山下 |
うわあ‥‥。
これも小池さんがつくったんですか。 |
小池 |
はい、粘土でつくりました。 |
山下 |
プレゼントを抱えて‥‥。
あ、そうか、これサンタクロースなんだ。 |
小池 |
僕の場合、ほとんどは
クリスマスカード用にチェブをつくるので。 |
山下 |
クリスマスカード。 |
小池 |
‥‥なんだかちょっと
季節はずれな話ですよね‥‥。 |
山下 |
いえいえ、大丈夫です。
そのお話、ぜひ聞かせてください。 |
電気関係のお仕事をなさっているという
小池徹さんに初めてお会いしたのは、
「男子あみぐるみ部」のイベント会場でした。
奥さまとふたりで来場していた男性の
カバンにぶらさがるチェブラーシカを
目ざとくみつけたタカモリ・トモコ先生が
「山下さん、カワイイもの好きなおじさんがいました!」
と、勢いよく僕のところに連れてきてくれたのです。
はじめましてのご挨拶もそこそこに、
僕はその場で取材のお願いをいたしました。
勢いのある出会い、大切ですね。
ところで、
みなさんはチェブラーシカのことをご存知でしょうか?
ロシアからやってきた、愛くるしいキャラクター。
正体不明の不思議な小動物、チェブラーシカ。
「ほぼ日」でも以前、
「チェブラーシカを連れて。」
というコンテンツが連載されておりました。
詳しくはそちらをご覧くださいませ。
さて、
それではお話をうかがってまいりましょう。
となりのお部屋でニコニコほほえむ
奥さまのあたたかな視線に見守られながら。 |
|
小池 |
クリスマスカードを撮影するために、
ここ数年チェブをつくってるんです。 |
山下 |
お友だちとか知り合いに送る用に。
販売されたりは? |
小池 |
もちろんしないです、個人のたのしみで。
クリスマスカード用ですから
つくるのは年に1回くらいですし。 |
山下 |
これは粘土でできてるんですか? |
小池 |
はい、粘土で。
制作途中の画像があるんですよ、ほら。 |
|
山下 |
あらぁ(笑)。
ほんとだ、粘土ですね。 |
小池 |
これに色を塗って顔を描くんです。
まあ、何度も失敗しながらですけど(笑)。
この年は、ゲーナと車もつくりました。 |
|
山下 |
はあ〜、ワニのゲーナが車に乗って‥‥。
こまかいですねえ。 |
小池 |
いやいや、
僕はなにしろ年に一度つくる程度ですから。
いわゆる、フィギュアっていうんですか?
ああいうのを本気でつくってる人に比べたら
マネごとみたいなもので。 |
山下 |
いえいえ、
そのくらいだから素敵なんだと思います。
なんというか、こう、
マニアっぽく突っ走りすぎてないというか
‥‥うまく言えませんが、
ちょうどいい具合のような気がします。 |
小池 |
ありがとうございます。
で、撮影したのがこのカードなんですよ。 |
|
山下 |
すごーい! こうなりましたか。
‥‥この背景はどうしたんですか? |
小池 |
あ、セットも僕がつくりました。 |
山下 |
え、これを、ぜんぶ? |
小池 |
はい。 |
山下 |
雪も? |
小池 |
はい、雪も。 |
山下 |
‥‥‥‥突っ走ってますね(笑)。 |
小池 |
はい(笑)。
別な年には、こんなのもつくりました。 |
|
山下 |
また、こまかい‥‥ベンチに座って。 |
小池 |
カードはこんな感じです。 |
|
山下 |
はあ〜〜〜。 |
小池 |
あとはこんなのも。 |
|
山下 |
‥‥ほほお〜。 |
小池 |
カードはこうですね。 |
|
山下 |
ああ、いいですねえ。
窓越しにチラッとしか見えないのに
きっちり全身をつくってる‥‥すばらしい。 |
小池 |
こんな、紙粘土でつくった年もありました。 |
|
山下 |
これは、オーナメントですね、
クリスマスツリーに飾るやつ。 |
小池 |
はい。
こういうカードになったんですが‥‥。 |
|
山下 |
おー、きれいです。 |
小池 |
実はツリーがうちになかったんですよ。
それでしかたなく‥‥これ、いいのかな?
ま、あの、これをポケットに入れてですね、
街に出まして、
コンビニの前にツリーがありますでしょ?
