カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

年が明けたばかりの木曜日、午後1時。
中野駅近くの静かなカフェ、
タケヤマノリヤ さん(40)は、
バッグのジッパーをゆっくりあけると、
ビニールに入ったフェルト製の物体を取り出し、
僕に手渡すのでありました。


第31回
アップリケはカワイイ。

山下 カエルのレーサー!
これはまた、いいですねえ。
タケ
ヤマ
(以下・
 タケ)
おもしろいでしょ?
山下 はい。あの、タケヤマさんはこうした
アップリケをたくさん集めてらっしゃると
うかがったのですが‥‥。
タケ ええ、そうですね、集めてます。
山下 どのくらいお持ちなんですか?
タケ うーん、200? 300くらい?
きょうはほとんど持ってきたんですよ。
山下 ほんとですか!?
みせてくださいみせてください。

タケヤマノリヤさん(既婚)は、
「昭和のメルヘン魂」をテーマに
キャラクターデザインや商品企画を手がける
異色のイラストレーターさん。
きょうはオレンジ色のベストにジーンズという
ポップでスマートな出で立ちで
中野のカフェまでいらしてくださいました。
バッグに大量のアップリケを詰めて。

さてタケヤマさん、
大切そうに取り出したアップリケを
どんどんテーブルに積み上げていきます。


山下 ‥‥すっごいですねえ。
タケ いつのまにか、こんなにね(笑)。
山下 こんなに、どこで買われたんですか?
タケ 骨董市とか、古い洋品屋さんとか、
あと昔からある金物屋さんで。
山下 金物屋さん! そういえば
なぜだか売ってましたよね金物屋さんで。
タケ 昔のが売れ残ってたりするんですよ。
もうあまりないですけどね。なにしろ
昭和30年から40年代ころのものだから。
山下 ああ、ちょうど僕らの子ども時代。
タケ そうそう、当時はこういうアップリケを
貼るのがはやってましたよね。
山下 はい、みんな貼ってました。
タケ 男の子も貼られてたでしょ?
山下 ええ、僕も手作りのお弁当袋とか、
うわばき入れとかに。
タケ お母さんが貼っちゃうんですよね。
当時それがいやでねえ。
山下 あ、いやでしたか。
タケ やじゃなかったですか?
山下 ‥‥うーん、はい(笑)。
タケ ですよね(笑)。やっぱりちいさいとはいえ
男ですからカワイイよりカッコイイですよね。
山下 せめて「国旗」にしてくれ!って
思ったりしてました。
タケ 僕は「忍者」にしてほしかったです。
山下 ははは、忍者。たしかにカッコイイです。
‥‥でも、当時いやだったアップリケを
なぜいまこうして集めているのですか?
タケ そのあたりがちょっと複雑なんですが‥‥。
きっと記憶に強くのこってたんでしょうね。
昔いやだと思ってた記憶が、
知らないうちに自分の琴線になってた。
なんだか、心揺るがされるんです。
いまみると、なつかしくて、かわいい。
山下 ええ、僕もいまは素直にかわいく思えます。
‥‥タケヤマさん、これせっかくですから
テーブルにきちんと並べてみませんか。
タケ あ、いいですね、並べましょう。
山下 僕は並べるのが大好きです(並べる)。
タケ 僕もです(並べる)。
山下 ‥‥ぜんぶテーブルに乗りませんでした。
タケ われながらよく集めたと思います。
店員 コーヒーお待たせいたしまし‥‥‥。
ふたり ‥‥‥‥‥‥‥‥。
店員 ‥‥ごゆっくりどうぞ(置いて、去る)。
山下 ‥‥‥‥気にせず続けましょう。
喫茶店の取材ではよくあることなのです。
タケ ‥‥はい。
山下 こうしてみると、やはり動物のが多いですね。
‥‥あ、ここにもカエル。
タケ こっちはゾウさんです。
山下 ヒヨコちゃんに‥‥。
タケ カメさん。
山下 当然、ワンちゃんもいます。
タケ あと、ウサギさん。
山下 う、ウサギさん!
‥‥いいなあ、どれも懐かしいデザインで。
タケ デザインというより
「図案」ですよね、当時は。
山下 「図案」ですか。
タケ ええ、デザイナーとかいなかったでしょう。
たぶん職人さんの「図案」なんですよ。
山下 そうかあ、僕らくらいの年齢の職人さんが
こういうのを考えてたんですね、きっと。
タケ ひょっとしたらもっと年配かもしれないです。
そういう職人のおじさんたちが、
一生懸命かわいくしようとしてつくってた。
そこがまたいいんですよ。
山下 ‥‥そう思ってみると
別な意味で味わい深いです。
タケ 何をどう参考にしていいかわかんない時代に
おじさんたちが一生懸命に
カワイイを追及してたんですね。
山下 ‥‥これなんか、まさしくそんな感じです。
おじいちゃんが描いた絵のような味わいで。
タケ 意欲作ですよね。サカナとは‥‥。
山下 え? これアシカじゃないんですか?
タケ サカナでしょー。トビウオみたいな。
山下 でもボールがありますよ。
タケ あ、そうか。でもヒレもあるし‥‥。
ふたり ‥‥わっかんないですねえ(笑)。
タケ あと、そう、かわいくするための
規則性みたいなのがあるんですよ。
山下 そうですか、それはどんな?
タケ 目を下のほうにつけるってことです。
ほら。
山下 ほんとだ、そういえばそうですね。
タケ ほら、これも目が下。
山下 なるほど。‥‥この子も目が下。
タケ これも目が下。
山下 目が下。
タケ 目が下。
山下 ひゃあ、すっごい下!
タケ こぼれちゃってますから。
山下 ははははは。
タケ うんとかわいくしたかったんでしょうね(笑)。
山下 当時のおじさんが。
タケ そう、おじさんが一生懸命。
山下 おじさんが一生懸命‥‥。
すてきなフレーズです。
僕としては感動的でさえあります。
タケ そうですか。
山下 ‥‥あのタケヤマさん、この中で
いちばん好きなのとか、あります?
タケ ベスト1ですか。
山下 ええ。
タケ ひとつ選ぶとなるとむずかしいですね。
‥‥うーん、でもやはり、これかな。
山下 あ、動物ものじゃなく、人間ですか。
スキー坊や。
タケ 琴線にふれますねえ、これは。
なつかしくてかわいい。
山下 デザイン、じゃなくて図案もいいです。
タケ 色なんかもとてもいい。
山下 そしてやっぱりこれも‥‥。
ふたり 目が下(笑)。
店員 かわいいですね。
ふたり ‥‥‥‥‥‥‥‥。
山下 ‥‥‥‥あ、アップリケなんです。
店員 (笑)すてきですねえ、そんなにいっぱい。
‥‥ごゆっくりどうぞ(去る)。



