カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

とある金曜日、午後1時。
東京大学駒場リサーチキャンパス内にある、
広々としたギャラリーを僕は訪れておりました。

岩井俊雄さん(43)は、
すてきな水色のセーター姿で
山下の前に腰をおろしていらっしゃいます。
僕はかたわらのバッグに手をのばすと、
用意してきたその物体を取り出し
テーブルにゴトリと、のせるのでありました。

第50回
顕微鏡は
カワイイ。

岩井 お? おお! これは。
山下 ご用意いたしました。
‥‥最近、のぞかれましたか?
岩井 いやあ、のぞいてないですねえ。
山下 岩井さんが昔もってらしたのも
こういうものでした?
岩井 ええ、もう、まさしくですよ。
山下 よかったです。
‥‥こういうもので、みていたわけですね、
プランクトンを。
岩井俊雄さん(既婚)のお仕事は、
メディアアーティスト。
ニンテンドーDSのソフト、
「エレクトロプランクトン」を
つくられた、そのかたです。

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ひと月ほど前に僕は、
小さくてかわいいものをたくさん紹介する本
「bean’s」さんからのご依頼で
岩井俊雄さんへのインタビューを行いました。
「エレクトロプランクトン」のかわいさや
開発時の逸話などをまとめた記事は
こちらで読むことができます。ぜひ。

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気さくな岩井さんとのお話は終始ほのぼの、
とてもたのしかったのでありました。
あまりにたのしかったので「ほぼ日」でも、
岩井俊雄さんの人となりを
お伝えしようと思い至った次第。
ただし「エレクトロプランクトン」について
詳しくお伝えする内容ではございません。
こちらでのテーマは、顕微鏡です。
「おじさんが顕微鏡に興じる」場面を中心に
お送りさせていただこうと存じます。

それでは、
岩井さんが少年の微笑みで
顕微鏡に手をのばすところから、
まいりましょう。

岩井 まずカタチからして、魅力的ですよね。
当時はほんとに憧れました。
山下 お父さんに顕微鏡を買ってもらったことが、
「エレクトロプランクトン」の誕生に
つながっているとうかがいましたが‥‥。
岩井 はい、あれは5年生だったと思うんですが、
父にねだって買ってもらったんです。
うれしかったですねえ。
買いに行ったお店とか、その時の状況を
すごくよく覚えているんですよ。
山下 そういうのって忘れないですよね。
岩井 メガネ屋さんに買いにいったんです。
山下 ああ、ありましたねメガネ屋さんに、顕微鏡。
岩井 光学機器ですからね、
天体望遠鏡とかもありましたでしょ。
山下 はいはい、そういえば置いてました。
岩井 買ってもらったときは、
ほんっとにうれしくて。
僕はその顕微鏡をずっと大事にしていました。
‥‥顕微鏡って、手触りがいいんですよね。
この、なんか「機械」なかんじが。
山下 ほんとにお好きなのですね(笑)。
岩井 ええ(笑)、そうですね、夢中でした。
山下 どんなものを観察しました?
岩井 とりあえず、髪の毛(笑)。
羽根とか、植物の葉っぱとか、
もちろんプランクトンも観察しましたよ。
池の水をすくってきて、みると、
こう、何かいろいろウヨウヨいて、
わあ、すごいなあ、って。
山下 なるほどお。
岩井 ‥‥あと好きだったのが、プレパラート。
プレパラートをつくるのが好きでしたね。
山下 プレパラート。ガラスの板ですよね?
観察するものをのせる。
岩井 そう、あの標本をつくる過程が好きでした。
長方形のガラスの板に観察するものをのせて、
そこに正方形の薄いカバーガラスをかぶせ、
樹脂を1滴タラーっとたらして固めるんです。
すると長く保存できる標本になるんですね。
山下 ‥‥じつは岩井さん、きょうはですね、
その標本もご用意いたしました。
(カバンから出し、テーブルに置く)
岩井 ああ、そうそう!
こういう感じこういう感じ!!
山下 ‥‥な、なのですが岩井さん、
よろこんでいただいたのに心苦しいのですが
‥‥‥‥ここにプランクトンはないのです。
探したんです、探したんですが‥‥
そらまめの根だの、蚊の頭だのはあっても、
プランクトンの標本だけがなかったのです。
岩井 そうでしたか。
山下 申し訳ありません‥‥。
岩井さんといえばプランクトンですのに。
肝心のプランクトンがなくては、
これ、いったい、なんのための‥‥。
岩井 大丈夫ですよ(笑)、気にしないでください。
‥‥やあ、いろんなのがありますねえ。
ええと(プレパラートを物色)‥‥。
あ! タマネギの皮は見たかもしれない!
山下 そ、そうですか!?
岩井 これは定番ですよ(取り出す)。
色素を入れて染色してからみるんです。
山下 (笑)あー、やりましたね、そういうこと。
‥‥のぞいてみましょうか。
岩井 みましょうみましょう(標本をセット)。
山下 まずその下の鏡で光を入れるんですよね。
岩井 そうそうそう‥‥。
この上のレンズが接眼レンズで、
山下 下が対物レンズ! いきなり思い出しました。
岩井 ね、ふだん使わない単語ですものね。
‥‥ちょっと、のぞいてみます。
山下 ‥‥ど、どうでしょう?
岩井 ‥‥ん? 暗いですね。
山下 あ、それは僕が前にいるからです、どきます。
岩井 はいはい、明るくなりました‥‥。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
岩井 ええと、これが‥‥(いろいろ調節)。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
岩井 倍率はこっちで‥‥(いろいろ調節)。
山下 ‥‥‥‥ど、どうでしょう、
見えましたか?
岩井 いや、まだ‥‥‥‥(いろいろ調節)。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
岩井 ‥‥‥‥あ、あ、きたきた!
山下 きました?
岩井 ああ、ありますあります!
山下 ありますか!
岩井 あー、なつかしー。
山下 タマネギの皮で「なつかしー」って、
なんだかおもしろい反応ですね(笑)。
岩井 いやいやほんとに。
こうして実際にのぞくと、
ほら、なつかしいですって。
ちょっとのぞいてみてくださいよ。
山下 どれどれ(隣に移動してのぞく)
‥‥お、おおー、これは。
岩井 ね? ちょっと、おおーって感じでしょ?
山下 はい、ほんとだなつかしい‥‥。
あー、こういうの、
たしかにみた気がします‥‥。
岩井 でしょ?
ええと、あとは(別なプレパラートを物色)
やっぱりこれですね、
蚊の頭、気になりません?
山下 (目を離す)はい、蚊の頭。
岩井 みてみますか(セットする)。
山下 そうですね、みてみましょう。
岩井 ‥‥‥‥(いろいろ調節)。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
岩井 ‥‥‥‥お、おお。
山下 きましたか?
岩井 きました。
どうぞ、ご覧ください。
山下 ありがとうございます(のぞく)。
‥‥‥‥あ、ありました!
わ、でも、これ‥‥ええ〜!?
岩井 すごいでしょ。
山下 ‥‥はあ〜、蚊の頭を
こんなに大きくしてみるのは初めてです。
へえええ、こんなふうになってるんだあ‥‥。
岩井 ほかには‥‥(プレパラートを物色)
蝶のりん粉、竹の茎、水草の芽‥‥。
山下 (まだみてる)すっごいなあ、蚊の頭。
おっかないなあ‥‥。
岩井 (プレパラートを物色)うーん、やっぱり、
こうなるとプランクトンをみたくなりますね。
山下 ‥‥(目を離す)。
すいません、ご用意できなくて‥‥。
岩井 あ、いやいやいや、そういう意味ではなく。
なんだか、あれですよね‥‥。
山下 なんでしょう?
岩井 ここまでたのしいと、このまま池に
採集にいっちゃう感じですよね(笑)。
山下 ああ‥‥(笑)、
いいですねえ、いきたいですねえ‥‥。
岩井 いきましょうか(笑)。
山下 ふたりで網を持って(笑)。
岩井 ねえ‥‥‥‥‥‥。
山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
岩井さん、きょうはほんとうにご多忙の中、
お時間をつくっていただいて
ありがとうございました。
岩井 こちらこそ、とてもたのしかったです。
山下 それでは‥‥。
岩井 あの、でも山下さん‥‥。
山下 はい? なんでしょう。
岩井 僕らがのぞいた顕微鏡の中の様子は、
読者のひとたちにみせられないのですよね。
山下 ‥‥ああ、それは、はい。
さすがに写真に撮るのはむずかしいので‥‥。
岩井 そうですか、ちょっと残念です‥‥。
山下 たしかに、残念です‥‥。
と、空気が沈みかけた、その時でした。
僕らの背後から、
「撮ってみましょう」
という男らしい声が。
声の主は、この取材を撮影していた
カメラマン・殿村誠士さん(37)のものでした。
ちなみに、殿村さんと僕らは初対面です。

