山下 |
カエルのレーサー!
これはまた、いいですねえ。
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タケ
ヤマ
(以下・
タケ) |
おもしろいでしょ?
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山下 |
はい。あの、タケヤマさんはこうした
アップリケをたくさん集めてらっしゃると
うかがったのですが‥‥。
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タケ |
ええ、そうですね、集めてます。
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山下 |
どのくらいお持ちなんですか?
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タケ |
うーん、200? 300くらい?
きょうはほとんど持ってきたんですよ。
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山下 |
ほんとですか!?
みせてくださいみせてください。
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タケヤマノリヤさん(既婚)は、
「昭和のメルヘン魂」をテーマに
キャラクターデザインや商品企画を手がける
異色のイラストレーターさん。
きょうはオレンジ色のベストにジーンズという
ポップでスマートな出で立ちで
中野のカフェまでいらしてくださいました。
バッグに大量のアップリケを詰めて。
さてタケヤマさん、
大切そうに取り出したアップリケを
どんどんテーブルに積み上げていきます。 |
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山下 |
‥‥すっごいですねえ。
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タケ |
いつのまにか、こんなにね(笑)。
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山下 |
こんなに、どこで買われたんですか?
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タケ |
骨董市とか、古い洋品屋さんとか、
あと昔からある金物屋さんで。
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山下 |
金物屋さん! そういえば
なぜだか売ってましたよね金物屋さんで。
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タケ |
昔のが売れ残ってたりするんですよ。
もうあまりないですけどね。なにしろ
昭和30年から40年代ころのものだから。
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山下 |
ああ、ちょうど僕らの子ども時代。
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タケ |
そうそう、当時はこういうアップリケを
貼るのがはやってましたよね。
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山下 |
はい、みんな貼ってました。
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タケ |
男の子も貼られてたでしょ?
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山下 |
ええ、僕も手作りのお弁当袋とか、
うわばき入れとかに。
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タケ |
お母さんが貼っちゃうんですよね。
当時それがいやでねえ。
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山下 |
あ、いやでしたか。
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タケ |
やじゃなかったですか?
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山下 |
‥‥うーん、はい(笑)。
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タケ |
ですよね(笑)。やっぱりちいさいとはいえ
男ですからカワイイよりカッコイイですよね。
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山下 |
せめて「国旗」にしてくれ!って
思ったりしてました。
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タケ |
僕は「忍者」にしてほしかったです。
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山下 |
ははは、忍者。たしかにカッコイイです。
‥‥でも、当時いやだったアップリケを
なぜいまこうして集めているのですか?
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タケ |
そのあたりがちょっと複雑なんですが‥‥。
きっと記憶に強くのこってたんでしょうね。
昔いやだと思ってた記憶が、
知らないうちに自分の琴線になってた。
なんだか、心揺るがされるんです。
いまみると、なつかしくて、かわいい。
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山下 |
ええ、僕もいまは素直にかわいく思えます。
‥‥タケヤマさん、これせっかくですから
テーブルにきちんと並べてみませんか。
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タケ |
あ、いいですね、並べましょう。
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山下 |
僕は並べるのが大好きです(並べる)。
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タケ |
僕もです(並べる)。
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山下 |
‥‥ぜんぶテーブルに乗りませんでした。
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タケ |
われながらよく集めたと思います。
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店員 |
コーヒーお待たせいたしまし‥‥‥。
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ふたり |
‥‥‥‥‥‥‥‥。
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店員 |
‥‥ごゆっくりどうぞ(置いて、去る)。
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山下 |
‥‥‥‥気にせず続けましょう。
喫茶店の取材ではよくあることなのです。
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タケ |
‥‥はい。
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山下 |
こうしてみると、やはり動物のが多いですね。
‥‥あ、ここにもカエル。
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タケ |
こっちはゾウさんです。
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山下 |
ヒヨコちゃんに‥‥。
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タケ |
カメさん。
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山下 |
当然、ワンちゃんもいます。
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タケ |
あと、ウサギさん。
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山下 |
う、ウサギさん!
‥‥いいなあ、どれも懐かしいデザインで。
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タケ |
デザインというより
「図案」ですよね、当時は。
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山下 |
「図案」ですか。
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タケ |
ええ、デザイナーとかいなかったでしょう。
たぶん職人さんの「図案」なんですよ。
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山下 |
そうかあ、僕らくらいの年齢の職人さんが
こういうのを考えてたんですね、きっと。
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タケ |
ひょっとしたらもっと年配かもしれないです。
そういう職人のおじさんたちが、
一生懸命かわいくしようとしてつくってた。
そこがまたいいんですよ。
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山下 |
‥‥そう思ってみると
別な意味で味わい深いです。
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タケ |
何をどう参考にしていいかわかんない時代に
おじさんたちが一生懸命に
カワイイを追及してたんですね。
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山下 |
‥‥これなんか、まさしくそんな感じです。
おじいちゃんが描いた絵のような味わいで。
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タケ |
意欲作ですよね。サカナとは‥‥。
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山下 |
え? これアシカじゃないんですか?
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タケ |
サカナでしょー。トビウオみたいな。
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山下 |
でもボールがありますよ。
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タケ |
あ、そうか。でもヒレもあるし‥‥。
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ふたり |
‥‥わっかんないですねえ(笑)。
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タケ |
あと、そう、かわいくするための
規則性みたいなのがあるんですよ。
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山下 |
そうですか、それはどんな?
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タケ |
目を下のほうにつけるってことです。
ほら。
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山下 |
ほんとだ、そういえばそうですね。
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タケ |
ほら、これも目が下。
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山下 |
なるほど。‥‥この子も目が下。
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タケ |
これも目が下。
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山下 |
目が下。
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タケ |
目が下。
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山下 |
ひゃあ、すっごい下!
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タケ |
こぼれちゃってますから。
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山下 |
ははははは。
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タケ |
うんとかわいくしたかったんでしょうね(笑)。
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山下 |
当時のおじさんが。
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タケ |
そう、おじさんが一生懸命。
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山下 |
おじさんが一生懸命‥‥。
すてきなフレーズです。
僕としては感動的でさえあります。
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タケ |
そうですか。
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山下 |
‥‥あのタケヤマさん、この中で
いちばん好きなのとか、あります?
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タケ |
ベスト1ですか。
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山下 |
ええ。
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タケ |
ひとつ選ぶとなるとむずかしいですね。
‥‥うーん、でもやはり、これかな。
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山下 |
あ、動物ものじゃなく、人間ですか。
スキー坊や。
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タケ |
琴線にふれますねえ、これは。
なつかしくてかわいい。
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山下 |
デザイン、じゃなくて図案もいいです。
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タケ |
色なんかもとてもいい。
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山下 |
そしてやっぱりこれも‥‥。
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ふたり |
目が下(笑)。
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店員 |
かわいいですね。
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ふたり |
‥‥‥‥‥‥‥‥。
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山下 |
‥‥‥‥あ、アップリケなんです。
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店員 |
(笑)すてきですねえ、そんなにいっぱい。
‥‥ごゆっくりどうぞ(去る)。
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