カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

よく晴れた平日の昼下がり。
埼玉県にある東武動物公園の、事務所。

小宮山浩さん(54)は、
オレンジ色のジャンパー姿にふくよかな笑顔で
僕を応接室まで案内してくださると、
1枚のポストカードを
そっと差し出すのでありました。


第59回
動物カードはカワイイ


山下 これはまたかわいらしい(笑)。
小宮山 この子ブタがいちばん人気なんです。
ある日のことです。
ひろこさんという読者のかたから
こんなメールをいただきました。


本屋さんでとてもカワイイ
動物写真の絵葉書を見つけて
写真家の方のお名前を見たら
男性でしたので、
ちょっとおどろいてこれはもしかして
カワイイもの好きなおじさんではないかと
調べましたら、
本当におじさんでした。
どんな方なのか取材していただけたら、
と勝手に思ってお便りしました次第です。

その絵葉書の画像をみて、
僕はなんだかたまらないきもちになりました。
どれもふつうの動物写真なのに、
なぜだか心をつかまれる‥‥。
ほかの動物写真とは、
なにかがちがう気がする‥‥。
かわいさのツボを押すものはいったいなんなのか、
その謎を解くべく僕は、埼玉へと向かいました。

小宮山さん(既婚)は、東武動物公園の業務部で
営業のお仕事をされているかたでした。
小宮山さんが、
ポストカードをテーブルに並べてくださいます。


山下 こちらとか、すごいですね、
まるでアフリカで撮影したかのようです。
小宮山 動物園の動物ですので
まわりの柵ですとかそういうものが
写りこまないように撮ったら
こういうアングルになったんですね。
山下 なるほどー。
小宮山さんが撮る動物は、
ぜんぶ動物園の動物なんですね。
小宮山 ええ、主にこの動物園の動物です。
ほら、これなんかは、
プールの一部が写りこんでるでしょ。
山下 はははは、カバが舌を出して。
小宮山 はい(笑)。
山下 なにかこう、写真を撮るときの
ポイントのようなものはあるのでしょうか。
小宮山 ポイント。
山下 はい。
小宮山 ‥‥うーん。
山下 撮るときに、かならずこうしてるとか‥‥。
小宮山 ‥‥まあ、しゃべりながら撮りますね。
山下 しゃべりながら。
小宮山 「こっちむいて」とか、
「ここにいるよ〜」とか。
山下 そうですか‥‥。
ほかに、コツのようなものは?
小宮山 ‥‥いやあ、
とくに、こういうふうにしよう
というのはないんですよ。
山下 そうですか‥‥。
あの、そもそもですね、
こうしたポストカードが
発売されるようになったのは、
どのようないきさつで?
小宮山 私はいま業務部で仕事をしてますが、
1年ほど前までは飼育係だったんです。
動物園の飼育係というのは、
仕事をはじめるときかならず
カメラを買って自分で撮るんです。
今はそうでもないけど、昔はそうでした。
山下 記録をとるために。
小宮山 はい。
記録をとっているうちに写真がたまって
それで図鑑を出したくなってですね、
ずいぶん昔のことですが
出版することができたんですよ。
山下 あ、そうなんですか。
小宮山 そのとき出版社のかたと知り合ったのが
ポストカードのきっかけですね。
山下 なるほど‥‥。
赤ちゃんのカードもわりと多いですね。
これは、ひつじ。
山下 かっわいいなあ‥‥。
ん? この赤ちゃんは?
小宮山 マレーバクです。
まだ子どもなんで、
こういう線が入ってるんですね。
山下 あっ、それってあの、
子鹿とかイノシシの子ども、つまり
ウリ坊に入っている線と同じことですか。
小宮山 はいはい、そうですそれです。
山下 僕はこの線について
ずっと考えていたことがあるんです。
なぜ子どもにだけこういう線があるのか。
長いあいだわからなかったんですけど、
ある日、ひらめいたんですよ。
これは、
かわいさをアピールするサインだと。
これをみた親を、たまらないきもちにさせる
シグナルではないかと。
自分の親どころか、ほかの動物、
たとえば人間までをも
たまらないきもちにさせて
それで結果的に身を守ってしまうという
実にすばらしい動物の進化だと思いました。
小宮山 これは保護色ですね。
山下 ‥‥え。
小宮山 この点線が森のこもれびの中にまぎれると
見つかりにくい保護色になるんです。
山下 ‥‥保護色。
小宮山 一般的にはそう言われています。
山下 そうでしたか‥‥。
小宮山 や、でもそうですね、
かわいさのサインっていうのも
そうなのかもしれませんね。
子どもはやっぱりかわいいですから。
山下 ‥‥かわいい、ですよね。
小宮山 動物園で子どもが生まれたときは、
自分の子どもが誕生したのと
同じようにうれしいです。
山下 そうですか(笑)。
小宮山 子どもが生まれるっていうのは、
きちんと飼育してる証明でもあるんですよ。
山下 それは? どういうことでしょう?
小宮山 栄養面や健康面など、
いろいろな管理がきちんと行われて
安心できる環境でオスとメスが交尾をして、
子どもを産んで育てる。
そのプロセスがぜんぶ、
私たちの仕事に関わってくるんです。
山下 なるほどお‥‥。
‥‥‥‥あ。
ああ〜、そうかあ。
小宮山 はい?
山下 ようやくわかりました。
‥‥小宮山さんの撮る写真はどれも
とくに変わった撮りかたをしてないのに
なぜか心をつかまれていたのですが、
その理由がわかりました。
小宮山 なんでしょう?
山下 安心しているのではないでしょうか。
小宮山 安心‥‥。
山下 カメラをかまえている
小宮山さんに対してみんな、
安心している顔なんじゃないかと‥‥。
笑ってるんですよ、ほら。
小宮山 ほお‥‥。
山下 レッサーパンダも、
ちょっと微笑んでるみたいで。
小宮山 そうですかね(笑)。
山下 はい。
このロバも、笑ってるでしょう。
心をゆるしてます。
小宮山 言われてみれば(笑)。
山下 こちらのサイも、うっすらと笑みが。
山下 ゾウさんのこれも笑顔だと
僕には思えます。
山下 アザラシなどは、
明らかに口角があがってますよ。
山下 そして、これ、
この、ひつじの子、
これはもう、僕はたまりません。
心から安心した笑顔だと思います。
小宮山 ‥‥ありがとうございます。
山下 とんでもないです、こちらこそ。
‥‥うさぎのカードもありますね。
小宮山 ええ、うさぎ。
山下 きょとんとして‥‥。
僕はうさぎを飼っているので
なんとなくわかるのですが、
これはリラックスした表情だと思います。
小宮山 うさぎがお好きなんですね。
山下 はい。
小宮山 うちの動物園には
「ふれあい動物村」という場所がありまして
そこに、うさぎもいますよ。

