山下 |
なんとか、持ってきました(笑)。
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杉山 |
ああ、たいへんだったでしょう。
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山下 |
はい(笑)。バスに乗ろうとして断られたり、
タクシーが停まってくれなかったり‥‥。
でもとにかく、無事に運べてよかったです。
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杉山 |
なんだか、恐縮ですねえ。
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山下 |
いや、製作をお願いしたのは僕ですから
材料を用意するのは当然ですよ。
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杉山由(すぎやまゆかり)さんは、
独特にかわいい作品を生みだす造形作家です。
つかう素材はすべて、発泡スチロール。
「つくっているところを見てみたい!」
僕は電話で、お願いしてみました。
すると、「いいですよ!」と快いお返事。
作業場には、
絵本屋さんの2階をお借りしました。
たのしい作業にピッタリの場所です。
さて、杉山さん、
持ってきたカバンからシートを出して広げると、
手際よく道具を並べていきます。 |
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山下 |
これがスチロールを切る道具ですか。
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杉山 |
ニクロム線‥‥、電熱線ですね。
熱で溶かしながら切るんです。
じゃあ、はじめますよー。
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山下 |
あ、あ、もういきますか。
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杉山 |
時間、きまってるんですよね?
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山下 |
はい、3時間です。大丈夫でしょうか。
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杉山 |
3時間ならぜんぜん大丈夫。
時間あまりますよ、きっと。
(ニクロム線をスチロールにあてる)
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じゅ、じじじじじ‥‥ |
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山下 |
わー、おもしろいなあ‥‥。
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ぱこんっ |
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山下 |
ずいぶん大胆にいくんですね。
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杉山 |
ええ。(じゅ、じじじじ‥‥ぱこんっ)
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山下 |
‥‥ところで、きょうは何を
つくっていただけるのでしょう?
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杉山 |
ええと(じじじじじ‥‥ぽこっ)恐竜を。
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山下 |
恐竜ですか! それはたのしみです。
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杉山 |
(接着剤を塗る)‥‥こんなかんじで。
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山下 |
ん? 横長‥‥ということは、
四つ足タイプの恐竜ですか。
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杉山 |
そうそう、ネッシーみたいなやつ。
(じゅ、じじじじじじ)‥‥よいしょっと。
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山下 |
‥‥あの、杉山さん。
話しかけても平気ですか? 気が散りません?
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杉山 |
大丈夫ですよー。(じじじじじじじ‥‥)
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山下 |
ええと、杉山さんにとってですね、
発泡スチロールは、ずばり
かわいいものと言えますでしょうか?
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杉山 |
そうですね、言えますね。(じじじ‥‥)
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山下 |
そうですか! それは、どんなところが?
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杉山 |
うーん、白いところ?(じじじじじじ‥‥)
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山下 |
たしかに白くてきれいですが‥‥ほかには?
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杉山 |
なんというか、(じじじじじじ‥‥)
カワイイもの好きな僕としてはですね。
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山下 |
は、はい。
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杉山 |
これでなくてはだめな素材なんです。
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山下 |
といいますと?
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杉山 |
僕のは、立体のラクガキですから。
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山下 |
立体のラクガキですか。
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杉山 |
ほら、ラクガキって(じじじ‥‥)、
はやくササッと描いたほうがいいでしょ。
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山下 |
ええ、はい。
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杉山 |
鉄とか木とか石とかも魅力的な素材ですが
スピードがでないんです。(じじじじ‥‥)
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山下 |
なるほど、これがいちばんはやいのですね。
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杉山 |
はい。僕は、いっきにザクザクやらないと
かわいくできないもんで‥‥。
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ざっくりと形を決めるカットが終わると、
ニクロム線をあやつる杉山さんの手の動きが
急にグングン、はやくなっていきます。
じゅ、しゅぱっ、しゅっ、すぱっ。
しゅん、すぱっ。しゅしゅ、すぱぱぱ‥‥‥。 |
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みるみるうちに‥‥ |
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脚ができて‥‥ |
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しっぽがとんがり‥‥ |
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頭の形もみえてきました |
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山下 |
雪をさくさく切ってるみたいですね。
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杉山 |
札幌の、雪祭りの像みたいでしょ。
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山下 |
はい、スコップで切った白い雪のようです。
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杉山 |
‥‥‥‥よしと。ちょっと休憩しますか。
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お店を出て、僕と杉山さんは
ふたりでファンタグレープを飲みました。
飲みながらアレコレたのしく話していると、
時間はたちまち過ぎていくもの。
気がつけば、ちょっとのはずの小休止は
ついつい大休息になっておりました。
のんびり作業場に戻る、男ふたり。 |
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山下 |
‥‥うーん。しかしこれ、杉山さん、
ほんとに間に合いますかね?
