山下 |
つくりますか、黒ネコ。
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金澤 |
ええ、チャレンジしてみましょう。
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山下 |
ちなみに、このモールド(型)で
実際にチョコレートをつくったことは‥‥。
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金澤 |
いやあ、ないですねえ。
ですが、まあなんとかなるでしょう。
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山下 |
ちゃんと黒ネコになるといいですね。
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金澤さんのお仕事は、スタイリスト。
奥様はビンテージ食器を販売するお店を経営。
去年僕がマグカップの本をつくったとき、
とてもお世話になったご夫婦です。
「何かカワイイもの、ないでしょうか?」
僕が出したメールに、ご主人の金澤さんは
一枚の画像を添えてお返事をくださいました。
それが、このチョコモールドだったのです。
いただいたお返事には、
「その他、黒ネコの置き物等もございます」
とありました。
「ではぜひ、黒ネコのチョコをつくりながら
黒ネコグッズを紹介してください!」
という展開になった次第。
さて、キッチンに入った男ふたり。
おぼつかない手つきで、
チョコ作りの準備をすすめていきます。 |
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山下 |
あ、金澤さん、いつのまにそんな‥‥。
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金澤 |
このエプロンのことですか?
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山下 |
ええ。
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金澤 |
やはり形から入ろうと思いまして。
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山下 |
‥‥すばらしいです。
お料理は、よくなさるのですか?
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金澤 |
やあ、まったくやりませんねえ。
でも、きょうはたぶん大丈夫ですよ。
家内がアンチョコをつくりましたので。ほら。
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山下 |
(読む)なるほど、わりとたいへんですね。
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金澤 |
ええ、なかなか微妙なようです。
単にチョコを溶かすだけではないのですね。
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奥様のレシピを見ながら僕たちは、
チョコを削り、削ったチョコを湯せんにかけ、
温度を気にして溶かしていきます。 |
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金澤 |
お〜、なんだかキッチンが
甘い香りでいっぱいになりました。
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山下 |
‥‥‥‥‥あの、金澤さん。
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金澤 |
はい?(溶かしつつ)なんでしょう。
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山下 |
‥‥まったく関係のないことを
うかがってもよろしいでしょうか。
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金澤 |
え? ああ、どうぞ。
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山下 |
以前お会いしたときにも思ったのですが、
‥‥金澤さん、声が、とても素敵ですよね。
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金澤 |
そうですか(笑)。
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山下 |
昔DJだったとか、そういうことは‥‥。
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金澤 |
いえいえ、まったくないです。
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山下 |
そうですか。とても魅力的なお声です。
耳がきもちいいです。
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金澤 |
(溶かしつつ)ありがとうございます。
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山下 |
おとしは、おいくつでしたっけ。
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金澤 |
48です。
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山下 |
ああ、お若いですよねえ、ほんとうに。
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金澤 |
山下さんはおいくつですか。
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山下 |
僕はきょうで42になりました。
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金澤 |
きょう?
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山下 |
はい。
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金澤 |
誕生日なんですか?
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山下 |
はい、たまたまそうでした。
あ、金澤さん、ちょうどいい温度ですよ。
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金澤 |
おっとっと。では、流し込みますね。
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山下 |
お願いします。
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モールドをそっと冷凍庫にしまうと、
僕らはダイニングルームへ移動。
チョコがしっかり固まるまでのあいだ、
黒ネコの置き物を
みせていただくことになりました。
テーブルの上にずらり、
黒い陶器のコレクションが並びます。 |
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金澤 |
これなんか、おもしろいでしょ?
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山下 |
金魚鉢ですか。
黒ネコがのぞきこんでいるんですね。
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金澤 |
あとはこういったものとか。
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山下 |
いいですねえ、調味料入れですね。
ん? こちらは?
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金澤 |
それはレターラックです。
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山下 |
あ、手紙を立てておくものですか。
顔がすごくおもしろいです(笑)。
で、こっちは本を立てるものですね。
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金澤 |
そう、ブックスタンド。
卓上ライターなんかもあります。
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山下 |
まだまだ‥‥いろいろありますねえ。
みなテイストが似てる気がするのですが
何かシリーズのようなものなのですか?
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金澤 |
いや、シリーズではないのですが‥‥。
オキュパイド・ジャパンは、ご存知ですか?
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山下 |
え? あ、はい、聞いたことはあります、
たしか第二次大戦直後の日本製品のことかと。
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金澤 |
ええ、占領下日本の輸出製品です。
これは、ぜんぶそれなんですよ。
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山下 |
‥‥なるほど、黒ネコのものなら
なんでも集めるわけではないのですね。
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金澤 |
そうですね、ただ集めていくと
どうしても雑然としてしまうので。
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山下 |
オキュパイド・ジャパンというのは、
やはりいろんな製品があるのでしょうか。
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金澤 |
ええ、ありますよ、実にたくさん。
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山下 |
とくに黒ネコを集めようと思われたのは、
なにかきっかけでも?
