山下 |
わあ、ありがとうございます!
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末木 |
あついですよ、焼きたてですから。
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山下 |
はい、ほっかほかです。
‥‥それにしても、こう、じっくり見ますと、
じつに愛らしい顔をしてますねえ、たい焼き。
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末木 |
(笑)そうですか。
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山下 |
食べるのがすこし申し訳なく思います。
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末木 |
(笑)どうぞ、召し上がってください。
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山下 |
はい、では‥‥‥‥。
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末木孝尚さん(独身)は、
三鷹商店街にある創業50年の甘味処
「たかね」の三代目店長さん。
僕は数年前から、こちらのたい焼きの
とりこになっておりました。
店長さんとお話するのは、この日がはじめて。
さて、それでは、
その初対面のシーン、約1時間前へと
時計の針を戻してみましょう。
場面は「はじめまして」のご挨拶直後です。 |
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山下 |
ええと、早速ですが、そちらが‥‥。
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末木 |
たい焼きの型です。持ってみます?
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山下 |
は、はい、ぜひ!
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末木 |
どうぞ(渡す)。
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山下 |
重っ‥‥重たいのですねえ。
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末木 |
ええ、たぶん5キロくらいですか。
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山下 |
‥‥ああ(笑)、あたりまえですが、
たい焼きの姿がちゃんと型になってます。
なんか、愛らしいです‥‥。
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末木 |
一丁焼きっていいまして、
一度にいくつも焼くのではなく、
これで一匹ずつ手で返して焼くんです。
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山下 |
なるほどお、一丁焼きの型ですか。
長い棒がついてて‥‥写真撮らなくちゃ。
よいしょ‥‥うーん、うーん、うーん。
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末木 |
僕が持ちましょう、手がぷるぷるしてますよ。
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山下 |
た、たすかります。
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山下 |
ありがとうございます、無事撮れました。
‥‥いまも焼いている音が聞こえますね、
がたごとがたごと‥‥。
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末木 |
よかったら中で見ていかれますか。
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山下 |
え、いいんですか?
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末木 |
きょうは社長が‥‥僕の母親なんですけど
焼いてますので。
どうぞ行ってみてください。
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山下 |
では、お邪魔にならないように‥‥。
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店頭のたい焼きを焼く場所に入っていく山下哲。
職人スペース独特の緊張感が漂っています。
型に手早く生地とあんこをのせて、

がたごとがたごとと大きな音で型を常に回し、

ころんころんとたい焼きが
生まれていく様を、僕は目の当たりにしました。
ですが、どう考えても僕は邪魔です。
数枚写真を撮ると奥の喫茶室へと移動しました。 |
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末木 |
どうでした? 写真撮れました?
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山下 |
はい、おかげさまで。
‥‥しかしそれにしても(店内を見渡し)、
こちら、甘味処のお店には思えませんよねえ。
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末木 |
そうですか? まあ、そうですよね(笑)。
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山下 |
アンティークなものもたくさんあるのですが、
その中に新しいものが混ざっていて‥‥。
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末木 |
ええ、こういう感じに改装したのは
5年ほど前なんですが、自分が三代目として
やるならこんなふうにしたいと思ってまして。
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山下 |
古いものと新しいものがあるような?
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末木 |
ええ、若いお客様にも来ていただきたいし、
それに、お歳を召したかたとそのお孫さんが
両方楽しめるようなお店にしたかったのです。
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山下 |
なるほど、喫茶室の入口にはたくさん絵本が
並んでますものね。
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末木 |
それ、ぜんぶ僕の私物なんです。
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山下 |
あ、お好きなんですね、絵本。
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末木 |
はい、自分の部屋にもたくさんあって、
定期的に入れ替えるようにしてます。
本がどんどんたい焼きの匂いになります(笑)。
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山下 |
ははは。‥‥あ、そうそう、これこれ、
何年か前こちらではじめてこれをみたんです。
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末木 |
あ、そうなんですか。
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山下 |
夢中になって我が家でも買いそろえました。
「リサとガスパール」。
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末木 |
これはいいですよね!
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山下 |
はい、もうこれはやっぱり‥‥
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ふたり |
かっわいいですよねえ(笑)。
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山下 |
‥‥いやあ、ほんと、
すてきなたい焼き屋さんです。
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末木 |
ありがとうございます。
骨が決まってますので、こうした肉の部分を
よろこんでいただけるとうれしいです。
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山下 |
え? 骨? 肉?
