カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

8月中旬の日曜日、午前11時、日本晴れ。
横浜みなとみらい地区に僕はいます。

松下聡さん(45)は、
まぶしい太陽の光に目を細めながら
アクリル製のちいさな物体をつまみあげると、
眼前の大きな船にそれを重ねるのでありました。

第44回
ブルボンキーホルダーは
カワイイ。

山下 はい、オッケーです、撮れました!
松下 ‥‥手がぷるぷる震えてしまったのですが、
大丈夫でしたでしょうか。
山下 ええ、たくさんシャッターを切りましたので。
これとか、ばっちりです(画像をみせる)。
松下 ああ、きれいに撮れてる‥‥。
よかったです。天気もよくてよかったです。
横浜市にお住まいの松下聡さん(既婚)は、
フランス雑貨を扱うネットショップの店主さん。

せっかくの横浜取材ですので、
場所はみなとみらい地区に決定。
さらに松下さんは
こんなキーホルダーをお持ちでした。

帆船です。
みなとみらい地区には「日本丸」という
有名な帆船が停泊されています。

というわけで、帆船を背景にした
帆船のキーホルダーの撮影は無事終了。
降りそそぐ太陽から逃げるように、
汗にぬれた40代男性ふたりは、
ランドマークタワー1階にある
とあるレストランに駆け込んだのでありました。

そもそもブルボンキーホルダーとは何なのか、
そこからお話をうかがってまいりましょう。

松下 企業が宣伝用に配っていたものなんです、
60年代のフランスで。
山下 40年くらい昔のものなのですね。
松下 ええ、当時はいくつかの会社が
広告用のキーホルダーを作っていたのですが
ブルボン社のものはクオリティが高くて
デザインもよくて、とくべつな存在なんです。
山下 そうですか。
広告用ということは、種類もたくさん?
松下 はい、いくつか持ってきたのですが‥‥。
(古いブリキの缶をとり出しフタを開ける)
山下 わあ、ぎっしり‥‥。
松下 ええと、かわいらしいやつといえば、
(ビニールの小袋から1個とり出し)
これなどいかがでしょう。
山下 あ、ウエートレスさん。
いいですねえ、さわやかな色づかいで。
ん? スケート靴をはいてますが‥‥。
松下 冷蔵庫メーカーのキーホルダーなんです。
山下 なるほど、だからアイススケートなんですね。
松下 これもどうでしょう、原付自転車の広告。
山下 はい、いいです、男の子の得意げな顔が。
松下 それ、左に傾けてみてください。
山下 え? は、はい、左に? こうですか?
‥‥あ、ああ!
松下 ね。
山下 ははは、動く動く! 自転車が走ってます。
松下 ブルボンのは動くのが多いんですよ。
ほら、こちらもそうです。
山下 有名なビクターのわんちゃん。
松下 ニッパーという名前です。
傾けると‥‥。
山下 か、顔をつっこみました(笑)。
いやあ、たっのしいですねえ。
松下 こっちのは動かないのですが、
またこれが、実にすばらしいのですよ。
山下 エールフランス。
‥‥きれいな空色です。
松下 そのまま裏返してみてください。
山下 こんどは裏返すのですね(裏返す)。
松下 ね。
山下 ? カバンがちいさくなりましたが‥‥。
松下 エールフランスですから、飛行機で遠くへ
旅立っていくことを表しているわけです。
山下 ‥‥あ、そうかあ! やられました。
なんて心憎いデザインなのでしょう。
松下 サヴィニャックのデザインです。
山下 サヴィニャック! 僕ですら知ってます。
チョコレートの絵が有名ですよね。
松下 そうそう。あ、これもサヴィニャックですよ。
山下 ‥‥なぜこのおじさんは辛そうな顔を?
松下 頭痛薬の広告なんです。
頭のなかを車が通り抜けるデザインですね。
山下 (傾ける)ほんとだ、車が動く!
動いておじさんの頭を通り抜ける!
これは頭が痛そうだ(笑)。
松下 (笑)ほかにもおもしろいのがあるので、
とにかくちょっと出してみますね。
ビニール袋をひとつずつ開けていく松下さん。
テーブルの上は、透明なアクリルでできた
フランス製キーホルダーでいっぱいです。

