岩井 |
お? おお! これは。 |
山下 |
ご用意いたしました。
‥‥最近、のぞかれましたか? |
岩井 |
いやあ、のぞいてないですねえ。 |
山下 |
岩井さんが昔もってらしたのも
こういうものでした? |
岩井 |
ええ、もう、まさしくですよ。 |
山下 |
よかったです。
‥‥こういうもので、みていたわけですね、
プランクトンを。 |
岩井俊雄さん(既婚)のお仕事は、
メディアアーティスト。
ニンテンドーDSのソフト、
「エレクトロプランクトン」を
つくられた、そのかたです。
ひと月ほど前に僕は、
小さくてかわいいものをたくさん紹介する本
「bean’s」さんからのご依頼で
岩井俊雄さんへのインタビューを行いました。
「エレクトロプランクトン」のかわいさや
開発時の逸話などをまとめた記事は
こちらで読むことができます。ぜひ。
気さくな岩井さんとのお話は終始ほのぼの、
とてもたのしかったのでありました。
あまりにたのしかったので「ほぼ日」でも、
岩井俊雄さんの人となりを
お伝えしようと思い至った次第。
ただし「エレクトロプランクトン」について
詳しくお伝えする内容ではございません。
こちらでのテーマは、顕微鏡です。
「おじさんが顕微鏡に興じる」場面を中心に
お送りさせていただこうと存じます。
それでは、
岩井さんが少年の微笑みで
顕微鏡に手をのばすところから、
まいりましょう。 |
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岩井 |
まずカタチからして、魅力的ですよね。
当時はほんとに憧れました。 |
山下 |
お父さんに顕微鏡を買ってもらったことが、
「エレクトロプランクトン」の誕生に
つながっているとうかがいましたが‥‥。 |
岩井 |
はい、あれは5年生だったと思うんですが、
父にねだって買ってもらったんです。
うれしかったですねえ。
買いに行ったお店とか、その時の状況を
すごくよく覚えているんですよ。 |
山下 |
そういうのって忘れないですよね。 |
岩井 |
メガネ屋さんに買いにいったんです。 |
山下 |
ああ、ありましたねメガネ屋さんに、顕微鏡。 |
岩井 |
光学機器ですからね、
天体望遠鏡とかもありましたでしょ。 |
山下 |
はいはい、そういえば置いてました。 |
岩井 |
買ってもらったときは、
ほんっとにうれしくて。
僕はその顕微鏡をずっと大事にしていました。
‥‥顕微鏡って、手触りがいいんですよね。
この、なんか「機械」なかんじが。 |
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山下 |
ほんとにお好きなのですね(笑)。 |
岩井 |
ええ(笑)、そうですね、夢中でした。 |
山下 |
どんなものを観察しました? |
岩井 |
とりあえず、髪の毛(笑)。
羽根とか、植物の葉っぱとか、
もちろんプランクトンも観察しましたよ。
池の水をすくってきて、みると、
こう、何かいろいろウヨウヨいて、
わあ、すごいなあ、って。 |
山下 |
なるほどお。 |
岩井 |
‥‥あと好きだったのが、プレパラート。
プレパラートをつくるのが好きでしたね。 |
山下 |
プレパラート。ガラスの板ですよね?
観察するものをのせる。 |
岩井 |
そう、あの標本をつくる過程が好きでした。
長方形のガラスの板に観察するものをのせて、
そこに正方形の薄いカバーガラスをかぶせ、
樹脂を1滴タラーっとたらして固めるんです。
すると長く保存できる標本になるんですね。 |
山下 |
‥‥じつは岩井さん、きょうはですね、
その標本もご用意いたしました。
(カバンから出し、テーブルに置く) |
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岩井 |
ああ、そうそう!
こういう感じこういう感じ!! |
山下 |
‥‥な、なのですが岩井さん、
よろこんでいただいたのに心苦しいのですが
‥‥‥‥ここにプランクトンはないのです。
探したんです、探したんですが‥‥
そらまめの根だの、蚊の頭だのはあっても、
プランクトンの標本だけがなかったのです。 |
岩井 |
そうでしたか。 |
山下 |
申し訳ありません‥‥。
岩井さんといえばプランクトンですのに。
肝心のプランクトンがなくては、
これ、いったい、なんのための‥‥。 |
岩井 |
大丈夫ですよ(笑)、気にしないでください。
‥‥やあ、いろんなのがありますねえ。
ええと(プレパラートを物色)‥‥。
あ! タマネギの皮は見たかもしれない! |
山下 |
そ、そうですか!? |
岩井 |
これは定番ですよ(取り出す)。
色素を入れて染色してからみるんです。 |
山下 |
(笑)あー、やりましたね、そういうこと。
‥‥のぞいてみましょうか。 |
岩井 |
みましょうみましょう(標本をセット)。 |
山下 |
まずその下の鏡で光を入れるんですよね。 |
岩井 |
そうそうそう‥‥。
この上のレンズが接眼レンズで、 |
山下 |
下が対物レンズ! いきなり思い出しました。 |
岩井 |
ね、ふだん使わない単語ですものね。
‥‥ちょっと、のぞいてみます。 |
|
山下 |
‥‥ど、どうでしょう? |
岩井 |
‥‥ん? 暗いですね。 |
山下 |
あ、それは僕が前にいるからです、どきます。 |
岩井 |
はいはい、明るくなりました‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥。 |
岩井 |
ええと、これが‥‥(いろいろ調節)。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥。 |
岩井 |
倍率はこっちで‥‥(いろいろ調節)。 |
山下 |
‥‥‥‥ど、どうでしょう、
見えましたか? |
岩井 |
いや、まだ‥‥‥‥(いろいろ調節)。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥。 |
岩井 |
‥‥‥‥あ、あ、きたきた! |
山下 |
きました? |
岩井 |
ああ、ありますあります! |
山下 |
ありますか! |
岩井 |
あー、なつかしー。 |
山下 |
タマネギの皮で「なつかしー」って、
なんだかおもしろい反応ですね(笑)。 |
岩井 |
いやいやほんとに。
こうして実際にのぞくと、
ほら、なつかしいですって。
ちょっとのぞいてみてくださいよ。 |
山下 |
どれどれ(隣に移動してのぞく)
‥‥お、おおー、これは。 |
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岩井 |
ね? ちょっと、おおーって感じでしょ? |
山下 |
はい、ほんとだなつかしい‥‥。
あー、こういうの、
たしかにみた気がします‥‥。 |
岩井 |
でしょ?
