こんどの「JAZZ」、どうする?

第10回 猛津有人さん。

山下

以前、そのジョビンやら
ハービー・ハンコックやらといっしょに
ヴァーヴ・レコードの記念式典に呼ばれて、
記者会見の席が隣だったんですよ。

で、ジョビンはヴァーヴ・レコードで、
スタン・ゲッツと
アストラッド・ジルベルトが共演した、
あの「イパネマの娘」で作曲家として
世界的に有名になったわけだから、
とうぜんジャズに
恩は感じているだろうという前提のもとに、
インタービューアーが
ジャズとの関連を話してくださいと、
もちかけたんですけど。

糸井

ええ、ええ。

山下

コードのサウンドだってすごく似ているわけだし、
とうぜん「いろいろ影響を受けて感謝しています」って、
ありきたりの返事をするのかと思っていたら、
ぜんぜん言わないんですよ、これが。

「私は私の音楽をやっただけです」って、言い張っている。

タモリ

それで、横に座っていた山下さんが
不思議に思って
ボサノバをもう一度、研究し直すんです。

 
山下

なんであんなに頑固に‥‥と思って、
いろいろ調べ直したら、
ジャズのおかげだと言いたくない理由が、
わかってきたんですね。

糸井

ほーお‥‥。

山下

なんでもかんでも自分たちが発見して
流行らせてやったと言わんばかりの
アメリカの「ジャズ帝国主義」を、
晩年、毛嫌いしていたんですね。
どう聴いてもモダンジャズのサウンドを
使っているだろうとみんなが言っても
「いや、そういう和音は
 すでにドビュッシーにあった。
 私はそっちから学んだ」なんて(笑)。

リオのイパネマの店に行くと、
そこでジョビンが「イパネマの娘」を作曲したというので、
壁に大きく「手書き楽譜」が印刷してあるんです。
それをよく見ると、
アメリカ経由のあの音楽ではなくて、
ちゃんとサンバのリズムが見えるんですよね。

♪タン、タト、トン、タタ、タン、タト、トン、タタって。

英語の歌詞では消えているアクセントが、
ポルトガル語ではぜんぶ出てくる。
サンバの低音打楽器のスルドのリズムが
ちゃんと歌詞に入っている。

タモリ

楽譜にそう書いてあるんですね。

糸井

それ、山下さんが
発見したみたいな感じなんですか?

山下

いやいや、音楽家なら
見ればみんな、わかりますよ。
でも、そこまで行って
壁の生原稿を見たというのが、自慢で(笑)。

糸井

それは、なかなかねぇ(笑)。

タモリ

でも、ジョビンもそうですけど、
ボサノバっていうのは
音楽的素養のある
上層階級から生まれた音楽なんですよ。

山下

ジョビンの相棒の作詞家だった
ヴィニシウス・ヂ・モライスという人は、
外交官だった。

タモリ

だから、民衆レベルには
あんまり根をおろしてないんだよね。

山下

現地ではね、消えちゃうかもしれない。

糸井

でも、日本って国は、
ぜーんぶ残しちゃいますよね。
まるで「音楽の博物館」みたいに。

山下

それですよ。
いまやヨーロッパよりも
クラシックが盛ん、なんてことになって
このままいくと、
500年くらい経ったら
モーツァルトを覚えているのは日本人だけ。

だから「モーツァルトは日本人だ!」なんて
ことになっているかもしれない(笑)。

糸井

「モー」のところは
「猛々しい」っていう字を書くんだよ、と(笑)。

全員 わはははは(笑)。
糸井

名前のほうは「有る」に「人」と書いて。
つまり、「猛津有人」さん。

山下

ははははは。
こういう話を、いちいち掘り下げていったら
ショウになりませんが(笑)。

 
糸井

でも、おもしろいですねぇ。こういう話。

< 続きます >

2007-10-04-THU
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