楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第9回 死人と金玉。
糸井 さっきの品の話に戻るんだけどさ、
よしもとばななのエッセイに
死人が出るっていうことについて、
お客さんはどう思うだろうっていうことを
一切考えないっていうところまで、
死っていうものをなんでもなく扱える豊かさを、
よしもとばななはもう持っちゃったんですよね。
「大丈夫に決まってる」っていう
自信があるんですよ、多分。
だから、平気なんですよ。
仮にここでまあ、「金玉」って言いますけど、
「金玉」って平気で言えるところまで
扱えるようになった「金玉」っていうのは、
他の言葉と同じなんですよね。
でも、それが特殊な言葉だと思って使った場合には
使っちゃだめなんですよね。
うんうんうんうん。
糸井 この辺り、相当なんですよ(笑)。
でも、なんだろう、
ちょっと変化球かもしれないですけど、
本人が「私、使えるよ」って言ってて、
本人が使えてないことに気付いてない、
ヒヤヒヤな瞬間はあったりしますよね。
糸井 ありますよね。それもおもしろいですよね。
人間っぽいですね、それは。
なんかね。で、ばななさんは「死」が扱えて、
みんなができて、それが嘘じゃないっていう、
すごく美しい3拍子が揃ってて。
糸井 バランスですよね。だから、
これがあるんだから私も使っていいんだ、
と思った人にはもう、
もう「死」は使えないですよね。
料理本で「死」が書いてあるものって、
俺、世の中にないと思う、なかなか。
しかも、すごくきれいな落ち着き方で。
糸井 よかったねぇー。
うん。これ読んで、
でも、それやろうと思ったら、
本当に「金玉」には10年早い、
みたいな話になりますよね。
「お前は『金玉』はまだ言えない」みたいなね。
糸井 「金玉」は言えない。30代ではね。
30代では言えない(笑)。
糸井 こういう場所でやっと使えるようになったからね。
(笑)。
糸井 一般的な場所ではね。
まあ、でも人間形成次第ではね、
1年以内に言えるようになるかもしれないから。
1年前はわからなくても。
糸井 磨いて欲しいですよね。
(笑)はい。
── あの。
ふたり はいはい。
── そろそろ、
ごはんを食べませんか。
糸井 食べますか!
冷ましちゃったですね。
飯島 あ、いいんです。冷めても大丈夫。
糸井 俺はね、予感してたのよ、
この人と会うと話が終らないって。
── ここまでで、
もう75分ぐらいしゃべってますよ。
糸井 そうですか。
そんなに語りましたか。
── もう十分すぎぐらいですが、
料理をいただきながら、
お話しください。
糸井 はい、では、いただきます。
いただきまーす。
── (ほっ、やっと食べはじめてくれた‥‥)
この、おひたしに乗っている
白いのは大根ですか。
榑谷 フワフワしたのは大根おろしです。
すごい、柑橘の味がさっぱりして。
糸井 おもしろい。おもしろい(笑)。
これ、どこかに見本がある食べ物なの?
飯島 これは、大根おろしとすだちを
おひたしに混ぜたんですが、
ヒントは、さんまを焼いたのを上に乗せた
炊き込みご飯を作った時の、添え物です。
糸井 発明?
飯島 はい。
うん、おいしい、これ。
飯島 これは納豆サラダです。
堺さんのおみやげの
天狗納豆を使いました。
糸井 コールスロー的な?
飯島 そうですね。
糸井 (口に入れて)ああっ!
── 「ああっ」って。
糸井 あ、あのね、さっきちょっと話題にも出た
『篤姫』に出てた、うちにいる人が、
「余るものがあったら、ください」って。
飯島 はい。わかりました!
── (笑)。
糸井 で、「ないかもしれないよ」って言ったら、
「あったら」って、珍しく遠慮がちに。
一同 (笑)。
納豆コールスロー、これおいしいですね。
糸井 旨いね。これ、醤油も入ってるんじゃない?
飯島 そうです。ちょっとだしを効かせた
醤油をかけて、ポン酢に混ぜて。
糸井 なるほどね。
飯島 マヨネーズと混ぜながら食べると、
ちょっと酸っぱいところもあって。
うん。いけますね。
ぼく、今日は本当に楽しみにしてたんです。
京都で散々食ったじゃないですか。
糸井 食った(笑)。
あの時に、食いながら
糸井さんって、散々しゃべったじゃないですか。
糸井 うん。
ね。まあ、「役者って」っていう言い方は
変なんですけど、
食べ物のことを「消えもの」っていうんですけどね、
食べながらしゃべるっていうのが難しいんですよ。
糸井 そうらしいですね。よく感心されます。
なんであれだけの台詞量でしゃべりながら、
あれだけの量を食えるんだっていう謎を、
今日はね。
糸井 食いたい一心じゃないですか。
あと、食べ物に嘘がないということですね。
糸井 この間、ぼくはよしもとばななに、
食べながらしゃべれるって感心されたんですよ。
読んだ、読んだ。
糸井 うーん。考えてもいなかったんですよ、
そんなこと(笑)。
あの、俳優的な見地から言わせてもらうと、
口を閉じて不明瞭な台詞になることを
恐れないですね。
糸井 (笑)怖れないですね。あぁー。
それが1個、今ぼくが学んだことです。
糸井 でも、タコは困ります。
タコは噛みたいですか。
糸井 タコは難しいです、
しゃべりながら食べるのは。
あえて言えば。
でも、しゃべってるあいだあいだに
食べればいいんだから。
(笑)うんうん。
これ、バジルがすごい効いてて、おいしい。
糸井 たこでも、しゃべりって間があるから、
そこで噛んでればいいんじゃないですか。
考えてる振りをする、考えてる時に噛む?
糸井 あ、そうか、台詞の場合には、
言うべき場所とか間が全部決められてるけど、
一般的に食いながらしゃべるには、自分の自由だから、
なんとでもなりますよね。
そうか。
次の台詞言わなきゃいいだけの話ですもんね。
食べたい時には。やります、これ。
糸井 初めてですよ、
「なんでですか」って言われたのは。
そうですか。


(つづきます)

2009-08-27-THU


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN