カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

JRお茶の水駅近く、
落ち着いた雰囲気の喫茶店。

斎藤将仁さん(41)は、
背負ってきたリュックのジッパーを
少し、ためらうような手つきで
ゆっくりと、やさしく、開けるのでした‥‥。


第2回
猿人形はカワイイ

山下 ‥‥す、すごい、これですか。
斎藤 ええ、これです。
斎藤将仁さんは、
コンピューターゲームを企画制作している会社の
デザイン部の部長さん。(役員さんでもあるらしい)
でもそんなふうには、ぜんぜん見えない人。
いい意味で、らしくない人。(職場でもジーンズ)
あえて簡単なことばで言いますが、
かっこいい人、です。かなり。
山下 チンパンジー、ですよね。
斎藤 はい、そうです。
山下 ちょっと、リュックから
出してもらっていいですか?
斎藤 あ、はいはい。


山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
ええと、ど、どうしようかな、
こういうのって
何から聞けばいいんですかね。
斎藤 出会い、とか?
山下 あ、いいですね、それ聞かせてください。
斎藤 5年くらい前に、
駄菓子屋で見つけたんです。
山下 え? 駄菓子屋?
斎藤 そう、上野方面の。駄菓子屋って、
なんかこう、
えげつないオモチャとか
売ってるじゃないですか。
山下 ああ、ありますね、
グロいのとか下ネタ系とか。
斎藤 そうそう。そういう、
えげつないものの中にね、
なぜかこいつが、
ポツンと立ってたんですよ。
それを、見てたら、もう‥‥
「僕がこいつを
 救わなくちゃいけない!」って。
山下 あ、わかります、そういう心理。
斎藤 で、救い出して‥‥つまり買いまして、
そのときはバイクで移動してて
カバンとか持ってなかったもんですから、
こいつをシャツの中に押し込んで、
その場から逃げるようにして帰りました。
さて、ここまでで僕、
まだカワイイを言っておりません。
ピンときてないんですね、正直。
それどころか、店内の視線を気にしていたりします。
とにかくもっと聞いてみましょう。
山下 ええと‥‥では、
斎藤さんがこれをカワイイと思うポイント、
教えていただけますか。
斎藤 ポイント、ポイントは‥‥
リアルなところでしょうか。
山下 たしかに、リアルですよねえ。
すっごくそれが気になってました。
斎藤 この、手とか。

山下 ほんと、ちゃんとシワまで表現されてますね。
あれ? これ、プラスチック?
斎藤 そう、カチカチでしょ。
山下 この固さ! ぬいぐるみの固さじゃないですよ。
斎藤 足も、ね。

山下 すごい! デフォルメがない。
斎藤 そうなんです、そこなんです。
逃げてないっていうか。
山下 もう、ぬいぐるみという
雰囲気じゃないですね。
人形って感じ?
ヒトじゃないけど人形。
猿人形?
斎藤 ‥‥‥‥‥‥まあ、
これをどう呼ぶかは別として、
とにかくデフォルメの入った
普通のぬいぐるみには、
何も感じないんですよ。
山下 そうですか。 
これ、どこがつくったのかなあ‥‥
あ、タグに
“PRIME TOY”って書いてますね。
知ってました?
斎藤 いや、まったく‥。
山下 おいくらでした?
斎藤 たしか、千何百円?
そんな高くはなかったです。
山下 駄菓子屋ですもんね。
斎藤 ええ。
山下 ほかに、ここがカワイイって
いうとこあります?
‥‥まだピンときてないんですね、山下は。
さぐっています。
そして、ついに、
そのときはやってくるのでありました。
ちなみに、店内のBGMはずっと
ポール・モーリアです。
斎藤 ほかにカワイイところ‥‥たたずまい、かな。
山下 たたずまいがカワイイ、ですか‥‥‥。

山下 ‥‥‥‥‥‥なんか、
すっごい、こっち見てるんですけど。
斎藤 ははは。つぶらでしょー、目が。

山下 ええ。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ。

山下 ああ!