なつかしいかわいさでありました。

イラストレーター・タケヤマノリヤ さんの
ホームページはこちら!


http://www.poolys.com/

アップリケにも影響を受けたとおっしゃる、
ちょっと「昭和」なタケヤマさんの
かわいいキャラクターたちが待っています!
ぜひ遊びにいってみてくださいね。




さて、みなさま、
何の告知もないまま1か月以上のお休み、
申し訳ありませんでした。

ですが、じつは、
更新できなかったのには、理由がありました。
ある作業に没頭していたのでございます。
その、
ある作業といいますのは‥‥‥‥








スクロールください。





ドラムロールとともに
スクロールください。










カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)
単行本化の作業であります!


「え!? 単行本化? なるの? 本になるの?」

なるの。
このコーナーが、本になるのです!
2月28日アスペクトから発売予定です。

みっちり加筆いたしました。
サイトでは読めない特別企画も
たくさん書きおろしました。
例えば‥‥。

・著名なおじさん(2名)のカワイイを紹介
・できましたオーダー絵
おみやげアザラシの遠足
・貼りおろし動眼写真
   などなど‥‥。

それと、本そのものに関しましては‥‥。

・正方形の本らしい
・ほどよくちっちゃめらしい
・オールカラーらしい
・カバー絵はどうやら「あの人」らしい


‥‥まだまだあります。まだまだあるんです。
ですが未定のこともありますので、
今回はこのあたりで。

いつも読んでくださっている、
あたたかなメールをくださる、
読者の方々にお伝えしたくて、
まずはプチ予告をさせていただきました。
みなさん、ありがとうございます。
山下は感無量であります。

詳細は、次回の更新でお知らせいたします。
予約方法&特典などもあれこれ計画中です。


とにかく、すべてがカワイイ本になるように
おじさんが一生懸命つくっています!
どうか、ご期待ください!

2005-01-26-WED

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