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金澤 |
ああ‥‥。
それは、縁とでもいいますか‥‥。
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山下 |
縁、ですか。
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金澤 |
こういう黒ネコの置き物をみつけたのは
もうずいぶん昔のことなんですが、
最初はべつに集める気もなかったんです。
何となく、数個だけ買ってみたんですね。
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山下 |
はい。
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金澤 |
そしたらその数日後に、
本物の黒ネコを拾ったんですよ。
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山下 |
本物といいますと? 動物の?
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金澤 |
そう。近所の薮の中で、カラスに追われて
半死半生になっているのを助けたんです。
これもなにかの縁だと思いましてねえ。
それからなんです、
黒ネコの置き物を集めだしたのは。
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山下 |
そうなんですか‥‥。
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金澤 |
モモ! モモ、こっちおいで。
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山下 |
え!? いるんですか!?
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金澤 |
はい、隠れてるんですよ。
家内には素直なんですが、
僕にはぜんぜんなつかなくて‥‥。
ちょっと、つれてきますね(奥へ行く)。
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山下 |
‥‥‥‥‥‥(待つ)‥‥‥‥‥‥‥。
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金澤 |
(奥から)山下さーん、写真撮りますでしょ?
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山下 |
(奥へ)あ、はい、ぜひ撮りたいです!
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金澤 |
(奥から)では、いまからつれていきますが、
すぐに逃げちゃいますので、
はやいシャッターでお願いします!
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山下 |
(奥へ)わ、わかりました!
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金澤 |
(奥から)準備はいいですか?
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山下 |
(奥へ)オーケーです!
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金澤 |
(速足で来て)さ! ど、どうぞ! 急いで!
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山下 |
(あわてて撮る)と、撮りました!
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金澤 |
まだいけそうです。もう一枚、どうぞ!
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山下 |
ありがとうございます!
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モモ |
シャー(と鳴いて腕をふりほどき奥へ)
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金澤 |
‥‥‥撮影できましたか。
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山下 |
はい、迷惑そうな顔がキュートでした。
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金澤 |
やはり、そんな顔をしていましたか‥‥。
でも、それでも僕はネコが好きですね。
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そうこうしているうちに30分が経過。
僕たちは再びキッチンへ向かいました。
チョコが固まる時間なのです。 |
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金澤 |
‥‥なんだか、いい感じじゃないですか?
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山下 |
キンキンに冷えています。
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金澤 |
じゃあ、開けてみますね。
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山下 |
慎重にお願いします。
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金澤 |
はい。‥‥お、お、お、山下さん!
みてください、これ大成功じゃないですか?
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山下 |
ほんとだ、きれいにできましたね!
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完成したチョコをお皿にのせて、
僕らはまた、ダイニングテーブルへ移動。
オキュパイド・ジャパンをまわりに並べ、
せっかくなのでお花も飾って、記念撮影です。 |
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山下 |
やりましたね、金澤さん!
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金澤 |
うーん、ですが、近くでよくみると
まだまだですよねえ。
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山下 |
ああ、少し気泡が入ってますね。
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金澤 |
それと、さっきつい指で鼻をさわって
溶かしてしまいました。申し訳ありません。
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山下 |
いえいえ、こちらこそすみませんでした。
僕が用意したのがミルクチョコだったので
黒ネコではなく茶ネコになってしまいました。
ブラックチョコを用意するべきだったのです。
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そこへ奥様と
娘さんの百合座ちゃん(1歳)が
そとから戻ってこられました。
僕がお邪魔したときには
ふたりとも隣室にいたのですが、
どうやらお買い物に出ていたご様子。
奥様は完成したチョコをキッチンへ運びます。
すこし溶けてきたので、
冷蔵庫へ戻してくださったのでしょう。
無事チョコができてひと安心の僕は、
百合座ちゃんに「アンパンマン」の絵本を
読んであげておりました。
メロンパンナちゃんがピンチになった
ちょうどそのとき、
ダイニングの照明がパチンと消えました。
キッチンから出てきた奥様が、
ひすい色のお皿をテーブルに置きます。 |
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山下 |
‥‥‥‥あ。
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ご主人 |
♪ハッピバースデー トゥー ユー
ハッピバースデー トゥー ユー
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山下 |
‥‥(すばらしい声だ)。
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ご主人 |
♪ハッピバースデー ディア 山下さーん
ハッピバースデー トゥー ユー
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みなさん |
おめでとー。
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山下 |
あ、ありがとうございます!
‥‥ふーっ(ロウソクを消す)。
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