当然、案内していただきました。
動物たちがこんなに安心している動物園の
ふれあいコーナーであれば、
もしかしたら僕にも
小宮山さんのような写真が撮れるかもしれません。

まずは、うさぎのいるところへ直行。
来園者の女の子がひざにのせているうさぎと
ふれあわせていただきました。


小宮山 ‥‥どうですか?
山下 うーん‥‥。
警戒心の強い動物ですから、
やはりちょっと緊張しているようです。
小宮山 ひよこはどうでしょう?
(ひよこを手にのせてくれる)
山下 わあ(笑)、ふわふわだ。
かっわいいですねえ。
でも安心させるというよりも、
落ちこませてしまったみたいです。
小宮山 元気なんですけどね(笑)。
山下 トリの表情はむずかしいです。
小宮山 ‥‥じゃあ、あっちいってみましょう。
(タタタタタ)
山下 あ、はい。
(ひよこをそっと戻し、タタタタタ)
小宮山 ‥‥‥‥ラマです。
山下 ら、ラマ。
‥‥ちょっと、こわいですね。
小宮山 大丈夫ですよ、慣れてますから。
山下 ‥‥はい、では、ふれあいを。
ラマ プイッ。(向こうへいく)
山下 ‥‥いっちゃいました。
小宮山 おいで、ほら、こっち。
ラマ (来る)
小宮山 ‥‥よーしよしよし。
山下 すごーい! やっぱり笑ってる!
笑ってますよ、この子笑ってます!
‥‥ぼ、僕も、ふれあいを。
ラマ プイッ。(向こうへいく)
山下 ‥‥‥‥。
小宮山 ああ‥‥。
山下 ‥‥ラマがだめならば、
そこの、カメはどうでしょう。
おいで! こっち! こっちだよ!
カメ (まったく無視)
小宮山 無理ですよゾウガメは(笑)。
呼んでも来ませんから。
‥‥ひつじ、いきましょう。
山下 ひつじ!
小宮山 あちらへ。(タタタタタ)
山下 はいっ。(タタタタタ)
小宮山 ‥‥コリデールという種類です。
山下 おいで! こっち! こっちだよ!
山下 ‥‥‥‥来ません。
小宮山 大丈夫です、エサをあげれば。
いきますよ、ほら(エサを出す)。
山下 き、来ました!
小宮山 ね。
山下 うわあ、ふかふかだ‥‥。
そして小宮山さん、
この子、笑ってません?
ほら、笑ってませんか?
笑ってますよ! ね?!
小宮山 はい、そうですね(笑)。



まっすぐに、かわいかった。

小宮山さんのポストカードは、
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通信販売は10枚から。
在庫の有無などは注文フォームでご確認くださいませ。

そして、
小宮山さんがお勤めの
「ハイブリッド・レジャーランド 東武動物公園」の
HPはこちら↓からどうぞ。


というわけでみなさま、
「男子あみぐるみ部」の部活動
しばらく集中していたため
久しぶりの再開となりました。
また、マイペースで取り組んでゆきますので、
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

自分でみつけたカワイイを紹介するのもいいけれど、
今回のように教えていただいての出会いも
たいへん有意義なものになりました。
どこかですてきなおじさんをみかけたら、
メールでおしらせくださいね。
山下のなんだかよくわからない感覚が
これは! と反応して、
いろいろなタイミングと条件が重なったなら、
どんどん会いにまいりますので。

2007-04-04-WED

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