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糸井 |
さっきの品の話に戻るんだけどさ、
よしもとばななのエッセイに
死人が出るっていうことについて、
お客さんはどう思うだろうっていうことを
一切考えないっていうところまで、
死っていうものをなんでもなく扱える豊かさを、
よしもとばななはもう持っちゃったんですよね。
「大丈夫に決まってる」っていう
自信があるんですよ、多分。
だから、平気なんですよ。
仮にここでまあ、「金玉」って言いますけど、
「金玉」って平気で言えるところまで
扱えるようになった「金玉」っていうのは、
他の言葉と同じなんですよね。
でも、それが特殊な言葉だと思って使った場合には
使っちゃだめなんですよね。 |
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堺 |
うんうんうんうん。 |
糸井 |
この辺り、相当なんですよ(笑)。 |
堺 |
でも、なんだろう、
ちょっと変化球かもしれないですけど、
本人が「私、使えるよ」って言ってて、
本人が使えてないことに気付いてない、
ヒヤヒヤな瞬間はあったりしますよね。 |
糸井 |
ありますよね。それもおもしろいですよね。
人間っぽいですね、それは。 |
堺 |
なんかね。で、ばななさんは「死」が扱えて、
みんなができて、それが嘘じゃないっていう、
すごく美しい3拍子が揃ってて。 |
糸井 |
バランスですよね。だから、
これがあるんだから私も使っていいんだ、
と思った人にはもう、
もう「死」は使えないですよね。
料理本で「死」が書いてあるものって、
俺、世の中にないと思う、なかなか。 |
堺 |
しかも、すごくきれいな落ち着き方で。 |
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糸井 |
よかったねぇー。 |
堺 |
うん。これ読んで、
でも、それやろうと思ったら、
本当に「金玉」には10年早い、
みたいな話になりますよね。
「お前は『金玉』はまだ言えない」みたいなね。 |
糸井 |
「金玉」は言えない。30代ではね。 |
堺 |
30代では言えない(笑)。 |
糸井 |
こういう場所でやっと使えるようになったからね。 |
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堺 |
(笑)。 |
糸井 |
一般的な場所ではね。
まあ、でも人間形成次第ではね、
1年以内に言えるようになるかもしれないから。 |
堺 |
1年前はわからなくても。 |
糸井 |
磨いて欲しいですよね。 |
堺 |
(笑)はい。 |
── |
あの。 |
ふたり |
はいはい。 |
── |
そろそろ、
ごはんを食べませんか。 |
糸井 |
食べますか!
冷ましちゃったですね。 |
飯島 |
あ、いいんです。冷めても大丈夫。 |
糸井 |
俺はね、予感してたのよ、
この人と会うと話が終らないって。 |
── |
ここまでで、
もう75分ぐらいしゃべってますよ。 |
糸井 |
そうですか。 |
堺 |
そんなに語りましたか。 |
── |
もう十分すぎぐらいですが、
料理をいただきながら、
お話しください。 |
糸井 |
はい、では、いただきます。 |
堺 |
いただきまーす。 |
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── |
(ほっ、やっと食べはじめてくれた‥‥) |
堺 |
この、おひたしに乗っている
白いのは大根ですか。 |
榑谷 |
フワフワしたのは大根おろしです。 |
堺 |
すごい、柑橘の味がさっぱりして。 |
糸井 |
おもしろい。おもしろい(笑)。
これ、どこかに見本がある食べ物なの? |
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飯島 |
これは、大根おろしとすだちを
おひたしに混ぜたんですが、
ヒントは、さんまを焼いたのを上に乗せた
炊き込みご飯を作った時の、添え物です。 |
糸井 |
発明? |
飯島 |
はい。 |
堺 |
うん、おいしい、これ。 |
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飯島 |
これは納豆サラダです。
堺さんのおみやげの
天狗納豆を使いました。 |
糸井 |
コールスロー的な? |
飯島 |
そうですね。 |
糸井 |
(口に入れて)ああっ! |
── |
「ああっ」って。 |
糸井 |
あ、あのね、さっきちょっと話題にも出た
『篤姫』に出てた、うちにいる人が、
「余るものがあったら、ください」って。 |
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飯島 |
はい。わかりました! |
── |
(笑)。 |
糸井 |
で、「ないかもしれないよ」って言ったら、
「あったら」って、珍しく遠慮がちに。 |
一同 |
(笑)。 |
堺 |
納豆コールスロー、これおいしいですね。 |
糸井 |
旨いね。これ、醤油も入ってるんじゃない? |
飯島 |
そうです。ちょっとだしを効かせた
醤油をかけて、ポン酢に混ぜて。 |
糸井 |
なるほどね。 |
飯島 |
マヨネーズと混ぜながら食べると、
ちょっと酸っぱいところもあって。 |
堺 |
うん。いけますね。
ぼく、今日は本当に楽しみにしてたんです。
京都で散々食ったじゃないですか。 |
糸井 |
食った(笑)。 |
堺 |
あの時に、食いながら
糸井さんって、散々しゃべったじゃないですか。 |
糸井 |
うん。 |
堺 |
ね。まあ、「役者って」っていう言い方は
変なんですけど、
食べ物のことを「消えもの」っていうんですけどね、
食べながらしゃべるっていうのが難しいんですよ。 |
糸井 |
そうらしいですね。よく感心されます。 |
堺 |
なんであれだけの台詞量でしゃべりながら、
あれだけの量を食えるんだっていう謎を、
今日はね。 |
糸井 |
食いたい一心じゃないですか。 |
堺 |
あと、食べ物に嘘がないということですね。 |
糸井 |
この間、ぼくはよしもとばななに、
食べながらしゃべれるって感心されたんですよ。 |
堺 |
読んだ、読んだ。 |
糸井 |
うーん。考えてもいなかったんですよ、
そんなこと(笑)。 |
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堺 |
あの、俳優的な見地から言わせてもらうと、
口を閉じて不明瞭な台詞になることを
恐れないですね。 |
糸井 |
(笑)怖れないですね。あぁー。 |
堺 |
それが1個、今ぼくが学んだことです。 |
糸井 |
でも、タコは困ります。 |
堺 |
タコは噛みたいですか。 |
糸井 |
タコは難しいです、
しゃべりながら食べるのは。
あえて言えば。
でも、しゃべってるあいだあいだに
食べればいいんだから。 |
堺 |
(笑)うんうん。
これ、バジルがすごい効いてて、おいしい。 |
糸井 |
たこでも、しゃべりって間があるから、
そこで噛んでればいいんじゃないですか。 |
堺 |
考えてる振りをする、考えてる時に噛む? |
糸井 |
あ、そうか、台詞の場合には、
言うべき場所とか間が全部決められてるけど、
一般的に食いながらしゃべるには、自分の自由だから、
なんとでもなりますよね。 |
堺 |
そうか。
次の台詞言わなきゃいいだけの話ですもんね。
食べたい時には。やります、これ。 |
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糸井 |
初めてですよ、
「なんでですか」って言われたのは。 |
堺 |
そうですか。
(つづきます) |