金井 | 職業柄、いつも学生と接していますし、 自分の研究テーマ的にも 採用担当や人事部の役員と 会ったりすることが多いんです。 つまり、僕は 採る側と採られる側、両方を見ているんですね。 で、採られる側の学生が いま、いちばん気にかけてるのは、 自分をどう表現していいかわからないときに、 面接で「素のままの自分を」と言われても、 それが本音なのかどうかわからない、 ということだと思うんですよ。 |
糸井 | ええ。 |
金井 | だから、まわりがそうしているし、 自分に自信もないから 面接の「公式」のようなことに 気をもんだりしてる。 たまに、外れてるように見える人も じつは、戦略的にそうしてる感じですね。 みんな黒っぽいスーツだから、ちょっと違えたとか。 つまり、学生のほうで 素直じゃなくなっちゃってるようなところが 見受けられるんですよ。 もう一歩でも、自然に、素でいきましょうよと 言いたいですね。 |
糸井 | 以前、河野晴樹さんという 民間の人事のプロのかたにお聞きしたら、 面接官が見ているのは おじぎの角度や あいさつの仕方なんかじゃなくて 「何をいちばん大切にしているか」 その1点だと、おっしゃっていました。 |
金井 | ええ、「御社」だとか 「わたくし」だとかいう言いかたなんて、 ふつうに考えたら、 会社へ入ってから覚えればいいことですよね。 そういうことを練習してること自体、 おかしいことだと思います。 あるいは、 10年後に自分はどうなりたいか、 なんてことを説明する練習をしたりとかね。 |
糸井 | その点は、同じご意見だと。 |
金井 | 僕の研究仲間のうち、 学生にいちばんいいメッセージを送ってるな、 と思うのは、慶応大学の高橋俊介さん。 彼が言っているのは 「10年先の自分を思い描いてください」 みたいなことを つい、人事部の担当者も聞いてしまうし、 学生の側も、 そういうことを聞かれた場合に備えて 準備なんかしていますけれど、 「10年後のこと」なんて 人事担当の側でもわかりはしないんだ、と。 |
糸井 | 確かに、そうでしょうね。 |
金井 | 慶応の研究所で行ったリサーチで、 「では、その10年後に どんな人材に入ってほしいか」という問いに、 人事部の担当者は なかなか答えられなかったそうです。 つまり「10年後にどんな人に入ってほしいか」を 人事部の側で答えられないのに、 目の前にいる若い学生にたいして 「10年後、どうなっていたいか」なんて聞くのには、 やっぱり、無理があると思うんですよね。 |
糸井 | うん、うん。 |
金井 | だから、高橋さんが言っているのは あんまり深く自分を見つめようとするよりも、 あくまでも自然体で臨んだらいいんだ、ということ。 面接官のほうが人を見る目はあるはずだし、 多少、世に言われている「公式」どおりやらなくても、 そのままの自分を見てもらって、 それでOKというところに、まずは入社して 元気にやったらいいんだ、ということなんですね。 さらに、アメリカの学者で ジョン・クランボルツという大先生がいるんですけれど、 この人なんかは、もう 「偶然でなんとかなる」なんて言ってるほど。 |
糸井 | いいですねぇ(笑)。 |
金井 | わたしも、偶然の要素に任せることは 必要なことだと思っています。 でも、すべてを偶然に任せるんじゃなくて キャリアのなかの「節目」だけは 自分でデザインしなければならない、 と思っているんですよ。 |
糸井 | デザインというのは、つまり‥‥。 |
金井 | 選びとる、ということです。 節目のうちの最初のものが「就職」ですよね。 最後の節目は「退職」ですから、 このふたつぐらいは、 だいたいみんな、意識するんですよ。 でも、そのふたつのあいだに、 いくつかの「節目」がくるんです。 そして、その節目を彩るキーワードが、 半分が「不安」で、もう半分が「希望」なんですね。 |
糸井 | その「キャリアの節目」では、 なにを問いかけるべきなんですか? |
金井 | 自分はなにが得意なのか。 どういうことをやりたいのか。 どういうことをやってる自分だったら 意味あることをやってると、感じられるのか。 つまり、自分の能力に関するイメージ。 それと、動機や欲求ですね。 |
糸井 | なるほど、うん。 |
金井 | そのジョン・クランボルツ先生のいう 「だいたいは偶然でなんとかなるもんだ」 ということと、 僕の考える「節目をデザインする」という考えは 両立すると、思っているんです。 つまり、人生のなかの「節目」だけは きちんと自分でデザインして、 そのあいだあいだは、偶然に任せればいい。 いきおいにのって、十分な努力もしてね。 つまり、第一志望の会社じゃなかったとしても まずは「入ってみる」という選択を してみたらいいんじゃないか、と思うんです。 で、入って頑張ってみたら、 思いもよらないチャンスもあるだろうし、 単純に「おもしろい」かもしれない。 頑張る姿は、いつも美しいし、 その姿が古くさくなることはありませんよね。 |
糸井 | 逆に、よっぽど今のままでは 違和感があるな、と思ったら‥‥。 |
金井 | そのときには、 次の「節目」が来ているんですよ。 |
糸井 | そこでまた、「デザイン」すると。 |
金井 | そうです。 つまり、迷ったり、悩んでいるよりも まずは「きちんと歩く」、つまり頑張ることのほうが、 ぜんぜん大事だと思うんです。 せっかく、ある企業から内定をもらったのに、 その企業が自分に合ってるのかな、 なんて迷うよりも とりあえずは入社して、頑張ったらいい。 で、1年くらい頑張ってみた、 でも、やっぱりダメだと思ったら、 その人の場合は、最初のキャリアの節目が けっこう早めに来たんだということ。 そこでもういっぺん、考えたらいいんです。 |
糸井 | 逆にいうと、 偶然に身を任せたなかでの「イエス」でも、 その一言は、自分自身で選ぶべきなんだ、 ということですね。 |
金井 | 人生全体でみても 節目なんてそうそう、あるわけじゃないんです。 だいたいは「偶然」でいいんですけど、 何回かの節目だけは、自分で選びとる。 だから、就職活動がどんなにしんどくても、 それはそれで、頑張るに値するなと 思えるんじゃないでしょうか。 <続きます> |