梅雨入り前のとある土曜日、午後1時。 石神井公園、ボート乗り場近くの小高い広場。 村田剛さん(45)は、 はにかんだ笑顔で静かに腰を落とすと、 やわらかな毛に包まれたその生き物を、 たくましい肩にひょいとかつぎあげるのでした。
うさぎと飼い主たちが公園に集り、 散歩をしながら交流を深める‥‥。 そんな「ラビットミーティング」という 催しを知ったのは、ひと月ほど前のことでした。 当然僕は思いつきます、 「行けば、うさぎを愛する男に必ず会える」 そして、当日。 バスを乗り継いで訪れた広場では、 予想を超える数のうさぎが跳ねていました。 その数ざっと60羽。 80名ほどの飼い主さんは、ほとんどが女性です。 その中から僕は、家族連れでいらしていた男性、 村田剛さんを目ざとく発見。 村田さんは、とても恥ずかしそうにしながらも 取材に応じてくださいました。 非常にシャイなご様子の方が、 見知らぬ僕を受け入れてくれたのです。 それはきっと、 僕も自分のうさぎを連れてきたからでしょう。
それから僕と村田さんは、 たくさんのうさぎを見てまわることにしました。 村田さんは、ななちゃんを肩に乗せて。 僕は自分のうさぎが入ったキャリーを持って。
申し上げておきますが、 「取材をおもしろくするために」 などという考えは誓ってありませんでした。 ただひたすら、うらやましかったのです。 ハーネスで散歩とか、してみたかったのです。 脱兎のごとく、という言葉があります。 まさに、それでした。 会場となった広場は大騒ぎ。 猛スピードで開場を駆け回るパンク。 必死に追いかける僕と村田さん。 やがてパンクは広場を飛び出し、 草むらに突入していってしまいました。 撮っている場合ではないのですが1枚だけ。 広い公園です。 人が入れない場所に、もぐり込みでもしたら、 もう捕まえるのは不可能‥‥。 僕は、頭が真っ白になりました。 そのときです。 参加者の中から躍り出たふたつの影が、 僕と村田さんに素早く合流したのです。 ふたつの影は‥‥おじさんでした。 大多数の女性参加者の中にまぎれていた 2名の男性が、加勢しにきてくれたのです。 「はいっ、そっち行きましたあ!」 「よし! 向こうに先まわりです!」 「そこで、はさみうちにしますよお!」 4人の男が全力で走り回ること約10分。 気がつけば、公園に隣接する民家の庭。 追い詰められたパンクは、 古タイヤのすき間でふるえていました。 無事、捕まえることができたのです。
すっかり忘れていました。 当日僕は、パンクの写真をコンテストに ノミネートしていたのでした。 参加者に赤いシールを配って、 それぞれがカワイイと思う写真にそれを貼り、 いちばんシールの多い写真が優勝、 そんなシステムです。 僕たち4人が駆けつけると、 表彰式はちょうど終わったところでした。
村田さんとななちゃん、 加島茂さん(推定35才)に励まされ、 佐藤隆さん(39)には 手作りの本を見せていただき、 僕とパンクは会場をあとにしました。 バスを乗り継ぎ、わが家に到着。 キャリーから出たパンクは、 さすがにだいぶ疲れた様子で ころんと床に寝ころびます。 「‥‥怖い思いをさせてすまなかった」 僕はそう言いながら、 小さな頭を幾度もなでるのでありました。
2004-06-09-WED