堺屋太一さん、
どうしましょう?

経済企画庁に出張しての鼠穴対談

第7回 クリエイティブのプルを、
    インパクは、どうつくるのか?


糸井 ぼくが意識的にやっていることなんですけど、
1番おもしろいのは、
やっぱり堺屋さんのお感じになっていることと
近いんですけど、
「何を乗っけるか?」だと思います。
つまり、ぼくはお皿には興味ないんです。
料理を食うんだろ?うまかったかまずかったか、だ。

なのに今、インターネットの本を何冊読んでも、
「お皿」と「お皿を運ぶシステム」と、
「お皿にマークを入れる権利の奪いあい」と
まだ「数」のことを言っているんですよ。
これが悔しくて。

ほんとに、おおげさに言えば、日本を支えるのは、
クリエイティビティしかない。
貧乏だし、貧乏ほど頭使うわけですから。
日本というのは、土地も豊かでもないし、
特にとりえのないところですから。

堺屋さんのおっしゃったなかで
ぼくが1番おもしろいのは
「日本には観光客が来ない」という言いかた。
あれはすごい好きだったんですよ!
国際化と言っているのに観光客の来ない国に
繁栄があるはずがない、という。
観光客は何が呼ぶかというと、
文化遺産じゃなくて、これからはソフトである。
なのに、新しいメディアがある、
インターネットというすごいメディアがあるのに、
まだお皿のことだとか運び方をやってる。
俺はそこのところで、
「乗せるもの以外には何にもわからなくていい」
という立場にいたいんです。

今まで、本を出しても3000部ですね、純文学は。
そういうひとたちの余剰エネルギーが、
どうやって集められるかというのに、
今のぼくは個人的に1番興味がある。
つまり、絵を描くひとも、可能性はあるのに
ステータスはないというひとたちが、
今売れる方法はないんですよ。
でも、インターネットなら、ある。

企業がそのひとに対して、
「じゃ、君、うちで踊ってくれないか」
と言うのかといったら、
絵を描くひとのための費用はないわけだから。
ぼくはつくる立場にいながら、自分も育ちたい。

それをやる場所として、
ぼくは今「ほぼ日刊イトイ新聞」をやってるんです。
他に、ない。悔しいんです。
つまり、経済的にはお金稼いだぶんを
入れていくしかないんだけど、
こんなばかなことをやっているひとはいないですね。
1個だけ例を見つけたんですね。
菊池寛さん。
彼は大衆小説で当たって、
結局文士の活躍の場を、文芸春秋にしたんです。
あれを、誰がやってくれるだろう?・・・
俺が、いる。でも、ぼくみたいな
個人の貧乏なひとがやるんじゃなくて、
ある程度、少しでも余裕のあるひとが
ビジネスになるかもしれないと思って、
クリエイティブのプルをどれだけつくっていけるかが、
おそらく今度のインパクに
非常に大きく関わってくる部分だと思います。
堺屋 はい。
糸井 つまり、大変失礼な言い方になりますけど、
堺屋さんがおっしゃられているなかで
シンボルになっているのが
いつも、温泉と恐竜と蝶々。
反復なさっていると思う。
非常にシンボリックですから。
ただ、それはどれもストック型のシンボルなんです。
わかりやすいからシンボルにしますけど、
フロー型のソフトを、
どうしたら「インパク」につれてこられるか。
これが重要だと思うんです。
堺屋 今アメリカでは「エクスペリエンス・エコノミー」、
つまり「経験経済」と言われています。
これは、何が影響を与えられるか、
何から影響を受けるか、という問いに対して、
「ひとつ思い出をつくるため」というんです。
みんながイタリアに海外旅行に行って
何万ドルも何千ドルもつかうのは
たいへんばかげている、それをね、
生涯語り伝える思い出になるんだったら・・・。
こうね、インパクというのはね、ぜひ、
そういう累積してゆくものを考えたいですね。
理想の温泉なんかそうなんですよね。
3000通の応募者のなかには、
「夢の博物館」とかね。
これは「理想の博物館」ではないんです。
本当に見た夢を博物館にするんですよ(笑)。
糸井 横尾忠則さんの分野ですね。
堺屋 そうそう(笑)。
自分の見た夢を博物館にして、
それをジャンル分けすると、
人間はどんな夢を見るのかがわかる。
そういうような話があるんですね。
糸井 はじめて無意識が展示されるわけですね。
それはいいなあー。
堺屋 それをどうやって映像なりに載せられるかですよ。
絵でも描いてもらうとおもしろいですよね。
糸井 今までのイメージを踏襲したほうがわかりやすいのと、
わかりにくいけれどもやりたいことというのと、
ふたつの川が流れていると考えると、いいですねー。
堺屋 その川が、合流すればいいですよね。
・・・今日はどうも、ありがとうございました。
またお越しくださいね。
糸井 こちらこそ、ありがとうございました。
楽しかったです。


対談後に経済企画庁の女性スタッフたちに
サインを求められるdarling。
「いやあ、他の普通の会社とおんなじなんだね。
 よかったあー。経済企画庁はいいところですよ!
 建物がこういうふうだから緊張してたもん、俺。
 次はネクタイを外してまいりますっ」
それにしても、堺屋さん、懐の深いひとだったなあ。

(いったん終わります)

2000-04-04-TUE

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