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糸井 |
最後に、石川さんの写真集の話をしましょう。
先日、北極を撮った写真集
『POLAR』が出ましたけど、
石川さんの写真を見てると、
取捨選択どころか、もう、
選択肢がないような環境で撮ってますよね。
撮りようがない場所で
食い下がっているというか。 |
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石川 |
ああ。食い下がってます。 |
糸井 |
食い下がってるとしか
言いようがないですよね。
一面真っ白の雪原とか、
荒野とか、高山とか、
もう、被写体の選びようがない。 |
石川 |
そうですね。
だから、なにかあったら
絶対(シャッターを)押すという感じで。
もう、ほんとに、
「あ、あ、あ!」っていう感じで
びっくりしたら、押す。 |
糸井 |
そのときに石川さんが
びっくりしてるものって、
被写体というには、
大きすぎるものだったりしますよね。
もう、自分との関係が計りにくいくらい
大きなものとぶつかってるわけで。
それを見ると、すごいなぁ、
覚悟があるなぁ、と思うんですよ。 |
石川 |
でも、やっぱり、
びっくりするから撮るんですよ。
「わー、おっきいな!」
みたいな感じで撮ってるから。 |
糸井 |
ああー。 |
石川 |
「すっげーな!」
って言って撮ってるわけで。 |
糸井 |
そうか、そうか。 |
石川 |
なんとなく撮ることってあんまりなくて、
なにかが反応するから、押すんです。
「びっくりした!」とか、
「うわ、気持ち悪い!」とか
「おえっ!」とか「おわっ!」とか
「好きだ!」とか
そういうときですよね。 |
糸井 |
カメラを持ってなかったら、
それを感じなかった
という可能性もあります? |
石川 |
あるでしょうね。
カメラがないときは、
目の前の世界に無頓着、というか
意識的に知覚を閉ざしてしまって
まわりとの関わりが薄まる感じがあります。
これって写真病とでもいうのかな(笑)。
気持ち悪いものとかを
目にしないようにするかもしれないし、
意識的に道の端っこなんか、
見ないかもしれない。
カメラを持って、よーく見て歩いてるから、
「うわ、気持ち悪い!」みたいなものを
見つけることができたりする。 |
糸井 |
ああー。 |
石川 |
だから、ほんと、
カメラを持っててよかったですよ。
ぼくは、ただでさえ変な場所を旅してるのに
さらにそこでカメラも持ってるから
余計いろんな世界が見えてくる。
ぼくにとって、カメラは新しい世界と
出会わせてくれる大切な道具ですね。 |
糸井 |
でも、変なところを旅してるときは、
ものすごく過酷な場所にいる
ということでもありますよね。
写真を撮る以前に、
自分の命がかかってる状態というか。
そういうときは、写真どころじゃない、
ということもあるでしょう? |
石川 |
うーん、写真どころじゃない、
ということもありますけど、
でも、やっぱりカメラがないと
落ち着かない。
もう、つねに撮ってますね。
呼吸するように撮るしかないというか。 |
糸井 |
それは、なんだろう。
カメラが自分の脳のはみ出しちゃったもの、
みたいになってるんですかね。 |
石川 |
なんていうか、やっぱり、
シャッターを切るという行為は
凝り固まった自分のなかの世界を崩して、
新しい世界を受け入れるきっかけみたいな
感じがするんです。
こうやって、いま、この部屋を見渡してても
なにも特別には感じないんですけど、
カメラをもって、写真を撮ろうと思って見ていると
いろんな発見が出てくる。
そうすると、新しい世界と
何度も出会える感じがして。 |
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糸井 |
はぁー。
あの、楽器を弾ける人が
人の音楽を聴くときに、
ふつうの人とは
違う聴き方をするじゃないですか。
だからたぶん、「目で見る」ということも、
違う次元があるんでしょうね。 |
石川 |
ああ、そうかもしれないですね。 |
糸井 |
ぼくらには、石川さんに見えてるものが
見えてないんですよ、きっと。 |
石川 |
でも、それは人それぞれで、
糸井さんが見てるものを
ぼくは見てないだろうし、
同じだと思いますよ。 |
糸井 |
ああ、なるほど。
でも、目については、
そうとうな開きがあるような気がするなぁ。 |
石川 |
いろんな写真を見てるぶん、
違った勘は働いてるかもしれないですね。 |
糸井 |
石川さんは、これから、
どういうふうに撮っていくんですか。
また極地に行って撮ったりするんですか。 |
石川 |
極地も撮り続けていくと思いますが、
やっぱり当然ですけれど、
自分の興味のあるものだけを
撮っていきたいと思ってます。
東京でも、さっきお見せしたみたいな
ベンチのシリーズとか、
おもしろいなと思ったことがあれば
たぶん、撮り続けるでしょう。
もちろん旅に行っても
まだまだ撮っていくだろうし。 |
糸井 |
なんか、文章を書くのに近いですね。
その考え方ってね。 |
石川 |
ああ、そうですね。
文章も、ずっと書いてたから
ちょっとあるかもしれない。 |
糸井 |
このベンチのシリーズなんて、
ほんとに短編集みたいだもんね。 |
石川 |
ああ、なるほど。 |
糸井 |
そういう写真だと思うんですよね。
たぶん、カメラがなかったら、
石川さんという人はいなかったでしょうね。 |
石川 |
そうかもしれないですね。
ほんとにカメラに感謝してますよ。 |
糸井 |
うん。 |
石川 |
これだけ、新しい世界に出会って、
びっくりすることが多かったのは
やっぱりカメラがあったから。
ファインダーを通して世界と
向き合ってきたからこそ、
いろんなもの見つけられた、
という気持ちは、すごくありますね。
自分から湧き出しちゃうものをうまく
表出させてくれるのが、たまたま写真だった
というだけかもしれませんけど‥‥。
でも、やっぱり、
言葉ですくい取れない時間の束みたいなものを、
写真によってつかみとることが
できるんじゃないかっていう淡い期待もありつつ、
これからもカメラを片手に
歩き続けるんじゃないでしょうか。 |
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糸井 |
がんばってください。
今日はどうもありがとうございました。 |
石川 |
どうもありがとうございました。 |
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(「北極を撮った石川直樹さんと
上野公園を撮る」は今回で終了です。
読んでいただき、どうもありがとうございました) |