名づけようのないもの。  糸井重里が伊丹十三賞をいただきました。
糸井重里が「第1回伊丹十三賞」を受賞しました。 とてもなごやかな雰囲気だった 授賞式当日の様子を、 宮本信子さんや南伸坊さんの スピーチとともにレポートいたします。 取材と称して数名の乗組員が わいわいと授賞式に出席したのですが、 とっても、うれしかった!
春のよき日に、第1回伊丹十三賞贈呈式。

すでに、新聞などの報道で
ご存じの方も多いかと思いますが、
糸井重里が「第1回伊丹十三賞」を受賞しました。

「伊丹十三賞」は、
映画監督、俳優、文筆業など、
さまざまなジャンルで多彩な才能を発揮し、
多くの作品を残された伊丹十三さんの
偉業を記念して今年から創設された賞。

文化活動全般を対象とし、
「言語表現を主軸としたもの」と
「映像表現を主軸としたもの」を
1年ごとに交互に贈られるそうです。

その記念すべき第1回の
受賞者に選ばれたのが糸井重里。

その受賞理由に
「インターネットという参加型のメディアの
 可能性を大きく切り拓いた
 ほぼ日刊イトイ新聞は、
 "発見"の才能を様々な分野で発揮してきた
 糸井重里氏ならではの表現」とあり、
糸井個人がもらった賞ではありますが、
ほぼ日刊イトイ新聞にとっても
ほんとうにうれしい受賞となりました。

去る3月19日、国際文化会館にて、
その贈呈式・祝賀パーティーが開かれました。
もちろん、取材してまいりましたので
その様子をお伝えいたしますね。

映画監督、俳優、デザイナー、イラストレーター、
エッセイスト、テレビマン、雑誌編集長‥‥
さまざまな分野で才能を発揮し、つねに斬新で、
時代を切り拓く役割を果たした
伊丹十三の遺業を記念して創設された賞です。

・受賞対象
伊丹十三が才能を発揮した分野において、
優秀な実績をあげた人に贈られます。
○西暦奇数年:言語表現を主軸としたもの
(エッセイ、ノンフィクション、翻訳、編集、料理など)
○西暦偶数年:映像・ビジュアル表現を主軸としたもの
(映画、テレビ番組、CM、俳優、
 イラストレーション、デザインなど)

・選考委員(敬称略)
周防正行 中村好文 平松洋子 南伸坊

・対象期間
贈賞年の前々年1月1日〜前年12月31日までの
期間に発表された作品等の業績。

・賞と賞金
正賞賞状と副賞100万円。

主催:財団法人ITM伊丹記念財団
協力:株式会社伊丹プロダクション

 
選考委員からの祝辞 「楽しい連鎖が続いていく。  よかった、よかった」 ────南伸坊さん

糸井さんおめでとうございます。
それから、立場上ちょっと変なんですけれども、
伊丹十三賞にも「おめでとうございます」と、言いたい。
第1回の伊丹賞を糸井さんに受けていただいたことで、
伊丹十三賞の性格づけや、今後にとっても、
とてもおめでたいことだと思います。
おめでたいことと言ったら変ですが、
とても、いいことだと、よかったなあと思っています。

わたしは高校時代に伊丹さんの著作に出会ったことで、
いろんな可能性を拓いていただいたと思っています。
それ以降、伊丹さんのされた様々な仕事、
発明、発見と私は呼んでいるのですけれども、
新工夫、新機軸といってもいいですが、
とにかく楽しそうなこと、それをやっていいんだ、
それをやったら「みんなが喜ぶぞ」ということを
教えていただきました。

テレビはこう作ることになっています、とか、
CMは、こうしてもらわないと困ります、とか、
雑誌ではそうすることはできません、とか、
映画はこうすることになっていますから、とか、
そういう枠は広げたり壊したり、
無かったことにだってできるんだ、
ということを教えていただいたと思っています。

そして、「びっくりする」、
「おもしろい」「笑える」っていうことは
最高だっていうことも教えていただきました。

いま、糸井さんは伊丹さんと同じような刺激を、
若い人に及ぼしていると思います。
新しい見方、楽しい工夫、そしてユーモア。
本当に、よかったなぁ〜、よかった、よかった。
と、思っています。

この次は、きっともうちょっと
若い人になると思います(場内笑)。
糸井さんもこう見えてもう60のおじいさんです。
私は61のおじいさんになりますけど、
でもまあ、伊丹さんから糸井さんに受け継がれて、
これからまたどんどん若い人に、
糸井さんの発明精神、発展精神、
工夫精神といったものが受け継がれ、
そういう楽しい連鎖が続いていくんだと思って、
よかった、よかった。
と、思っているのでございます。

 
受賞者スピーチ 「名づけようのないものを  楽しんで、おもしろがって」 ────糸井重里

事前に原稿を書いて、
スピーチにのぞもうかなあと思ったのですが、
段取りがあるとなにもできない人間ですので、
その時思ったことをそのまま言えばいいと思ったので、
このままいかせていただきます。

