山下 |
わあ、ねずみとうさぎの絵本ですか。
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村田 |
60年代初期に出版されたものです。
ストレートにかわいいでしょう?
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山下 |
はい、直球ですね。
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村田 |
でも、直球でベタにかわいいにしても、
やっぱり古い絵本の良さがあるんです。
単なるファンシーとは違うでしょ?
昔らしさを残してるといいますか‥‥。
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山下 |
はい、その感じ、とてもよくわかります。
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村田さん(既婚)が経営する
「ファビュラス・オールド・ブック」
を紹介してくださったのは、
前回ご登場の福田利之さんでした。
「アメリカの古い絵本がたーくさんあるんです。
山下さんそういうのん、お好きでしょ?」
「す、好きです! そこ、行きます!!」
こうして訪れたお店には、
ほんとに大量の絵本が並んでいました。
大好物に囲まれて、ゴキゲンの山下哲(41)。
窓のそとは静かな夏。
店内のスピーカーからは、
古きアメリカの音楽がゆっくり流れています。 |
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山下 |
‥‥たまらないです、
40年代から60年代のアメリカのもの。
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村田 |
“いいアメリカ”ですよね。
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山下 |
そうそう、“いいアメリカ”。
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村田 |
豊かでたのしい時代のアメリカです。
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山下 |
はい‥‥。
あ、これもよさそうですね。
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村田 |
ウラジミール・ボブリさんという人の本です。
ボブリさんはウクライナ生まれなんですよ。
ロシアや東欧圏の作家が
アメリカの絵本に与えた影響って、
なかなかに大きいんです。
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山下 |
そうだったのですか‥‥(パラパラ開く)。
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村田 |
様々な文化がミックスされているのが
またアメリカらしいですよね。
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山下 |
ああ、この、色‥‥。
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村田 |
いいですよね、この時代の印刷。
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山下 |
はい、見ていて目がきもちいいです。
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村田 |
そうですか(笑)。
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山下 |
村田さんはこういう絵本をすべて
ご自分の足で探すと、うかがいましたが。
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村田 |
そうですね、家内とふたりで
アメリカ中をぐるぐるまわって探すんです。
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山下 |
もう何度も?
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村田 |
20回ほどまわりましたか。
好きなんですね(笑)。
行くたんびに見たことない絵本や
たのしい人たちに出会えますから。
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山下 |
そうやって集めた絵本が、
ここには、これ、何冊あるのでしょう?
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村田 |
うーん、だいたい、2000册くらい?
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山下 |
はあ〜、すごいです。
どこから手に取ったらいいのか‥‥。
ん? あの黄色いのは?
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村田 |
気になるの、ありました?
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山下 |
これが目にとまりました。
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村田 |
ああそれ、かわいらしいですよね。
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山下 |
水泳を習いに行く絵本ですか(パラパラ)。
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山下 |
うわあ、こっれはいいなあ‥‥。
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村田 |
あとは、そうですね‥‥
山下さん、こんなのお好きじゃないですか?
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山下 |
これですか。
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村田 |
アグナー・グラボフさんという人の絵本です。
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山下 |
おお、これはまた(パラパラ)、
ラフな感じでいいですねー。
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村田 |
お好きですか。
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山下 |
はい、間違いなく好きです。
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村田 |
そうですか、ならこれもきっと‥‥。
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村田さんは、次々にすばらしい絵本を
見せてくださいます。
しばし、至福のひととき。
この日僕は、
少なくても100冊以上の絵本を
手に取って開いたものと思われます。
しかし、それでも、まだ、
本棚の中では千九百冊という絵本たちが、
ページが開かれるのを待っているのです。 |
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山下 |
いやはや、ほんとにすごい量です。
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村田 |
でも、山下さんもけっこう
持ってらっしゃるんでしょ?
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山下 |
いえいえ、うちにあるのは日本の絵本で、
洋書のは少ないのです。
子どもに「読み聞かせ」をするために
買ってましたから。
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村田 |
「読み聞かせ」、それはいいですね。
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山下 |
あの、失礼ですが村田さん、お子様は‥‥。
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村田 |
いや、まだいないのですよ。
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山下 |
そうですか。
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村田 |
「読み聞かせ」は、とてもすばらしい
絵本の使い方だと思います。
やっぱり子どものためのものですから。
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山下 |
子どもは夢中になって聞きますものねえ。
いいですよね「読み聞かせ」‥‥。
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村田 |
そうですね、読むほうも聞くほうも
きもちのいいことですよね‥‥。
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山下 |
‥‥‥‥あの、村田さん。
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村田 |
はい? なんでしょう。
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山下 |
ちょっと、やってみませんか、僕たちで。
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村田 |
やってみるって、「読み聞かせ」ですか。
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山下 |
村田さんがお父さんになったときの
練習にもなるじゃないですか。
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村田 |
‥‥‥‥ええと、それはつまり、
僕が山下さんに読んで聞かせるわけですね。
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山下 |
はい、逆では意味がないので。
‥‥どうでしょう、読んでくださいませんか。
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村田 |
‥‥‥いいですよ、読みましょう。
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山下 |
読んでくださいますか!