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末木 |
あ、骨っていうのは、たい焼きですね。
これは先代・先々代がつくってきて、
長いあいだ親しんでいただいた味なので、
自分がそれを変えようという気持ちは
まったくないんです。
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山下 |
トラディショナルな骨は守るわけですね。
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末木 |
ええ、ですから僕は、そのまわり、肉ですね、
そこをいろいろやってみるわけです。
ポップだったりかわいらしいのが
わりと好きなので、そんなイメージで。
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山下 |
なるほどお‥‥骨と肉ですかあ‥‥。
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末木 |
たとえば‥‥ちょっといいですか(外へ)。
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山下 |
あ、はい(外へ)。
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末木 |
自腹でこういうグッズをつくってみたり。
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山下 |
はいはい、いいですよね、これ。
うちにはこのバッグがあります。
当ったんです!
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末木 |
(笑)今は販売してるんですが、
以前は毎月抽選で差し上げてました。
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山下 |
それに当ったんです!
たいへんうれしかったです!!
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末木 |
(笑)ありがとうございます。
‥‥あとは、こういう椅子ですとか、
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末木 |
停留所みたいなのをつくってみたり。
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山下 |
いいですねえ、「たい焼き行」。
‥‥ですが、やっぱり、
きわめつけは、あれですよねえ。
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末木 |
ああ、そうでしょうかねえ(笑)。
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山下 |
はい、かなり目立ちます。
たい焼きタクシー。
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末木 |
仕入れのときなど運転しますが、
ちょっと恥ずかしいです、やはり。
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山下 |
みんな振り返りますよ、これは。
本物のロンドンタクシーですよね?
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末木 |
ええ、ブラックキャブですね。
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山下 |
よくわからないのですが、
車検とかたいへんなのでしょうねえ。
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末木 |
はい、まあ、面倒です。
でも好きなんですね、古いかわいいものも。
そういう自分の好きなもの、ええと、
ヨーロッパのフィギュアとか、浮世絵とか、
絵本とか、ベッカムのサインとか‥‥
何でも店に持ってきてしまうんです。
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山下 |
でも不思議なのは、
ばらばらな感じがしないですよね。
ひっくるめてすてきな甘味処のお店だと、
生意気ですがそう思います。
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末木 |
そういっていただけると、うれしいです。
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山下 |
いやあ末木さん、
本日はどうも、ありがとうございました。
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末木 |
あ、山下さん、せっかくですから
食べてってくださいよ(たい焼きを取りに)。
‥‥さ、あついうちにどうぞ。
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山下 |
わあ、ありがとうございます!
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末木 |
あついですよ、焼きたてですから。
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山下 |
はい、ほっかほかです。
‥‥それにしても、こう、じっくり見ますと、
じつに愛らしい顔をしてますねえ、たい焼き。
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末木 |
(笑)そうですか。
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山下 |
食べるのがすこし申し訳なく思います。
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末木 |
(笑)どうぞ、召し上がってください。
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山下 |
はい、では‥‥‥‥。
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山下 |
おお、背中からあんこが飛び出して‥‥。
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山下 |
‥‥‥‥いただきますっ!
(かりっ)あぢ、あぢぢぢぢ、
ふはあ、あんこもあつあつで‥‥。
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山下 |
はふはふ、薄皮でかりかりで‥‥。
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山下 |
あぢぢぢ‥‥ん?(並ぶ方々の視線が痛い)。
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山下 |
‥‥はあ、やはりしっぽまであんこが。
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山下 |
‥‥最後のひとくち、いきます。
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山下 |
‥‥‥(咀嚼)んご、ごちそうさまでした!
なんというか、その、とにかく、やっぱり、
おいしかったです!!
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末木 |
ありがとうございます。
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山下 |
ああ、グルメ番組のようにもっと上手に
おいしさを表現したいのですが‥‥
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末木 |
いやいや十分です、うれしいです。
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山下 |
‥‥その、なんといいますか、
かりっとした食感の皮のなかから、
さらりとしながらもコクのある甘さが
口いっぱいに広がって‥‥で‥‥ええと‥‥。
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末木 |
あの、山下さん。
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山下 |
はい?
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末木 |
鼻の下のところに
大きなあんこがくっついていますよ。
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山下 |
‥‥ん? ああ、気がつきませんでした。
鼻の下にあんこをくっつけて、
スマートなコメントを言おうとしてました。
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末木 |
はははは、一気に食べるからですよ。
‥‥あ、袖でふかないほうが‥‥。
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山下 |
本日はどうも、ありがとうございました!
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