ええと、あとは(別なプレパラートを物色)
やっぱりこれですね、
蚊の頭、気になりません? |
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山下 |
(目を離す)はい、蚊の頭。 |
岩井 |
みてみますか(セットする)。 |
山下 |
そうですね、みてみましょう。 |
岩井 |
‥‥‥‥(いろいろ調節)。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥。 |
岩井 |
‥‥‥‥お、おお。 |
山下 |
きましたか? |
岩井 |
きました。
どうぞ、ご覧ください。 |
山下 |
ありがとうございます(のぞく)。
‥‥‥‥あ、ありました!
わ、でも、これ‥‥ええ〜!? |
岩井 |
すごいでしょ。 |
山下 |
‥‥はあ〜、蚊の頭を
こんなに大きくしてみるのは初めてです。
へえええ、こんなふうになってるんだあ‥‥。 |
岩井 |
ほかには‥‥(プレパラートを物色)
蝶のりん粉、竹の茎、水草の芽‥‥。 |
山下 |
(まだみてる)すっごいなあ、蚊の頭。
おっかないなあ‥‥。 |
岩井 |
(プレパラートを物色)うーん、やっぱり、
こうなるとプランクトンをみたくなりますね。 |
山下 |
‥‥(目を離す)。
すいません、ご用意できなくて‥‥。 |
岩井 |
あ、いやいやいや、そういう意味ではなく。
なんだか、あれですよね‥‥。 |
山下 |
なんでしょう? |
岩井 |
ここまでたのしいと、このまま池に
採集にいっちゃう感じですよね(笑)。 |
山下 |
ああ‥‥(笑)、
いいですねえ、いきたいですねえ‥‥。 |
岩井 |
いきましょうか(笑)。 |
山下 |
ふたりで網を持って(笑)。 |
岩井 |
ねえ‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。
岩井さん、きょうはほんとうにご多忙の中、
お時間をつくっていただいて
ありがとうございました。 |
岩井 |
こちらこそ、とてもたのしかったです。 |
山下 |
それでは‥‥。 |
岩井 |
あの、でも山下さん‥‥。 |
山下 |
はい? なんでしょう。 |
岩井 |
僕らがのぞいた顕微鏡の中の様子は、
読者のひとたちにみせられないのですよね。 |
山下 |
‥‥ああ、それは、はい。
さすがに写真に撮るのはむずかしいので‥‥。 |
岩井 |
そうですか、ちょっと残念です‥‥。 |
山下 |
たしかに、残念です‥‥。 |
と、空気が沈みかけた、その時でした。
僕らの背後から、
「撮ってみましょう」
という男らしい声が。
声の主は、この取材を撮影していた
カメラマン・殿村誠士さん(37)のものでした。
ちなみに、殿村さんと僕らは初対面です。 |
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殿村 |
焦点さえあえば
なんとかなると思うんですよ。 |
山下 |
ほんとですか? |
殿村 |
やるだけやってみましょう‥‥
(一眼レフのレンズをはずし
ボディだけにしてしまう)。 |
山下 |
あれ? レンズはつかわないんですか? |
殿村 |
ええ、このボディを直接こうして‥‥。 |
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岩井 |
なるほど、つまり顕微鏡のレンズを、
そのカメラのレンズにしてしまうわけですね。 |
殿村 |
そういうことです‥‥(いろいろ調節)。 |
山下 |
‥‥ちょ、ちょっと待ってください!
そのままですと、万事うまくいっても
写るのは、蚊の頭です!
せめてこっちで(プレパラートを替える)
タマネギの皮で‥‥‥‥はい、OKです! |
殿村 |
‥‥では、もう一度(いろいろ調節)。 |
山下 |
‥‥ど、どうでしょう? |
殿村 |
‥‥暗いですね。 |
山下 |
また僕が前にいました、どきます。 |
殿村 |
‥‥‥‥ええと(いろいろ調節)。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥。 |
岩井 |
‥‥‥‥‥‥。 |
殿村 |
‥‥‥‥‥‥きました(パシャ)。 |
山下 |
と、撮れましたか!? |
殿村 |
‥‥かろうじて、それらしきものが。 |
岩井 |
どれどれ。 |
|
山下 |
‥‥う、写っています。 |
岩井 |
いいじゃないですか! 撮れてますよ!
山下さん、これで雰囲気が伝わりますね! |
山下 |
‥‥岩井さん、そして殿村さん、
ほんとうに、ありがとうございました!! |