それにひっかけて、そっと撮りました。 |
山下 |
はははは、コンビニで勝手にですか。
‥‥ええと、いや、はい、
なんにも悪いことではないと思います。 |
小池 |
そうでしょうか。 |
山下 |
はい。
その撮影風景をみたかったです(笑)。 |
小池 |
あやしいですよね(笑)。 |
山下 |
チェブは、カードを撮影するためのものしか
つくってないのですか? |
小池 |
いや、あとはほら、これが。 |
|
山下 |
ああー!
そっかあ、これがありましたね。 |
小池 |
タカモリ先生にみつけていただいた。 |
山下 |
先生、これを握りしめて、
「山下さん見つけましたー!」って(笑)。 |
小池 |
おどろきました(笑)。 |
山下 |
このチェブがきっかけですものね。
‥‥これも、粘土で? |
小池 |
いや、携帯するマスコットなので
粘土だとこわれてしまううんですよ。
なので粘土で型をとって、
樹脂でつくるんです。
これも制作途中の画像が、こちらに。 |
|
山下 |
へえ〜〜。 |
小池 |
これも何度も失敗をかさねて
10個ほどつくって、友だちに配りました。 |
|
山下 |
こういうのは、お仕事が終わってから
つくられるんですよね? |
小池 |
ええ、あとは休みの日に。 |
山下 |
電気関係といいますと、
具体的にはどんなお仕事で? |
小池 |
制御盤とか配電盤などを
たてものに設置する作業ですね。 |
山下 |
なるほどー、
やはり手先を使うお仕事で。 |
小池 |
いやあ、手が荒れる仕事なんで
こまかい作業はかえって‥‥。
妻が好きなあみぐるみなどは
まったくだめですね、毛糸が引っかかって。
でもま、こういうのならなんとか。
昔からプラモデルとか好きでしたし、はい。 |
山下 |
このマスコット、
たしかカバンについてましたよね? |
小池 |
ええ、そうです(カバンにつける)、
‥‥いつも、ここにぶらさげてます。 |
|
山下 |
はい、
初めてお会いした日もそうでした。
それは休日用のカバンなのですか? |
小池 |
と、言いますと? |
山下 |
お仕事のときには
つかわないのでしょうか。 |
小池 |
いや、兼用ですから、
仕事場にも持っていきますよ。 |
山下 |
持っていきますか! |
小池 |
ええ。 |
山下 |
ということは、仕事場で、
「お、なんだ? そのカワイイのは」とか、
「小池さん、チェブがお好きなんですか!」
みたいなことは‥‥。 |
小池 |
いっやあ、それはないですねえ(笑)。
現場でそういうことはないです。 |
山下 |
仕事場のかたには、
チェブラーシカが好きなことを
お話してるんですか? |
小池 |
それも言ってないです。
職場で趣味の話はしないので。
隠しているわけじゃないんですけどね。 |
山下 |
そうですか‥‥。 |
小池 |
とにかくあの日が初めてだったんですよ、
「チェブラーシカだ!」って
気づいてもらったこと自体が。
会社以外でも言われたことなかったんです。
だからすごくうれしくて、
こうして取材にまで来ていただけたし‥‥。
出会いに感謝しています。 |
山下 |
こちらこそ、ありがとうございます。
‥‥出会いといえば、
小池さんはいつごろどうやって
チェブラーシカと出会ったんでしょう。 |
小池 |
そもそも、の話ですね。 |
山下 |
はい、そもそもの出会い。 |
小池 |
昔からロシアのものは好きだったんです。
タルコフスキーの映画とか。
それと、カメラが好きでして。 |
山下 |
拝見しました。
すごいですよね、ご自分で現像もされて。 |
小池 |
恐縮です。
それで、ある日のこと、
あれは1999年だったと思うんですが、
いつものように暗室に入ってたんですよ。
BGMにロシアの海外放送を流してて、
そのときは「ロシアの声」っていう
日本語の番組をやっていたんです。
その番組で、ロシアのアニメ音楽を紹介する
コーナーになったんですね。
そこで流れてきたのが、
「チェブラーシカの歌」だったんです。
それが、哀愁があって、とてもよくて、
いっぱつでまいっちゃいまして‥‥。 |
山下 |
ということは、
チェブの姿から入ったんじゃなくて、
最初は音楽だったわけですか。 |
小池 |
音楽なんです。ラジオから聞こえてきた。
音楽がかわいかった。 |
山下 |
小池さん、ロシア語は? |
小池 |
ぜんぜんわかりません。
でも、とにかく音楽がかわいらしくて。 |
山下 |
その歌は、
チェブが歌っている歌なんですか? |
小池 |
そうです。
チェブラーシカが歌うチェブラーシカの歌
というふうに紹介されていました。 |
気になりますよね、
小池さんをいっぱつでとりこにした
「チェブラーシカの歌」。
こちらで聴くことができます。
(ずらりとロシア語が並ぶページの
音声ファイルリストのいちばん上にある
Теперь я Чебурашка...