松下 ‥‥こうしてあらためて並べてみますと、
なんだか、ドキドキしてしまいます。
山下 ほんとにお好きなんですねえ‥‥。
ですが松下さん、そこまでお好きですと
売りに出すのもおつらいのでは‥‥。
松下 それはもう、
子どもを手放すような気持ちですよ。
山下 そうですか‥‥。
松下 ですから、ふたつ手に入れたら1個出すとか、
そういうことはあります。
たしかに商売ではありますが、
僕自身がお客様と同じくらい好きですので。
山下 松下さんをそこまで夢中にさせる
ブルボンキーホルダーのいちばんの魅力は
どのあたりなのでしょうか。
松下 それは、やはりデザインですね。
山下 デザイン。
松下 当時としては精巧にできてはいるのですが、
それでもある程度いいかげんといいますか、
ちょっとチープな抜け具合があって、
そこが愛おしいんですよ。
山下 たしかにキッチュなデザインが多いです。
これとか。
松下 そうそう、アポロ月着陸のデザインで
宇宙飛行士が動く仕掛けなんですが、
なんかこう、ヘンテコでしょ?
山下 はい、なにかがおかしいです(笑)。
松下 あとは、手触りですねえ。
山下 手触り。
松下 アクリルの、このなんともいえない‥‥。
山下 なめらかで、つるつるな手触り。
松下 40年前っていうと、僕や山下さんが
生まれたころじゃないですか。
こうして触っていると、その頃への
ノスタルジーも浮かんできますし。
うっとりしちゃいますねえ‥‥。
山下 (1個手に取る)‥‥‥‥ああ、
これもすごくいい手触りです。
松下 コンコルド。
山下 この透明感がまた‥‥。
松下 飛行機のキーホルダーは、
たいてい機体が金色なんですよ。
山下 そうなんですか。
松下 夢の乗り物ですから、
スペシャルな存在だったんでしょうね。
山下 なるほどお‥‥。
フランスのものって、金色をとても
いい感じにほどこしますよね。
これも。
松下 キーリングの金に、赤と黒。
とても人気のあるキーホルダーです。
山下 リプトンもかわいいなあ。
松下 僕はこれも好きなんですよ。
山下 ダンロップですか、いいですねえ。
お、このタヌキもかわいいぞ。
松下 あ、それはアライグマです(笑)。
山下 (笑)失礼しました。
‥‥ん? これ、気泡が入ってますね。
松下 ビールの泡を表してるんですね。
山下 ‥‥松下さん、ここはひとつ
ビールをオーダーしてですね、
さっきみたいに本物を背景に撮影しませんか。
松下 はい、それはいい考えですね。
というわけで、グラスビールを1杯注文。
このような画像が撮れました。

松下 おお、やりましたね、
本物と一緒シリーズです。
山下 ‥‥‥‥‥‥あの、松下さん。
松下 はい? なんでしょう。
山下 ‥‥きょうはフランスのものがテーマなのに
なぜかとてもアメリカンなレストランに
こうしてふたりで入ってきたわけですが‥‥。
松下 ええ、暑かったので
深く考えずに入りました。
山下 アンナミラーズ。
松下 アンナミラーズ。
山下 アンナミラーズといえば
かわいらしいウエイトレスさんで有名です。
松下 ‥‥はい。
山下 ウエイトレスさんといえば、
最初にみせていただいたこちら。
松下 ‥‥そちら。
山下 本物のウエイトレスさんに
これを持ってもらって撮影というのは‥‥。
松下 え。
山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
松下 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
山下 ‥‥どうでしょうか。
声をかけてお願いすることが
はたして僕にできるでしょうか。
松下 ど、どうなんでしょう‥‥。
山下 ビールを持ってきたウエイトレスさんは、
気立てがよさそうでした。
松下 ‥‥はい、やさしそうでした。
山下 ‥‥できるでしょうか、
声をかけてお願いすることが、
はたして僕に。
松下 ええと、どうでしょう、ええと‥‥‥‥。
しばらくしての会計所、
「ごちそうさま」
とだけ声をかけ、店を去る男がふたり。

ふたりが座っていたテーブルの上には、
泡が消えてすっかりぬるくなったビールが
手もつけられずポツンと残されております。
なぜかというと、
ふたりともお酒が飲めないからです。



ちいさな宝石箱の中身を
こっそりみせてもらったようなかわいさでした。

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『ひみつのブルボンキーホルダー』
森井 ユカ (著) 技術評論社


2005-08-17-WED

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