殿村 焦点さえあえば
なんとかなると思うんですよ。
山下 ほんとですか?
殿村 やるだけやってみましょう‥‥
(一眼レフのレンズをはずし
 ボディだけにしてしまう)。
山下 あれ? レンズはつかわないんですか?
殿村 ええ、このボディを直接こうして‥‥。
岩井 なるほど、つまり顕微鏡のレンズを、
そのカメラのレンズにしてしまうわけですね。
殿村 そういうことです‥‥(いろいろ調節)。
山下 ‥‥ちょ、ちょっと待ってください!
そのままですと、万事うまくいっても
写るのは、蚊の頭です!
せめてこっちで(プレパラートを替える)
タマネギの皮で‥‥‥‥はい、OKです!
殿村 ‥‥では、もう一度(いろいろ調節)。
山下 ‥‥ど、どうでしょう?
殿村 ‥‥暗いですね。
山下 また僕が前にいました、どきます。
殿村 ‥‥‥‥ええと(いろいろ調節)。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
岩井 ‥‥‥‥‥‥。
殿村 ‥‥‥‥‥‥きました(パシャ)。
山下 と、撮れましたか!?
殿村 ‥‥かろうじて、それらしきものが。
岩井 どれどれ。
山下 ‥‥う、写っています。
岩井 いいじゃないですか! 撮れてますよ!
山下さん、これで雰囲気が伝わりますね!
山下 ‥‥岩井さん、そして殿村さん、
ほんとうに、ありがとうございました!!


「エレクトロプランクトン」の内容には
ここではまったく触れませんでしたが、
そのかわいさ、山下が保証いたします!
未体験のかたはぜひ、触れてみてください。
愛らしくて、キモチのいい、
これはもうゲームではなく、
楽器の一種のような気がいたしました。

上の画面はこのように、
顕微鏡の接眼レンズをのぞいたような見え方。



そして、下のタッチパネル、
こちらは、プレパラートの見立てなのだとか。

▲画像タッチで、Amazonへと向かいます。


Special Thanks
取材協力/studio-UOO! 古庄浩二さま
撮影/Photographer 殿村誠士さま

2005-12-28-WED

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