というのがその曲です)
お話の腰を折って失礼いたしました。
小池さんとチェブラーシカの
熱き出会いの物語は、続きます。 |
|
山下 |
姿を知らないまま夢中になって、
その後でチェブをみるのですよね? |
小池 |
はい。
ロシアが好きな友だちがいたので、
わりとすぐにみることができたんです。
それはレコードジャケットでした。
マンガのLPのジャケットに、いたんです。
目が大きくて、耳の大きい、
猿のような、正体不明の小動物‥‥。 |
山下 |
いかがでしたか最初の印象は。 |
小池 |
これが! と思いました。
やっぱりかわいい!! と。
でも、情報といったら
それくらいしかなかったんです。
しばらくはそんな感じで‥‥
それが、ある朝のことです。 |
山下 |
なにかが起きたんですね。 |
小池 |
はい、2001年の夏でした。
新聞にチェブの写真が載ってたんです。
映画の公開を知らせる記事でした。
おどろきましたよ、
まさか東京で大々的にチェブの映画を
やるなんて思ってもなかったので。 |
山下 |
とうぜん、観にいきましたよね。 |
小池 |
はい、渋谷の映画館まで、ひとりで。
当時まだ独身でしたので。 |
山下 |
え? ご結婚されたのは? |
小池 |
3年前です。 |
山下 |
あ、じゃあまだ今は新婚さんですね。 |
小池 |
いや、まあ‥‥‥‥はい(笑)。 |
山下 |
それはともかく(笑)、
映画はいかがでした? |
小池 |
‥‥すばらしかったです。
ほんとうにすばらしかった。
もう出だしの音楽から引き込まれて‥‥。 |
山下 |
すべてが、小池さんの好みだった。 |
小池 |
これが、そのときのチラシと、
劇場で買ったチェブです。 |
|
山下 |
ああ、貴重な記念品です。 |
小池 |
このときは、結局3回映画館にいきました。 |
山下 |
そんなに‥‥。 |
小池 |
‥‥けなげなんですよ、チェブラーシカが。
なんかこう、ポツーンとして。
さみしいんだけど、しあわせっていう‥‥。 |
山下 |
そうですか‥‥。 |
小池 |
ラストシーンが終わっても、
席を立てなかったんです‥‥。
最後に、
「過ぎ去った時間は取り戻せないけど
未来はもっと素敵だよ」
ていうセリフがありましてね‥‥
このシーンが、もうほんとに‥‥。
今こうやってお話してても‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥。 |
小池 |
‥‥‥‥胸にこみあげてきてしまって。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥はい。 |
小池 |
チェブラーシカの表情が、
また‥‥すばらしく、けなげ‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
小池 |
‥‥‥‥‥‥すみません。 |
山下 |
いえ、そんな‥‥。 |
小池 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
ご心配になったのでしょう、
となりのお部屋から奥さまがやってきました。
静かな笑顔で小池さんのとなりに座ります。 |
|
奥さま |
‥‥結婚してはじめて主人と一緒にDVDで
チェブラーシカをみたときに、
私、びっくりしたんですよ。
最後のシーンで、なんだか、
となりから嗚咽みたいなのが聞こえてきて。
どうしたんかな? と思ってみたら、
号泣してるんです。 |
小池 |
号泣はしてないでしょ! |
奥さま |
うそ(笑)、
ぽろぽろぽろぽろ泣いてて、
ほんとにおどろいたのよ。 |
小池 |
でも号泣じゃなかったでしょ! |
奥さま |
何度も観ている映画なのに(笑)。 |
小池 |
だから! 泣いてなんかないって‥‥。
‥‥‥‥すみません、ちょっと失礼します。 |
小池さんはすっくと立ち上がり、
どすどすどすと、
そのままキッチンの方へ姿を消していかれました。
当コーナー、
きわめて異例のことですが、
しばし奥さまと山下の会話をお届けいたします。 |
|
山下 |
‥‥な、なんだか、申し訳ないです、 |
奥さま |
いえいえ、こちらこそすみません。 |
山下 |
‥‥ご主人、
気分を害されたりしてないでしょうか? |
奥さま |
そんなことは、ぜんっぜんないです(笑)。
