主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート63
平面から立体を想像する能力に
男女差があるってほんとかな? ──の科学。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
前回のレポート
「研究員Aは立体が苦手。
 三次元どころか二次元も怪しいらしい」
と書きました。
これは高校時代の数学の時間、立体が登場するたびに
頭がまっしろ〜になることからも自覚していたのですが
そんな現実を改めて思い知らされる
こんなできごとがありました。

昨年、カソウケンは研究所を移転いたしました
(要するに、ただの引っ越し)。
新居を決めたとき、まだそのマンションは建築中。
だから、新居のレイアウトを考えるとき
設計図を見てあれこれ想像するしかないのです。
「キッチンとこの部屋のインテリア考えておいてね」
と所長に任されたわけですが。
‥‥こんな平面図からどうインテリアを想像しろと?
というわけで、やる気がせずに放っておいておりました。

ほぼマンションが完成したときに見学に行き
ようやく「こんな形だったのねえええ!」と
納得する研究員A。
そんな研究員Aを見て夫である所長が
「今の今までわかってなかったの?」
と逆にびっくりだったみたい。

そりゃね、設計図からは「間取り」はわかりますよ。
さすがの研究員Aとはいえ。
でもっ! 梁がどんな形だとか
キッチンのカウンターからリビングがどう見えるとか
「知るか、そんなこと!」
で、ございますわ。

どうやら所長は、
二次元のものから
三次元を想像できるらしい。
研究員Aはそれができないらしい。

この手の
『空間能力』は
男性の方が優れている。

との説、耳にしたことがおありでしょうか?
たしかに、カソウケンではそっくりそのまま!
あてはまっています。

というわけで、今回のレポートは
「空間能力、ほんとうに男女差があるの?」
を科学してみたいと思います〜。

男女差がある、というテーマは
扱うのがちょっと難しいのですが。

さて。
「男ってこうだよね〜」とか
「女ってやつは」と男女の違いを話題にすることは
盛り上がるネタではないでしょうか。

男と女の「違い」に関心が高いのは
数年前に『話を聞かない男、地図が読めない女』
大ベストセラーになったことからも
よくわかるってものです。

保育園にいる幼児たちを「フィールドワーク」していると
・女の子はおしゃまでおしゃべりだなあ
・男の子は動きが大きいなあ
などなど、こんな小さい子たちでも
男女の差をぼんやりと感じる研究員Aです。
同じように感じる方も少なくないはず。

実は、このように男女の違い‥‥特に「能力の違い」を
「科学する」ってことは、とってもデリケートなこと。
ただのおしゃべりなら害はないですが
ここに「科学らしさ」という装いを身にまとうと
そのネタは急にもっともらしく見えてきます。
科学っぽい説明が入った健康食品や化粧品は
「効きそう!!」って急に説得力が増してみえません?
(えーとこれは単純な研究員Aだけでしょうか)

だから、男女の能力差を科学することは
その結果だけ一人歩きして「決めつけ」だとか
「差別」に繋がることもあり得るわけです。
例えば
「男性は○○の能力が低いらしい。
 だから男性をこの職種には採用できない」
とかね。

今回の話題は
「男性または女性の平均値としてこうである」
というはなしです。
言うまでもないことですが、一人一人を取り上げれば
平均値からずれるのがあたりまえ!
そもそも人間は「男」「女」の2種類なんて
単純にグループ分けできるものでもありませんし、ね。

心的回転テスト、やってみましょう!

ではでは本題に戻ります!
上に書いたとおり、男女の能力差の研究は
デリケートな問題であるため
各方面からのチェックという洗礼を受けながら
研究が進められていると言って良いかもしれません。

そんな中、いくつかの能力について
男女差があると言われてるいます。
代表的なものを取り上げてみますね。

運動スキル 男性 標的当て
(ダーツやボールを投げる)
女性 細かい運動スキル
指に関わる動きを素早く行う
数学の能力 男性 数学的推論
女性 計算能力
言語能力 一般的に女性の方が
ことばの扱いに長ける
という結果が得られている

今回のテーマである空間能力については
どうなのでしょう?
空間能力をはかる課題のひとつに
「心的回転テスト」というものがあります。
これについては明らかに男女差があるらしい!

この「心的回転テスト」とはどんなテストでしょうか?
例えば、このような立体をふたつ見せて
「このふたつは同じ図形ですか?」
という問いに答える課題です。
さてこのAとBは同じ立体でしょうか?(答えは最後に!)



こんな課題の載った本を見ると
研究員Aなんかむきーっとなって
本を投げつけたくなる衝動に駆られるのですが!

