カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

世田谷区、駒沢大学キャンパス近く。
昼下がりを憩う人で賑わう心地よいカフェ。

長沼良成さん(41)は
やや緊張のおももちで、バッグの中から
身長約30センチのお人形を取り出すと、
そっと、テーブルの上に寝かせるのでした。

第9回
ブライスはカワイイ。

山下 ブライスって、
こうして手に取るのは初めてなんですよ。
長沼 あ、そうなんですか。
‥‥ええと、どうしましょう、
このテーブルに並べていいんでしょうか。
山下 え? 並べる? まだあるんですか。
長沼 一応ぜんぶ持ってきました。
山下 ぜひ、並べてください。

長沼良成さん(既婚)は、
広告やカタログのグラフィックを
制作する会社にお勤めのデザイナーさん。

長沼さん、11体のブライスを並べてくれました。
テーブルの上は、お人形さんでいっぱいです。


山下 ああ、すごい眺めですねえ。
ええと‥‥名前は、つけてるんですか?
長沼 つけてますよ。シュガー、ココア、シフォン、
ミルフィー、ラッテ、メープル、レモン‥‥
店員 ご注文はお決まりでしょうか。
山下&
長沼
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
店員 ご注文のほうは‥‥。
山下&
長沼
ジンジャエール。
店員 少々お待ちください(去る)。
山下 ‥‥注文が同じでしたね。
長沼 おいしいですよね、ジンジャエール。
山下 はい。‥あの、少し恥ずかしいですね。
長沼 ええ、みんなチラチラこちらを見ています。
山下 ‥‥気にせずやりましょう。
ええと、じゃあまず、ここがカワイイという
ポイントを聞かせていただけますか。
長沼 ポイントは‥‥
顔と体のバランス、でしょうか。
山下 顔、でっかいですよね。
長沼 立ちませんから、頭が重くて。
山下 はははは。
長沼 あとは、そう、
自分で手を加えられるところですね。
たとえばこの髪、僕がパーマかけたんです。

山下 え? それはパーマ液で。
長沼 いやいや、お湯で。
三つ編みしてあげて、お湯をかけると
こういうクセがつくんです。
山下 あ、なるほど。
長沼 それと服はぜんぶ僕の手縫いです。
山下 ‥‥あの、長沼さん、
いまさりげなくすごいことを言いましたよね。
長沼 え?
山下 これぜんぶ長沼さんが?
しかも手縫い?
長沼 はあ、自己流ですけど、こんな道具で。

山下 それって、すっごいことじゃないですか!
長沼 いや、あの、やめてください、そんな。
僕よりすごい人はいっぱいいるので。
山下 そうなんですか。
長沼 ネットでたくさん販売している人とか、
アパレル系のすごい技術の人とか。
僕なんか、とてもとてもそこまでは‥‥。
山下 でも、やっぱりすごいです。
だって、本業だってお忙しいでしょう。
手縫いっていったら時間かかりますよね。
長沼 えらいかかります。
山下 縫うのは、お休みの日ですか。
長沼 ええ、それと会社から帰ってから。
ですからまあ、毎日ですね。
山下 毎日!
長沼 少しずつやってます。
帽子なんかは時間がかかるんで。
山下 これですね。

山下 ちゃんと裏地も‥‥人間のと変わらない。
長沼 人間用の型紙を50%縮小コピーして
そのままつくるんです。
山下 はー、そうなんですか。
長沼 あとは、これもたいへんでした。

山下 和服、ああ、すごいなあ、
この帯のところとか‥‥
店員 お待たせしました。
山下&
長沼
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
店員 ごゆっくりどうぞ(去る)。
山下 ‥‥気にせず続けましょう。
ええと、あの長沼さん、この中で
いちばんカワイイのとか、あります?
長沼 いちばんですか? うーん‥‥。
逆に、山下さんから見てどうでしょうか。
山下 僕ですか。
長沼 客観的な意見をお聞きしたいです。
どれがいちばんカワイイですか?
山下 ああ、ええと‥‥や、むつかしいですねえ、
このカジュアルなのにも魅かれますが‥‥。

長沼 はいはい。
山下 でも、やっぱり、これだなあ。

長沼 このコ。
山下 ええ。着ぐるみっていうのが、また。
この、あごのところが、こう、
布でかくれてる感じが、もう‥‥。

長沼 ツボですか。
山下 ど真ん中のストライク。
頭をなでたくなります。
長沼 どうぞどうぞ。
山下 では。

長沼 じつは僕も、そのコがいちばんなんです。
山下 趣味が似てるんだ(笑)。
これ、チェブラーシカっぽいですよね。
長沼 あ、ご存知ですか! そう、意識してます!
山下 やっぱり! 「ミトン」みました?
長沼 みましたみました!

と、ここからしばし、
僕たちは互いに好きなもののお話を
アレコレするのでありました。
これが実に、共通のものが多くてびっくり。
嗜好性ばかりか生年月日まで近いことも判明。
「なんだか僕たち同じことが多いですねえ」と
初対面から盛り上がったのであります。

山下 あ! 長沼さん、大変です。
長沼 どうしました?
山下 デジカメの電池が切れかかっています。
アレを撮らないと。
長沼 あ、目玉の色が変わるとこですね。
山下 そう、ブライスの最大の特徴ですからね。
じゃ、このコで。

山下 長沼さん、頭のうしろのヒモ、
ひっぱってください、早く!
長沼 はいはい、いきますよ。(カッチン)

山下 オッケーです、ヒモ、放して!
長沼 はい。(カッチン)

山下 やった、電池、間に合いました!
長沼 よかったです!
店員 こちらおさげしてよろしいでしょうか。
山下&
長沼
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。



あー、不思議なかんじで、かわいかった。

さて、
カフェを出てからバス停までの道、
僕と長沼さんは、
思わぬ共通点をもうひとつ発見。
なんなんでしょうかねえ、これは?
奇妙なことに、ふたりとも、
すっかり同じスニーカーを履いていたのです。

デジカメの電池が切れたので
長沼さんの携帯カメラで撮影。


2004-02-04-WED

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