マンションのドア、ご覧になりましたよね? |
山下 |
はい。
写真を撮らせていただきました。 |
|
山下 |
Welcome Yamashita sanだなんて、
こんなに歓迎していただいて。 |
奥さま |
お客さまがすくない家ですから、
ほんとにたのしみにしてたんです、主人。
もう、ウキウキして。
山下さんに食べてもらうんだって、
先週からパンケーキの練習してたんですよ。 |
山下 |
え? パンケーキ? |
奥さま |
いま台所で、いっしょうけんめい
焼いていると思います(笑)。 |
山下 |
恐縮です‥‥。
‥‥ご主人は、ほんとに
チェブラーシカがお好きなんですね。 |
奥さま |
ええ、もう、びっくりですよ。
あんなにすごい人形をつくってるなんて
結婚するまで知らなかったんです。
こんな、ねえ、ワニの歯を精巧につくったり
カードのためにそこまでやる人だなんて、
ちっとも知らなかったんですよ。 |
山下 |
‥‥奥さんとしてはやはり、
そういうだんなさまというのは
ちょっと困ってしまう感じでしたか? |
奥さま |
いいえ。
すばらしいと思いました。 |
山下 |
そうですか(笑)。 |
奥さま |
あ、そうそう、
ことしのバレンタインデーに、
私これを主人にプレゼントしたんです。 |
|
山下 |
あみぐるみのチェブですか! |
奥さま |
山下さんみたいに編めないですけど。 |
山下 |
いやそんなことないです、すごいです。
‥‥白いチェブなんですね。 |
奥さま |
ホワイトチェブは、トリノオリンピックの
ロシア選手団の公式マスコットだったんです。 |
山下 |
あ、そうでしたっけ。
アテネではふつうのチェブラーシカ
だったんですよね。 |
奥さま |
はい、あのひと、アイロンプリントで
自作のオリンピックTシャツをつくって
着せたりしてるんですよ(笑)、ほら。 |
|
山下 |
ほんとだ、五輪がゆがんでます(笑)。
ご夫人、よっぽどほしかったんでしょうね。 |
奥さま |
ねえ(笑)。
けれどトリノオリンピックの
ホワイトチェブのグッズは
なかなか珍しかったり高価だったりして、
主人は持っていないんですよ。 |
やがて、小池さんがリビングに戻ってきました。
ホカホカと湯気が立つお皿を持って。
奥さまはまたスッと、おとなりの部屋へ。 |
|
小池 |
いやあ‥‥
この前のほうがうまく焼けたんですけどねえ。 |
山下 |
みせてくださいみせてください。 |
小池 |
こんな感じで‥‥。 |
|
山下 |
うっわあああ!
チェブ型のパンケーキじゃないですか! |
小池 |
はい。 |
山下 |
すごい! すばらしいです! |
小池 |
いやいやいやいや。 |
山下 |
小池さん、せっかくですから
このパンケーキのまわりに
この部屋のチェブをぜんぶ並べませんか。 |
小池 |
いいですね。 |
山下 |
パンケーキが冷めぬよう、手早く。 |
小池 |
はい、パンケーキが冷めぬよう(並べる)。 |
山下 |
パンケーキが冷めぬよう(並べる)。 |
小池 |
パンケーキが冷めぬよう(並べる)。 |
山下 |
パンケーキが冷め‥‥ちいさなチェブは
倒れちゃいますね。 |
小池 |
ぱったり倒れやさんですから(笑)。 |
山下 |
はい、まさしく(笑)。
‥‥‥‥さあ、並べましたよ〜。 |
|
小池 |
チェブたちがうれしそうです(笑)。 |
山下 |
いただきましょう、冷める前に。
一枚ずつ小皿にとって。 |
|
小池 |
でもその前に、もうひとついいですか。 |
山下 |
なんでしょう? |
小池 |
チョコレートのペンがあるんです。 |
山下 |
あ。 |
小池 |
チェブの顔を描いてみます(描く)。 |
山下 |
おー、いいですねえ。 |
|
小池 |
できた。 |
|
山下 |
まぎれもなくチェブです!
じゃあ、僕も‥‥(描く)。
こうなって、こうして‥‥よいしょ。
どうでしょう? |
|
小池 |
‥‥お、なんだか、じょうずですね。 |
山下 |
器用貧乏と言われ続けていますから。 |
小池 |
僕、もう1回挑戦してもいいですか。 |
山下 |
真のチェブファンとしては
このまま終われないというわけですね。
どうぞどうぞ。 |
小池 |
(描く)丸をかいて‥‥こうなって、
ここがこうで、ちょんちょん、と。
さあ、どうでしょう? |
|
山下 |
おみごとです、まいりました(笑)。
|