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村田 |
はい、なんだかたのしくなってきました。
で? どれを読みます?
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山下 |
それでは‥‥‥‥これを。
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村田 |
‥‥また格別かわいいのを見つけましたね。
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山下 |
いま直感で選びました。
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村田 |
じゃ、読みます。
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山下 |
あ、待ってください。「読み聞かせ」は
すぐ近くで読むものですよね。
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村田 |
このくらいですか(寄る)。
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山下 |
もっと、こう(寄る)
ひざが触れるくらい、これくらいで‥‥。
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山下 |
では、お願いします。
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村田 |
『ダディ・カムズ・ホーム』
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山下 |
お父さんが帰ってくるお話ですね。
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村田 |
Mary is a little girl with yellow pig tails…….
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山下 |
村田さん、すみません!
できれば、日本語でお願いできますか。
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村田 |
あ、日本語で。
わかりました、では簡単に訳しますね。
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山下 |
よろしくお願いします。
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村田 |
ええと(黙読)‥‥‥‥。
このメアリーというのは4歳なんですね。
で、彼女は黄色い髪の毛で‥‥。
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山下 |
ごめんなさい! 何度も止めて。
申し訳ないのですが、もう少しこう親密に、
お母さんが子どもに読んでいるような感じで
お願いできませんか。
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村田 |
わかりました、やってみます。
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山下 |
注文ばかりして恐縮です。
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村田 |
‥‥‥‥メアリーは、
黄色い髪がかわいい4歳の女の子です。
ある朝、メアリーは「学校ごっこ」で、
彼女の小さい弟のトミーに、
「うさぎ」ということを教えていました。
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村田 |
その時、ドアのベルが鳴りました。
郵便屋さんが電報を届けに来たのです。
お母さんが、その電報を読みました。
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村田 |
「まあ、なんてこと!」
お母さんが言いました。
「お父さんがきょう帰ってくるんですって!」
メアリーは手をたたいて喜び、言いました。
「わたし、何でもお手伝いするわ!」
彼女は、お洗濯をしたり‥‥。
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村田 |
お父さんのクツを磨いたりしました。
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村田 |
そして、お父さんのために
タマゴをとりに行きました。
その途中、
「お父さんが帰ってくるのよ!」
と、カカシに報告。
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村田 |
タマゴをわけてくれたニワトリにも
「お父さんが帰ってくるのよ!」
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村田 |
道で会った友だちのジェリーにも
「お父さんが帰ってくるのよ!」
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村田 |
友だちのジェリーは、
「お父さんが帰ってくるなら、
こいつでビックリさせてあげなよ」
と言って、メアリーにトカゲをあげました。
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村田 |
メアリーはジェリーを連れて家に戻り、
お父さんが帰ってきた時の練習をしました。
ジェリーが、お父さんの役です。
「さあ、犬のフロッピー、
そのお父さんに新聞を届けるのよ!」
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村田 |
メアリーは最良のドレスを着て、
髪にブラシをかけました。
これで準備は完ぺきです。
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村田 |
さあ、ドアのベルが鳴りましたよ。
それはきっと、お父さんです。
メアリーは、走って迎えに行きました。
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村田 |
‥‥おしまい。
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山下 |
あ、ありがとうございました!
微妙に、いいお話でしたねえ、これ。
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お店の奥から、
抑えた笑い声が聞こえてきます。
どうやら奥様の陽子さん、
ご主人の「読み聞かせ」が終わるまで
必死に笑いをこらえていた様子。
それからあとは奥様も加わり、
三人でたのしくお話をしました。
絵本のこと、神戸のこと、食べ物のこと‥‥。
気がつけば、夕刻。
すっかり長居をしてしまいました。
新幹線の時間がせまっています。
僕はあわてて腰をあげ、
居心地の良いそのお店を
あとにしたのでありました。
20時10分、山下を乗せたのぞみ66号が
新大阪のホームをすべり出ていきます。
息子が待つ東京に向かって。
DADDY GOES HOMEです。 |
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