糸井 |
石坂さんがドラマに出はじめた
次の年の昭和三四年が、
美智子妃殿下のご成婚で、
それを見るための
テレビを買いそこなった人は、
いつ買ったらいいか、
タイミングがつかめない……
ぼくのうちは、
そういう家だったんですよ。
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石坂 |
そうそう。
あの時はみんな、
はずみで買っちゃったんだよね。
うちもそうです。
だから最初にぼくが出演した頃って、
うちにはテレビないですよ。
いつも力道山の試合を見せてくれる家があって、
その家の友達に
「今日、テレビに出るんだ」と言っておくの。
帰りがけに寄って
「どうだった?」というと
「……うーん、出てるかどうか、
わかんなかったなぁ」
「あそこのところの喫茶店で、
誰かうしろに座ってなかった?」
「……座ってた! 座ってたよ!
わかったわかった!」
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糸井 |
生放送でビデオもなくて、
テレビも家にない。
その友達がビデオがわりか。
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石坂 |
そう。
友達に
「わかんなかったよ」
と言われたらもう終わり。
通行人って、
ひとつの場面だけじゃないんです。
喫茶店にいるお客さん役があり、
ヘンな芝居小屋の百姓のお客さん役があり、
大店の外をウロウロしているやつの役とか、
だいたい四つぐらいの場面には
出なきゃいけなかった。
通行人と値段が同じものでは、
アメリカのドラマの収録の
「ガヤ」っていうのがあったんです。
アメリカのドラマを放送するときには、
生放送で効果音を入れていて……。
もともと、メインの吹き替え役者さんの
「それは違うと思うよ、メイスンくん」
みたいな声はテープに録音してあるんだけど、
バックでガヤガヤ言ってるやつらは、
当日出しなの、あれ。
それを「ガヤ」と言いました。
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糸井 |
(笑)生放送で、うしろで
「そうだよそうだよ!」
「あんなやつぁ、縛り首だ!」
とかいうんだ?
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石坂 |
そのとおり。
それが「ガヤ」っていわれていました。
「いいぞ! いけー!」とか騒いだ後、
静かにするシーンがむずかしいんです。
マイクの音量が入ったまま
シーンが変わるから。
ぼくはそれもやっていました。
通行人よりむずかしいの。
ちょっと器用な人は、
声を変えてくださいなんて言われていて……。
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糸井 |
それで、四〇〇円もらうんだ?
学生さんにしてはいい額でしたか?
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石坂 |
そうでもなかったよ。
その頃は、
渋谷から自由ケ丘あたりまでの
電車の運賃が二十円で……
銀座線しかありませんでしたから、
浅草まで行っても二十円だったけど。
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糸井 |
今、それが二〇〇円ぐらいだから、
今でいう四千円ぐらいのイメージかなぁ?
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(つづきます)
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