さて、この心的回転テストの結果ですが
明らかに男性の方が成績がよい!
しかも課題に使われる形が
二次元だろうが三次元だろうが
男性の方が優勢なのです。

これは一つの形を見て、その形を
「頭の中でイメージし」
「そして回転できるか」
を調べるテストです。
頭の中で形をイメージできなければ、
回転しようにも回転できない。←研究員Aがこれだ。

確かに、このテストが得意だと、
設計図から立体のイメージを
頭の中で思い描くこともできる気がします。
研究員Aにはまったくもって
未知の世界ですが‥‥しくしく。

この心的回転テストに限らず
空間能力をはかる課題では
おおむね男性の方が成績が良いみたい。
でも! 女性の方が得意な
空間能力の課題もあるのです。

それは、ある並びに配置された複数の物のなかで
特定の物の位置を思い出すといった空間テストです。
トランプの神経衰弱のような
「メモリーゲーム」というおもちゃを使った研究でも
女性の方が得意だとか。

ひょっとしたら
所長が「めがねめがね〜」と毎度のように
眼鏡の置き場所を忘れて
研究員Aが教えてあげるはめになるのは
この能力の違い?
‥‥いやいや、所長の場合は
自分で眼鏡を置いた場所をRAM(自分の脳みそ)ではなく
外部記憶(研究員A)に頼っているだけ、
というのが正しい気が。
(いい加減自分で置き場所覚えといてよっ!)

男女差がある、というテーマは
扱うのがちょっと難しいのですが。

さて、このように「男女差がある」
という結果を目にしたとき
これは生まれつきのものではなく
「環境」によるものではないか?
という疑問が頭をもたげるのが自然であります。
男の子は小さい頃からブロックやプラモデルなど
「空間能力を発達させるような遊び」を好むから
その能力が発達したのではないか? と。

実際、思春期前の子どもを対象にして
空間能力をテストした結果が次々と発表されています。
そして、「小さい頃からも差があるらしい」
という結果が集まっているようです。
3〜5歳という子どもでも、標的当て課題では
男の子の方が正確だという結果が得られたとか。
(McGuiness & Morley,1991)

さてさて、このように男女差があるってことは
身体の中の「なにものか」が
この違いを作っているに違いありません。
その正体はなんでしょう?

まっさきに思いつくのが「ホルモン」でしょう!
実際、空間能力と男性ホルモンの
関係を指摘する結果がいろいろ発表されています。

男性ホルモンのひとつであるテストステロン濃度
(以下「T濃度」と書きます)と
心的回転のテストとの関係を調べた研究結果を
ご紹介します。

心的回転テストの成績は上から順に
・T濃度の低い男性
・T濃度の高い女性
・T濃度の高い男性
・T濃度の低い女性

「あれ?」と意外に思う結果ではありませんか?
この結果で面白いのは、T濃度の高い男性ではなく
「低い」男性の方が成績がよかったこと!
男性ホルモン濃度が高ければ高いほど
空間能力が高くなるわけではないようです。
むしろ、高すぎる男性よりは
濃度の高い女性の方が成績がよい、と。

この研究結果を引用して
『話を聞かない男、地図が読めない女』では
「全身毛むくじゃらのキングコングの方が、
 ひげがなかなか伸びない男より、
 数学が抜群にできるというものでもないらしい」
「口ひげがうっすらと生えている女のほうが、
 バービー人形みたいな女より優秀なエンジニアになれる」
と書いていますが‥‥。うーむ、どうなんでしょう?
これはちょっと飛躍しすぎかな、
とおそるおそる言ってみる研究員Aです。

当たり前のことですが
見た目からT濃度を正確に測ることはできません.
さらに、数学の能力、エンジニアとしての能力は
「心的回転テスト」だけじゃなく
さまざまな要因が絡む物ですからね‥‥。

(研究員Aの心のつぶやき)

男性ホルモンが空間能力に関わっているらしいことも
わかりました。さらに気になるのは
どのようにして空間能力の男女差が
生まれるようになったのでしょう?ってこと。

どんな説明をしたって「あとづけ」のよーな
「こじつけ」のよーなものになりそうなのですが
それでも仮説を立てたくなるってのが
人情ってものなのだ。

今のところ、
・力の強い男性は
 石器などの道具の製作を
 担当したために
 高い空間能力が必要だった。
・狩猟を担当する男性は、
 あらゆる角度や視点から
 風景を認識する必要があった。


ゆえに、このように空間能力が発達した男性が
淘汰されて生き残ったのでは?
‥‥との仮説が立てられています。

今回、空間能力うんぬんとお話ししてきましたが
このテーマについて考えていると
日常生活と関わりの深いあること
‥‥そう!「方向感覚」について気になってきませんか?
というか、笑っちゃうほどの方向オンチである
研究員A自身が気になって仕方がないのよー。

というわけで、改めて方向オンチの科学について
とりあげたいと思っています〜。


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参考文献
  女の能力、男の能力
 ドリーン・キムラ著 新曜社
共感する女脳、システム化する男脳
 サイモン・バロン=コーエン著 NHK出版
脳を活性化する性ホルモン
 鬼頭昭三著 講談社ブルーバックス
話を聞かない男、地図が読めない女
 アラン・ビーズ他著 主婦の友社



【心的回転テストの答え】AとBは違う立体です!

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2005-06-24
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