伸坊さんにきいてみよっか?

第4回 ちゃんと自分で咀嚼できるもの

伊丹さんは『アート・レポート』っていう
アートをテーマにした番組もやってたんですが
それもすごくおもしろかったんです。
美術番組なんですけど、
科学番組とか料理番組みたいに
ほかの番組のフォーマットでつくるんだね。
へぇー。
いろんな工夫をして、
毎回、毎回、ぜんぜん違う感じにしてた。
どんな番組なんですか?
要するに、現代美術を紹介する番組なんです。
だけど、まったく現代美術に興味がない人に
おもしろく伝わるようにしてある。
たのしくわかるように説明する。
へぇー。
たしか、15分ぐらいの短い番組だったんだけど、
たとえば、アンディ・ウォーホルの
シルクスクリーンの版画を、
街の、質屋に持って行って、
いくらで引き取ってもらえるだろうか? とか。
おもしろそー(笑)!
その質屋さんは、
アンディ・ウォーホルも、シルクスクリーンも、
もちろん知らないわけですよ。
だから、絵として虫メガネで鑑定して、
「こりゃ印刷ですねぇ」なんて言うわけ。
(笑)
するとそれを持ち込んだ伊丹さんが、
「まさにそこが重要なんです!」とか言って、
ポップアートの解説をするわけ。
わかってもらわないと、お金にならないから
っていうシチュエーションだから、必死でね。
おもしろーい。
パフォーマンスをやってる
海外のグループの説明をする回のときは、
「生放送でやっている」というふりをして、
苦情の電話をどんどん鳴らすんです。
つまり、視聴者が、
「これは、なにをやってるんだ?」
「意味わからないぞ」てんで、
電話をじゃんじゃんかけている、
という設定なんですね。
で、それに対して、いちいち電話に出て
伊丹さんが答えていく。
それで、観ている人は、
それがどういう芸術なのかっていうことが
わかる仕組みになってるんです。
へぇー。
まぁ、スポンサーが
大喜びするような番組じゃなかったから、
そんなに長く続いたわけじゃないんですけど、
とってもおもしろい番組でしたね。
あの、質問なんですけど、
そういう、伊丹さんがつくった
独特のセンスのある番組を、
当時の視聴者の人たちは
どういう感じで受け止めてたんでしょうか?
ふつうにバラエティー番組を
観るように観ていたのか、
それとも、ちょっとシュールなものを
目撃するような感じだったのか‥‥。
うーん、そうですね‥‥
いまの、いわゆるお笑い番組って、
ものすごく親切なつくりになってますよね。
もう、とことんかみ砕いて、
どろどろになったものを
口移しで与えてくれる、みたいな。
(笑)
伊丹さんがつくる番組は、
そうではなかったですね。
だから、やっぱり、視聴者って、
ほんとうはそんな、かみ砕きすぎて
どろどろになったものを欲しいんじゃなくて、
ちゃんと自分で咀嚼できるものを欲しいって、
「思うんじゃない?」って
伊丹さんは思ってたんじゃないかな。
ああ、そうですねー。
だから、伊丹さんのつくるものは、
ものすごくコテコテな笑いだったり、
わきの下に手を入れてくすぐるような感じの
笑いではなかったですね。
それは、番組も、文章も、なんでも。
でも、おもしろいものって、ほんとうは、
そういうものなんだけどね。
なるほどー。
うかがっていて思うんですけど、
伸坊さんは、伊丹さんのお仕事のなかでも
とくに、テレビのお仕事に
すごく影響を受けてらっしゃるというか。
うん、そうですね。
ぼくは、あんまり、ドラマとかよく知らなくて、
伊丹さんの俳優時代のお仕事とかは
ほとんど見てない。
知っている分野のなかでいうと、
伊丹さんがテレビというフィールドで
企画したものとか、新しくつくったもの、
そこに込めたアイデアっていうのが、
ぼくにとってもおもしろいですね。
(つづきます)
2009-08-27-THU
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伊丹十三さんのモノ、ヒト、コト

27. 『伊丹十三のアートレポート』。

伊丹さんが企画・出演した
『伊丹十三のアートレポート』(テレビ朝日)という
現代美術を紹介する番組は、
1977年当時、とても画期的だったようです。

それまで美術番組といえば権威のあるものばかり、
お勉強ばかりで、楽しくしようというものは
皆無だったそう。

しかし伊丹さんは、
斬新で、ともすれば難解になりがちな
「現代美術」というものを、
素材にしつつ演出によって解説するという方法で、
その作品を知る番組を作りました。
そのため、毎回、構成が変わりました。

とりあげたのは、アンディ・ウォーホル、
ギルバート&ジョージ、クリスト、
ナム・ジュン・パイク、河原温、などなど、全13回。

アンディ・ウォーホルの回では、
ヒッピー姿の伊丹さんが
ウォーホルのマリリン・モンローの
絵を持って質屋へ行き、
「絵じゃなくて印刷じゃない」という
店主相手に、なんとか30万円借りようと
その絵のすばらしさを語る、というもの。


ウォーホルについて質屋で解説する伊丹さん。
(DVD『13の顔を持つ男』より)

ギルバート&ジョージの回では、
顔を赤く塗って静かに動き回るだけの
作者(=作品)に対して、
かかってくる抗議や問い合せの電話を
伊丹さんが受けていくうちに
作品の解説になっていく、という演出。

峡谷や巨大建造物の梱包で有名なクリストの時は、
クリストの作品のために必要な梱包用の布の試算を、
東レの方を呼んでしてみたり、と、
あらゆる角度から、
ふつうのひとが現代美術に興味を持てるように
演出されていました。

番組としてとてもおもしろそうなのですが、
DVDなどになっておらず、
その一部をDVD『13の顔を持つ男』などで
見られるのみ、というのが惜しまれます。

もともとデザイナーでありイラストレーターであり、
芸術に造詣が深い伊丹さんが、
美術と一般社会を橋渡ししてくれるような
番組だったのだろうな、と思います。
(ほぼ日・りか)

参考:伊丹十三記念館
   DVD『13の顔を持つ男』
   『伊丹十三の本』(新潮社)

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