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杉山 |
あとはこまかい部分だけですから。
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じ、じじ‥‥ |
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じじじ‥‥ |
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山下 |
‥‥いや、でも杉山さん、
もう残り1時間を切ってますよ。
片づける時間もけっこうかかりますでしょ。
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杉山 |
ちょっと休憩とりすぎましたか(笑)。
では、大丈夫だとは思うのですが、
万一のことを考えて30分だけ延長できますか?
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山下 |
延長‥‥、できるのかなあ‥‥。
お店の人に聞いてきますね(去る)。
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山下 |
(戻ってくる)杉山さーん。
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杉山 |
あ、どうでした?
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山下 |
だめでした。次の予定が入っているそうです。
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杉山 |
そうですか。ま、もうだいたい完成ですし‥‥
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山下 |
でも杉山さん、いいお知らせもあります!
この恐竜、色を塗って完成したら
お店に飾ってもらえることになりました!
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杉山 |
‥‥‥‥え。
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山下 |
え? な、なにか?
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杉山 |
色、塗るのですか?
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山下 |
はい、そのほうがかわいいですから。
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杉山 |
‥‥‥‥‥‥わかりました。
とりあえず作業はここまでにしましょう。
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山下 |
え? 色は、色はどうするのです?
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杉山 |
公園で塗りましょう。幸い絵の具はあります。
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山下 |
公園? 井の頭公園ですか。
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杉山 |
そう。さあ、片づけて移動しますよ。
僕はペンキとか道具を持っていくので、
山下さんは恐竜と、その歯を運んでください。
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山下 |
歯は、色を塗ってからくっつけるんですね。
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杉山 |
はい。口をあけて歯をむいている姿とか、
僕は、むしろそういう凶悪なのを
かわいいと感じるんですよ。
だから歯は、力をいれてつくるんです。
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山下 |
人形に目をいれる、などと言いますが
杉山さんの場合は最後に歯をいれるのですね。
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杉山 |
そうですね、歯は大切です。
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山下 |
わかりました、気をつけて運びます。
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こうして僕と杉山さんは、
駅の反対側にある井の頭公園へと移動しました。
公園についたころには、すっかり夜。
街灯の下で作業を再開! なのですが‥‥。 |
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山下 |
‥‥‥‥‥やってしまいました。
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杉山 |
‥‥‥‥‥ええ。
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山下 |
も、申し訳ありません。
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杉山 |
‥‥山下さん、その歯を落としたとき
気づかないでどんどん歩いてましたよね。
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山下 |
はい‥‥、土曜でひとが多くて‥‥。
なさけないかぎりです‥‥。
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杉山 |
そしたら、サラリーマンの人が
「落としましたよ」って
拾って持ってきてくれたでしょ。
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山下 |
‥‥はい。
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杉山 |
‥‥あのサラリーマンの人、
なんだか、ニッコニコしてましたねえ。
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山下 |
そ、そうでしたか?
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杉山 |
はなれた場所から見てたんですが、
なんか、すごくいい光景でした。
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山下 |
そうですか‥‥。
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杉山 |
ええ。奇妙な光景でもありましたが(笑)。
‥‥歯は、くっつければ大丈夫ですから。
さあ、色、塗っちゃいいましょうよ。
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山下 |
は、はい!
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杉山さんは素晴しいスピードで
恐竜に色をのせていきます。
爪を塗り、目を描き、最後に歯をいれました。
僕らは手早く荷物をまとめると、
また絵本屋さんへと引き返すことに。
さあ、
命を吹き込まれた恐竜が、
夜の吉祥寺に飛びだしましたよ!!! |
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「うおおおおおー! いくぞーー!!」 |
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「ここで働かせてくださいっ!」 |
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「あっ、ストリートミュージシャンだ!」 |
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「カッコイイなあ〜!!」 |
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途中、じつにいろいろなタイプの人々から
「お、すげっ! まじカワイイじゃん!」
「3才の孫が恐竜に夢中でねえ」
「Hey!! you make it?」
などと声をかけられながら、
僕らは、絵本屋さんに戻ってまいりました。 |
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山下 |
‥‥さて、じゃあ最後に店内で記念撮影して
恐竜とお別れしましょうか。
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杉山 |
あ、いちおうサインを入れておきますね。
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山下 |
‥‥ジョジョ! それは名前ですか!
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杉山 |
はい。
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山下 |
いいです!
名前をつけるのはとてもいいことです!
じゃ、ジョジョをここにのせて、撮りますよー。
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杉山 |
‥‥あの、きょうはありがとうございました。
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山下 |
え。や、やめてください、そんなお礼なんて。
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杉山 |
とても、たのしかったんです。
その‥‥つくることの原点にもどれました。
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山下 |
いえいえ、感謝するのはこちらの方で‥‥
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杉山 |
いやいやいや、ほんとうにどうも‥‥
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ふたり |
ありがとうございました。
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