主婦と科学。 家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所 |
研究レポート27 鍋の科学。 ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。 いまのカソウケンでホットな研究テーマといえば「ナベ」。 単に研究員Aが新しいナベかフライパンを 買い足したいがために 一人で盛り上がっているだけなんですけどね。 古いナベたちは所長が結婚するときに持参したもの。 だから新しいものを買うときは 所長は「苦楽を共にしたあいつらを見捨てるのか〜」 と毎度毎度ウルサイ。 というわけで、研究員Aはそのナベを新しく導入することの メリットを大いに語らねばならないのです。 前回は熱伝導度と熱容量のお話をしましたが ナベの話には至りませんでした。 というわけで、今回は 「なんでこんなに色々ナベやフライパンがあるんだ?」 と不審がる家人を説得するのに役立つかもしれない、 ナベの科学をレポートします〜。
まずは、前回の熱伝導度と熱容量を さらっと復習してしまいましょう。 熱伝導度は「温まりやすさ」。 熱容量は「抱え込む熱の量」。 惚れっぽく、じわじわ愛が持続する太郎さんは 「熱伝導度大・熱容量大」の人。 惚れっぽいが、愛も冷めやすい次郎さんは 「熱伝導度大・熱容量小」の人。 復習、おわりっ! こんなんじゃ復習にならないよ、って方は (そんな方がほとんどかも。。。) 前回のレポートを読んでくださると幸いです〜。 ではでは、本題のナベの話に入りましょう。 今回はナベですので「金属」のことが中心になります。 金属はとーっても熱伝導度が大きい物質です。 空気や水や木とは比べものになりません。 だからこそ、ナベやフライパンとして活躍してくれます。 だって、木をナベにしたら材料に火が通るよりも先に ナベが先に燃えだしちゃいますものね。 この「さっと熱が伝わる」という熱伝導度の高さが 金属の特徴ともいえるのですが、 これは何故でしょう? 世の中にある一つ一つの分子は 原子と電子からできているという話は みなさまご存じですよね。 金属ではないもの、例えば水も油も砂糖も塩も ひとつひとつの電子はきまった原子の中で しっかり結びついています。 その家族のひとりひとりのメンバーが 家におさまっているというイメージです。 でも金属の場合は、特定の位置におさまらない 「自由電子」というものがあります。 この自由電子たち、言ってみれば 家に帰ってこない「フーテン」状態。 フーテンの彼らは家に収まらずに 勝手気ままに動き回っているのです。 そして、この自由に動き回る 「フーテンの電子」たちがいるおかげで 熱をさっとつたえることができます。 だから、金属は熱伝導度が大きいのです。 ちなみに、金属が電気を通しやすいのも このフーテン電子のおかげ。 というわけで、 金属が熱を伝えやすい理由がわかったところで 今回の役者さんたちにご登場願いましょう。 まずは、身近なアルミニウムからはじめますね。
【アルミニウム(Al)】 アルミニウムは原子番号13の元素。 なぜに原子番号のことなぞ持ち出すのか?と 言われてしまいそうです。 周期律表は元素を軽い順番 から並べたものです。 全103原子のうちの13番目、 ということからもわかるように アルミニウムはとっても軽い金属です。 軽いということは重要です! 特に、研究員Aのような か弱い・ひ弱な女性にとっては 大事なポイントであります。 (子ども二人を平気で抱え上げているじゃーないか、 と言わないで) そして、金属の中でも熱伝導度が高いアルミニウム。 熱をさっと伝えてくれます。 さっさとお湯が沸くから、便利便利。 ただ、難点はアルカリに弱いこと。 重曹なんかは入れちゃいけません。 あと、丈夫ではないので乱暴に扱うとへこみます。 まあ、非力な研究員Aには関係のない話ですが。 (子ども二人を平気で抱え上げているじゃーないか、 と言わないで) アルミと言えば気になるのは アルツハイマーとの関係でしょう。 一時期の情報のせいで 「アルミ=アルツハイマーの原因」と 公式ができあがってしまっている方 多いかもしれません。 でも、今ではWHOもアルツハイマー病学会も その根拠となる証拠はないと否定しています。 (詳しくは日本アルミニウム協会のホームページを参照。)
【銅(Cu)】 お次はあまり一般家庭には馴染みがないかもしれない 銅のおはなしです。 一般には馴染みがなくても、 レストランの厨房にぴかぴかに光った銅のナベが ずら〜っと並んでいると かっこいい! って憧れますよね。 銅は、金属の中で群を抜いて熱伝導度が高い物質。 ということは、火にかけるとすぐ熱くなります。 熱伝導度が高いということは 熱がさっと広がるということ。 だから、焦げ付かない! 焦げ付くというのは「部分的に加熱ムラ」が できるということですからね。 ただ、欠点がいくつかあります。 重いんです。 元素の重さの指標ともなる原子番号は29。 これ、今回のレポートで登場する面子の中では 一番大きいのです。 アルミニウムの軽さに比べると かなりの差になっちゃいます。 そして、手入れをきちんとしておかないとサビます。 緑青(ろくしょう)と呼ばれる 緑色のさびができてしまいます。 このような 「ナベとしての性質は優れているが、手入れが面倒」 というところがいかにもプロ仕様と言えるかも。 ものぐさな研究員Aには「高嶺の花」的ナベです。 でも台所にあるといかにもお料理上手っぽいなあ。 さてさて、この緑青ですが 有害であると昔から言われてきました。 でも、国立衛生試験所や 東京大学医学部での研究結果を踏まえて 厚生省から「無害である」との 発表がされたとのこと(昭和59年)。 今では、緑青は害がないことが 定説となっている模様です。 うーむお恥ずかしながら、今の今まで 研究員Aも知りませんでした。
【ステンレス】 さて、お次はステンレスです。 原子番号は〜と言いたいところですがそれはありません! ステンレスは、単独の金属ではなく 二つ以上の金属をまぜた「合金」なんです。 合金は、一般的に伝導度は悪くなります。 でも、固さは増します。 ステンレスにも同じことが言えます。 ステンレスは何からできているかというと、 鉄に、クロム・ニッケル・銅などを混ぜたもの。 サビにくく丈夫という利点を持ちます。 上に書いたとおり、合金なので 熱伝導度がかなり小さいのです。 ステンレスだけだと使い勝手がいまいちなので、 アルミニウムや鉄などを間にサンドイッチにした ステンレス多層ナベというものがあります。 これだと、ステンレスの「丈夫さ・保温性」に アルミなどの「熱伝導度の良さ」などの利点をプラスした いいとこ取りのナベになるんですね。 ただし、かなーり重いものになりますが。 (しかも高い!) 「ナベが焦げ付く」「ナベがサビる」科学については 奥が深くて一回分のレポートになりそうなので 回を改めて取り上げたいと思います! ちなみに、我が家の鉄のフライパン。 今、焦げ付きで大変なことになっています。 しょっちゅう赤いサビも出るし。 新しいナベやフライパンを新調する前に 手持ちのフライパンのお手入れを やりなおす方が先ですね。とほほ。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 参考文献 化学精義(上)(下) 竹林保次著 培風館 リー 無機化学 J.D.LEE著 東京化学同人 理化学辞典 岩波書店 参考サイト 日本アルミニウム協会 日本伸銅協会 |
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2004-02-06-FRI
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