こういうご挨拶のときに絶対に必要なのは、
ただ「ありがとう」という気持ちだけだというふうに
自分で決めましたので。
こんなにうれしいとは思わなかった賞でした。
とっても、ありがとうございます。

伊丹さんのような才能があふれている方と、
自分とっていうのは、
どうしても比べにくいものなのですが、
あえて一致するところといいますか、
同じようなことを見つけるとすれば、
「名づけようがない」ということなんだろうと思います。

伊丹さんには何度かお会いしたのですが、
ぼくにとって伊丹さんというのはまぶしい方で、
ごろごろとなつくような関係には
ならなかったんですけれども、
ずーっとお仕事は見てたんです。
見てたものっていうのは、
けっきょく、ぼくのなかでは
まとまりがつかないままでした。
そんなふうに時が過ぎて、去年、
伊丹さんの仕事を全部まとめたDVDを
それをつくったテレビマンユニオンの方から
渡されて、見たんです。

それを見て、いや、まいったんですよ。
このジャンルも、このジャンルも、っていうふうに
それぞれの解体された部品としてやるんじゃなく、
全部をやる人なんだってぼくは思いました。

そして、受賞の理由にもありました
「ほぼ日刊イトイ新聞」で、
伊丹さんについてなにかやりたいと思ったんですが、
そのときは、自分たちの手に負えなくて、
もうちょっとしたらわかるときが来るかもしれないから、
そのままにしておこうと思った。
そんな時間が1年近く続いていたんですが。
そんなときに、今回、
このような賞をいただけるということになりまして。

非常に難しいことなんですが、
「名づけようのないこと」に取り組むといいますか、
「名づけようのないこと」を紹介するってことこそが
自分のあこがれだったんだと、
いま、つくづく思っています。

ぼくも、伊丹さんのように、
というとおこがましいですけれども、
「名づけようのないこと」ばかりをやってまいりました。
ですから、こんなような晴れがましい場に
来るという機会もなかったんです。
というのは、「名づけようのないこと」に対して
贈られる賞なんてありませんでしたから。

しかし、とうとう、
「伊丹十三賞」というものができたおかげで、
「名づけようのないもの」に与える賞が
出発できた、のか? と思います。

そういうようなことで、
いままで「名づけようのないこと」をしてきた先人とか、
いま「名づけようのないこと」をしている若い人に、
「こんなふうに見つけてくれる人がいたぞ」と
報告したいような喜びがあります。

ぼく、この先も
「○○をやった人」というふうに
名を残すことにはならないと思うんですけれど、
「名づけようのない」ものを
「名づけようのない」ままに楽しんで、おもしろがって、
死ぬまでやっていけたらなあ、と思います。

そして、これは、
いまここで思ったことなんですけれども、
ひとりの方がある仕事をなさって、
その方が亡くなって、何年も経ってから、
こうやって奥様にあたり、
なおかつ監督にとっては主演女優にあたる方によって
その人がいまもこんなふうに
思い出させてもらえるんだという、
その関係が、とてもうらやましいです。
うまく言えないんですけど、
そういうふうにしてくれる方がいた伊丹さんって、
やっぱりすごくうらやましいなあって、思います。
「みんなもそうなるといいぞ」って、
言ってやりたい気がします。

あいかわらず、
なにを言ってるのかという話になりますけれども、
なにが一番言いたいかって
「とてもうれしいです。」

 
館長挨拶 「いま壇上に立って、  ちょっと胸がいっぱい」 ────宮本信子さん

今日はお忙しいなか、
第1回伊丹十三賞発表にいらしていただきまして、
まず、お礼を申し上げます。

去年の11月に創設いたしましたこの賞、
最初に、特徴として、
「びっくりした」「おもしろい」「だれでもわかる」
ということを私は申し上げました。

そして、糸井さんに賞を受けていただきまして、
本当に糸井さん、ありがとうございました!
もしも断られたらどうしようかと思った(場内笑)。
心配したんですよ、私!

今日、こういう日を迎えられて、
本当にうれしく思います。
さきほども、「よかった、よかった」って
伸坊さんもおっしゃいましたけども、
そういうことだと思います!

これからも、そういう
「名づけようのない」おもしろい仕事、
たくさんなさってくださいませ。
お願いします。

また、賞のためにご協力くださった、
周防さん、中村さん、平松さん、南さん、
本当にたくさんのお時間とエネルギーを
この賞のために割いていただいたと思います。
本当に、いまも壇上に立って、
ちょっと胸がいっぱいになっております。

本当にありがとうございました!

伊丹十三にも、心のなかで乾杯をしたいと思います。
乾杯!

 

宮本信子さんの乾杯の挨拶のあと、
祝宴はとっても楽しく進み、
にぎやかしで参加した乗組員も
たいへん楽しく過ごすことができました。
(「ほぼ日」に創刊当時から
 関わってくださっている
 アッキィこと秋山具義さんにも
 出席していただきました)

そして、
「堂々と、厚かましくこれを機会にして
 伊丹十三さんのコンテンツをやろう」と
その場で我々は決心したのです。

そういうわけで、たぶん、続きます。
というか、はじまりです。これが。
伊丹十三さんの特集の。

2009-03-24-TUE
(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN