、
「しないことはない」って、
うちのかみさんが一通りの芸をさせたんですよ。
「お手」「お代わり」「伏せ」とかなんかね。
そうしたら、宮崎あおいちゃんが
そのままの間(ま)と声の出し方で
犬に接したもんだから、
犬は同じことやったんですよ。
え?!
糸井 で、あ、この子はそうやってるんだなと。
ああー、ああ、ああ。
糸井 恐ろしいとも言えるし、
天然とも言えるし。
そうですね。
糸井 それができちゃったら、
何でもできるじゃない、みたいな。
聞いてすぐできるっていう、
口伝えっていうんですかね。ありますね。
糸井 それが犬にも通用しちゃったんですよ。
(笑)そうですね。そういうことですね。
糸井 びっくりした。
で、そんな子が混じってる場所で、
それぞれに役者さんが集まって、
いろんなこと考えてるわけでしょ。
最高に働く人が真ん中にいるっていう、
そのポジショニングの妙も
あるかもしれないですよね。
そこが、なんか司令塔になっちゃった、みたいな。
糸井 「それをキャスティングした人はすごいね」
って俺、言ったんだけど。
そうですね。
糸井 真ん中に空虚を置くっていうかさ。
そうですね。
これから増えてくるのかもしれないですね。
糸井 そういうことが?
真ん中に、本当にゼロを置く。
糸井 東京の構造じゃないですか、
真ん中に皇居があって。
ああ、そうか。そうか。
糸井 誰も入れない場所で。
そうか。
糸井 象徴っていうものがあるんだから、あそこに。
『LIFE』っていう本もそうですよ。
だって、「すごいメニューです」って
一言もないんですからね。
(笑)。
糸井 「すごくないメニューです」
って言ってるところから始まってるわけでしょう?
真ん中ゼロなんですよ。
そうか。でも、これ、エッセイ、全部泣けますね。
糸井 泣けますか(笑)。
全部泣けるなあと思って。
糸井 ああー。変ですよ、みんなね。
よしもとばななも言ってますけど、
なんか裸で書いてますよね。
そうそう。ぼく、これ読んで、
ちょっと食べ物エッセイ、
真似っこして書きたくなりましたもん。


(つづきます)

2009-08-26-WED


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN