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糸井 |
この1年ほど、堺くんは
いっぱい映画やったんだよね。
そのいっぱいぶりっていうのは、
おもしろいんだろうなと思ったけど。
どうだった? |
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堺 |
おもしろかったですね。
でもいっぱいっていうほどでもなくて。 |
糸井 |
数だけでもそうとうあるでしょ?
5本とか。 |
堺 |
多いという印象になるのは、
一昨年やった映画が去年公開されて、
そこで盛大に褒められたんですよ。
『ジャージの二人』と、
『アフタースクール』、
『クライマーズ・ハイ』、
その3本は一昨年撮っていたんです。 |
糸井 |
一昨年やったんですか。
全部時間のかかる映画ですね。 |
堺 |
そうですね。
昨年はそれで盛大に褒められた年でしたから、
なんかそのご褒美じゃないけど、
これもやらせてあげるよ、
みたいな感じなのかな、と思ってて。
そこから『ジェネラル・ルージュの凱旋』っていう、
救命救急の話があって、
この『南極料理人』があって、
『クヒオ大佐』っていう結婚詐欺師があって、
今『ゴールデンスランバー』っていう
仙台で撮ってるやつがあるんです。
だから、今年は4本ですかね。 |
糸井 |
今バッと並んだのは7本か、じゃあ。 |
堺 |
あ、そうですね。
その間、大河ドラマの『篤姫』があって。 |
糸井 |
あ、そうか、そうか。
『篤姫』もやってよかったよね。 |
堺 |
はい! |
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糸井 |
みんな、『篤姫』は
楽しそうに語るよね。 |
堺 |
そうですね。
樋口可南子さんと
お会いできなかったんですけど。
最後にナレーションにいらっしゃる時に
ちょっとご挨拶したぐらいで。 |
糸井 |
間に宮崎あおいちゃんがいて、
「堺さんがね」っていう話を、
かみさんが聞いたりしてて、
嬉しそうにしてましたね。 |
堺 |
へ〜え! あれは本当に楽しかった。 |
糸井 |
仲がいいね、みんなね。 |
堺 |
そうですね。『新選組!』もそうですけど、
なんか仲いい時ってありますね。 |
糸井 |
ああいうのはうらやましい。
体ごと仲がいいじゃないですか。 |
堺 |
(笑)体ごとって! |
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糸井 |
いや、別に肉体関係っていう意味じゃなくて。
だって、かりそめに夫婦だったりするわけじゃない? |
堺 |
そうですね。そうです。 |
糸井 |
もう謎ですよね。 |
堺 |
そうですね。そうか、
かりそめに夫婦ですもんね。確かにそうです。 |
糸井 |
山本夏彦っていう人のエッセイ集で、
『恋に似たもの』っていうのがあって、
それは娼婦の話なんです。
つまり、吉原とかさ、ああいう場所にあるのは
恋に似たものだったりして。
その「似たもの」っていう時の
恋の位置と、「似たもの」の位置の、
この微妙な──、
どっちも大したことないとも言えるし。
「みたいなもの」の辺りを考える人の
凄みってあると思うんです。
役者さんは「夫婦に似たもの」をやってるわけで。 |
堺 |
そうですね。 |
糸井 |
瞬間的には誰より大事な人だって
思う時がありながら、
「じゃあ、お疲れ様でした」って言うわけでしょ? |
堺 |
そうですね。 |
糸井 |
そんな、病気になっちゃうよー、
みたいな商売じゃないですか。 |
堺 |
隣で(お芝居で)食事している人を、
無条件に受け入れてしまう瞬間とかがあったり。
あおいちゃんの、カメラが回った時の
無防備な瞳を浴び続けることによって起きる、
自分の溶け方というか。 |
糸井 |
起こっちゃうんだね。 |
堺 |
『篤姫』は本当そうでしたね。 |
糸井 |
おもしろいですね。反射なんですか。いわば。 |
堺 |
いや、一途さなのかな。 |
糸井 |
すごいな、その話はすごいよね。 |
堺 |
『新撰組!』の時に本当に思ったのは、
香取慎吾を愛する山本耕史の一途さなんですよね。
あれだと思うんです、ぼくはあの作品は。 |
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糸井 |
はぁ〜! |
堺 |
そういった意味で言ったら、
宮崎あおいが篤姫の目を通そうとする、
あの一途さというか、
それがもうちょっと尋常じゃなかったんでしょうね。 |
糸井 |
「素直」とかね、
そういうような言葉でぼくらは思うんだけど、
これ、堺くんは知ってるっけ、文章で書いたっけな?
うちの京都の家に宮崎あおいちゃんが1回来て、
犬がいるじゃないですか。その犬に対して、
「なんかするんですか」って言うから、
「しないことはない」って、
うちのかみさんが一通りの芸をさせたんですよ。
「お手」「お代わり」「伏せ」とかなんかね。
そうしたら、宮崎あおいちゃんが
そのままの間(ま)と声の出し方で
犬に接したもんだから、
犬は同じことやったんですよ。 |
堺 |
え?! |
糸井 |
で、あ、この子はそうやってるんだなと。 |
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堺 |
ああー、ああ、ああ。 |
糸井 |
恐ろしいとも言えるし、
天然とも言えるし。 |
堺 |
そうですね。 |
糸井 |
それができちゃったら、
何でもできるじゃない、みたいな。 |
堺 |
聞いてすぐできるっていう、
口伝えっていうんですかね。ありますね。 |
糸井 |
それが犬にも通用しちゃったんですよ。 |
堺 |
(笑)そうですね。そういうことですね。 |
糸井 |
びっくりした。
で、そんな子が混じってる場所で、
それぞれに役者さんが集まって、
いろんなこと考えてるわけでしょ。 |
堺 |
最高に働く人が真ん中にいるっていう、
そのポジショニングの妙も
あるかもしれないですよね。
そこが、なんか司令塔になっちゃった、みたいな。 |
糸井 |
「それをキャスティングした人はすごいね」
って俺、言ったんだけど。 |
堺 |
そうですね。 |
糸井 |
真ん中に空虚を置くっていうかさ。 |
堺 |
そうですね。
これから増えてくるのかもしれないですね。 |
糸井 |
そういうことが? |
堺 |
真ん中に、本当にゼロを置く。 |
糸井 |
東京の構造じゃないですか、
真ん中に皇居があって。 |
堺 |
ああ、そうか。そうか。 |
糸井 |
誰も入れない場所で。 |
堺 |
そうか。 |
糸井 |
象徴っていうものがあるんだから、あそこに。
『LIFE』っていう本もそうですよ。
だって、「すごいメニューです」って
一言もないんですからね。 |
堺 |
(笑)。 |
糸井 |
「すごくないメニューです」
って言ってるところから始まってるわけでしょう?
真ん中ゼロなんですよ。 |
堺 |
そうか。でも、これ、エッセイ、全部泣けますね。 |
糸井 |
泣けますか(笑)。 |
堺 |
全部泣けるなあと思って。 |
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糸井 |
ああー。変ですよ、みんなね。
よしもとばななも言ってますけど、
なんか裸で書いてますよね。 |
堺 |
そうそう。ぼく、これ読んで、
ちょっと食べ物エッセイ、
真似っこして書きたくなりましたもん。
(つづきます) |