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ほぼ日 | 矢吹さんの著書 『池波正太郎のそうざい料理帖』の著者紹介に 「本書で見せた年季の入った料理の手さばきは、 伊丹十三氏直伝である。」 とあったんです。 |
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矢吹 | ははは。 | |||
ほぼ日 | 矢吹さんに取材を申し込む電話口で そのことをお訊ねしたら、 「そんなことはないんだよ」って。 |
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矢吹 | うん、直伝ではないけどさ、 ぼくがほんとに料理をやろうと思ったのは、 伊丹さんと仕事で組みだしたことが きっかけなんです。 おつきあいがはじまったごく初期に、 赤坂にあった「たん熊」のお弁当が届いたの。 |
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ほぼ日 | 「たん熊」。 京料理の老舗ですね。 |
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矢吹 | で、それは、もちろん、 話の内容に即して イラストを描くために必要だから、 届けてくださったわけなんだけれど、 それが、ものすごいおいしくてね。 ぼくも、あの「たん熊」に お弁当なんかがあると思わなかったから、 また食べたいと思って、お店に電話してみたの。 つまり、ぼくには、お座敷なんて、 全然、用がないわけで、 でも、お弁当だったら食べたい。 でもそんなちゃんとしたお店で、いきなり 「お弁当ください」 って言うわけにいかないでしょ。 |
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ほぼ日 | 高級料亭ですものね。 | |||
矢吹 | だから「友人が新幹線で帰るんですけども」 って方便をつかってね。 だって「自分ちで食べる」なんて言うと、 「たん熊で食べなさい」 って言われちゃうでしょ(笑)。 で、電話して取りに行って、 そのときに、カウンターがあるのを見つけたわけ。 そして「このカウンターに座りたいな」と思った。 それが、思えば、伊丹さんの導きだったんだね。 |
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ほぼ日 | 伊丹さんは懐石料理がお好きだったんですか? | |||
矢吹 | いや、ところが伊丹さん、 懐石、あんまり好きじゃないんだよね。 なぜかっていうと、 ちょこっとずつしか出てこないじゃない。 伊丹さんは、これがおいしいと思ったら それをいっぱい食べたい人なんだ。 でも、あとで知ったんだけど、伊丹さんも、 「たん熊のカウンターは行く」んだよ。 それで、ぼくも、たん熊のカウンターで 勉強したんだよ。 |
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ほぼ日 | 自分でこの世界のことを もっと知りたいと思って? |
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矢吹 | そう。 | |||
ほぼ日 | それで、伊丹さんの、 直接となりに座ったんですか。 |
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矢吹 | いや、伊丹さんと一緒に行ったことはない。 | |||
ほぼ日 | じゃあ、自分でお金を払って。 矢吹さん、当時、20代ですよね。 |
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矢吹 | 若かったですよ。20代です。 | |||
ほぼ日 | 伊丹さんは1933年生まれ、 矢吹さんは1944年生まれ、 ひとまわりくらい違いますが、 感覚的にはすごく上の人なんですか? |
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矢吹 | 数えてみるとそれほどでもないんだけれど、 当時、わりと上だと思ってた。 うん。最初に仕事で指名されたときは、 伊丹さんのこと好きだったからさ、 「へえ、伊丹さんと会えるんだ!」って(笑)。 |
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ほぼ日 | 最初に伊丹さんに 食事を誘われたのは 覚えていらっしゃいますか。 |
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矢吹 | うん、ぼくが、初めて伊丹さんに誘われたのは、 代沢の小笹寿しだったんです。 小笹寿しっていうのは、もとは、銀座で、 赤坂、原宿って、店が増えて行ったの。 そして最後に出したのが代沢。 そこは、伊丹さんと、 山口瞳さんの行きつけでした。 そしてぼくが、伊丹さんとコンビで 随筆の仕事をしだしたころに、 お店にいる伊丹さんから、 電話がかかってきたんです。 |
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ほぼ日 | 小笹寿しから。 | |||
矢吹 | 「矢吹さんち、近いでしょ」って。 当時、ぼく、近くに住んでいたんですね。 でもまだちゃんとしたお寿司屋に入るなんて、 なかった頃のことです。 |
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ほぼ日 | ちゃんとお寿司屋さんを知らない青年が、 伊丹さんや山口瞳さんの行きつけお寿司屋さんに。 |
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矢吹 | そこも、「たん熊」じゃないけど、 導かれたの。ほんとに。 |
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ほぼ日 | いま、自分も含めて、 そんなふうに、 大人になる道を示してくれる先輩って、 すごく少ない気がします。 |
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矢吹 | いま、こっちが教えないと いけない歳になってるけどさ(笑)。 それで、小笹寿しを知ってから──、 知っちゃったら大変でしたけど(笑)、 お寿司は、小笹一本になったわけ。 そしたら、今度は伊丹さんが ぼくが小笹しか知らない、 小笹しか行けないだろうっていうんで、 また、連れ出してくれたの。 |
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ほぼ日 | なんて世話好き。 学ばせてあげたかったんですね。 |
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矢吹 | そんなふうには、口では言わないけどね。 赤坂と六本木の中間ぐらいに 「ミラクル」って 変なお寿司屋さんがあったんだ。 |
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ほぼ日 | ミラクル‥‥? | |||
矢吹 | 名前もすごいでしょ。 でも、漢字だよ。 あててあるんだよ。 「味楽留」。 |
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ほぼ日 | 「味楽留」‥‥。 | |||
矢吹 | すごい名前なんだけどさ、 | |||
ほぼ日 | それで、お店のカウンターで 伊丹さんと並んで食べるわけですね。 |
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矢吹 | そう。それで、ぼくは、 伊丹さんとおやじとのやり取りを聞いてるの。 |
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ほぼ日 | こういうところでは、こうするんだよ、 みたいな感じなんでしょうか。 |
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矢吹 | 「味楽留」のころは、 伊丹さんの息子さんが ちっちゃかったときで、 本持って来てさ、 お寿司屋のカウンターで、 ずーっと本を読んでいたよ。 |
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(つづきます) |
2009-07-27-MON |
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