山下 あああ! こ、これは、
カワイイ!!
斎藤 で、でしょお!? かわいいでしょお?
山下 はい! 今! 今わかりました!!
斎藤 よかったあ、
なんだか山下さんが
ピンときてないようで心配でした。
山下 スミマセン、気づかなくて。
猿人形だなんて言ってゴメンナサイ。
斎藤 いいんですいいんです、わかっていただければ、
猿人形でもいいです。
山下 もう、つかみましたから、ツボを。
はいはい‥‥‥ああ、かっわいいなあ。
よかったよかった。 ほんとによかったー。
ポール・モーリアはやさしく続いています。
山下 ちなみに斎藤さんは、
これをどんなふうに使ってるんですか?
斎藤 え? 使う?
山下 あ、また、ことばが悪かったですね。
たとえば、あの、一緒に寝るとか。
斎藤 あ、寝るときは、いますね、横に。
山下 いますか!
斎藤 います。
寝るときのポーズが決まってるんですよ。
ええと‥‥こんな感じで。

山下 ははは、いいですねえ、ネムたそう。
斎藤 でね、朝になって僕が眼を覚ますでしょ、
そうすると、こうなってたりして‥‥。

山下 うわははははは、いいなあ!
起きてすぐに目が合うんだ。
こりゃ、最高のいちにちの始まりですねえ。
斎藤 はい!
山下 あとは? あとはなにかありませんか?
斎藤 本を、読ませてます。
山下 ほ、本?(わくわく)
斎藤 部屋で僕がくつろいでるときなんかは、
こいつにも本を持たせておくんですよ。
漫画とか。
それぞれが、くつろぐわけですね、干渉せずに。
僕は僕でテレビをみてたりしてて、
しばらーくして、ふと、こいつをみると、
まだ漫画を読んでる。
それが‥‥
山下 カワイイ。
斎藤 はい。
山下 ちょっと、持たせてみていいですか今。
斎藤 あ、じゃあ、せっかくですから、
この山下さんの本を。(プレゼントしたのです)
山下 はいはい、ええと‥‥こうかな?
斎藤 コミック本だと、ちょうど、
うまく持つんですけどね。
山下 ここに、はさんで、と。
あ、斎藤さん、そっち、
おさえといてもらえますか。
斎藤 はいはい、ああ、ずれちゃいますね。
山下 もうちょい、そこを。
斎藤 こうですか?
山下 そうそう、あ、いいですねー。
写真撮りまーす。

山下 ほらあ(デジカメの画像を見せる)。
斎藤 あ! かあわいい、かっわいいなあ!
最高! 大成功!
斎藤さんのカワイイ、
ばっちり、いただきました!
山下 きょうは、ありがとうございました。
斎藤 あ、あの‥‥。
山下 はい?
斎藤 な、名前があるんですよ。
山下 あ! そうか! そりゃそうですよね、
なんていうんですか?
斎藤 ぴ、ぴりまめ。
山下 え? ぴり?
斎藤 ぴりまめ。
山下 ぴりはカタカナで?
斎藤 ええ、まめは漢字で、食べる豆。
山下 ピリ豆。その、由来は?
斎藤 ‥‥ま、まあ、なんとなく。

追求は、よしました。
会社の人にはもちろん、友人にさえ隠していた
このぬいぐるみの話をしてくれただけで、
僕はもう十分光栄に思います。

それから僕たちはしばし、
カワイイについてのアレコレを
楽しくお話するのでありました。
密な時間は、あっという間に過ぎていくもの。
おかわりしたコーヒーも
すっかり冷めてしまいました。

山下 ああ、もうこんな時間だ、
お仕事戻られるんでしょ。
斎藤 ええ。
あの、こんなお話で大丈夫でしたか。
山下 もう、ばっちりですよ。
いや、ほんとに長い時間
ありがとうございまし‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ。
斎藤 え? ‥‥‥‥‥‥あ。


記念すべき初取材は、
こうしてなんとか無事終了。

あー、かわいかった!

ピリ豆、というか、このぬいぐるみ、
どこかで見かけた方は、教えてください。
調べたけれど、ぜんぜんわからないのです。

さてっ、
次なるカワイイはいったい何なのかっ?
んー、
すごいのに出くわす予感、急上昇中っ!
いってきまーす。

 

2003-12-17-WED

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