山下 |
わ、わ、うわあああ。
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宮中 |
オオサイチョウの、サイちゃんです。
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山下 |
す、すごい‥‥。
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宮中 |
うちの看板娘。
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山下 |
看板娘‥‥ということは女の子ですね。
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宮中 |
もちろん、女の子ですよお。
ねえ、サイちゃん。
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宮中さんは、横浜マリンタワー内にある
「世界鳥類園バードピア」の園長さんです。
オオサイチョウのサイちゃんは、
その「バードピア」でいちばん人気なのだとか。
アイドルの看板娘を目の前にして
やや緊張気味の山下ですが、
とにかくお話をうかがってみましょう。 |
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山下 |
‥‥わ、わりと、おとなしいのですね。
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宮中 |
ええ。大丈夫ですよ、もっと近付いても。
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山下 |
は、はい。(ほんの少し接近)
‥‥サイちゃんは、いつもこの入り口に?
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宮中 |
そうですね、私がカウンターにいるときは、
こうしてお客さんをお出迎えしています。
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山下 |
‥‥‥‥え、ええと、
オオサイチョウという種類なのですよね。
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宮中 |
はい。サイチョウ科のオオサイチョウ、
インドネシアとかマレーシアとか、
そっちのほうの鳥です。
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山下 |
サイチョウ‥‥
なぜそういう名前なのでしょう。
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宮中 |
ああ、それは、この頭の部分がですね‥‥。
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山下 |
はい(もう少し接近)。
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宮中 |
四つ足動物のサイに似ていて、
それでサイチョウという名前なんです。
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山下 |
なるほど、サイが由来ですか。
ん? ああ、よくみるとサイちゃん、
まつげが長いですねえ。
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宮中 |
そうそう、まつげ、チャームポイントです。
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山下 |
うまく写真に撮れるかなあ。(さらに接近)
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サイ |
カパカパカパカパ!(くちばしを鳴らす)
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山下 |
うわあああ!(よろける)
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宮中 |
あ、大丈夫ですか?
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山下 |
だ、大丈夫です。失礼しました。
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怖かったのです。
あまりに大きく、迫力があったので‥‥。
でも、そんなことは言ってられません! |
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山下 |
あ、あの宮中さん、お願いがあるのですが。
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宮中 |
はい、なんでしょう。
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山下 |
サイちゃんをですね、この、僕の腕に、
とまらせることはできますでしょうか。
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宮中 |
あ、できますよ。
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山下 |
できますか!!
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宮中 |
ええ。じゃあ、もっとこっちへきて、
腕をここへ出してください。
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山下 |
‥‥は、はい。(意を決して腕を出す)
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宮中 |
ほら、サイちゃん、ここにのって。
そう、ここだよ、ここにのるの、ここ。
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サイ |
(のる)
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山下 |
わわわわわ! のった! のりました!!
お、重っ! あんがい重たいです!
そうだ、しゃ、写真撮らなきゃ。(パニック)
か、片手でなんとか‥‥よいしょ。
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宮中 |
ああ、それじゃあうまく撮れないでしょう。
よかったら私が写しましょうか。
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山下 |
お、お願いします!(デジカメを渡す)
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宮中 |
じゃ、いきますよ。(ファインダーをのぞく)
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山下 |
あ、それはデジカメなので画面を見ながら
撮っていただければ。
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宮中 |
ああ、はいはい、なるほど。
これはシャッター押すだけでよいのですか?
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山下 |
はい、そうです、お願いします!
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宮中 |
サイちゃーん、横向いてー。
その角度じゃあ、
自慢のくちばしがきれいに写らないよー。
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山下 |
いい子だから、ほら、こっち向いて、ね。
‥‥あ、向きました! 横向きました!!
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宮中 |
撮りまーす。
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山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
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宮中 |
‥‥‥‥シャッターはどれでしょう?
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山下 |
そ、それです! そこの丸いやつ‥‥。
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宮中 |
これ?
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山下 |
そう、それです!
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宮中 |
よし、じゃあ、こんどこそ撮りまーす。
ワン、ツー、‥‥はい。
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山下 |
(画像を見て)はい、ばっちりです!
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宮中 |
サイちゃーん、もうおりていいよー。
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サイ |
(おりる)
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山下 |
‥‥いやあ、ありがとうございました。
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それから僕は宮中さんに
「バードピア」の園内を
案内していただくことになりました。
サファリパークの“鳥バージョン”
といえばわかりやすいでしょうか。
世界の鳥たちが放し飼いされた
大きな鳥カゴの中に人間が入っていく、
それが「バードピア」なのです。
各自こういうエサを手に持って。 |
「ピイヤー、ピヤピヤー」
「カウ、カウカウカウカウ」
七色の声に包まれながら、
僕と宮中さんは入口の扉をくぐります。
おそるおそるの、
エサやり体験をご覧ください。 |
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山下 |
宮中さん、みてください!
インコが僕の手に!
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宮中 |
ほら、どんどんやってきますよ。
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山下 |
わあ、ほんとだ! はははは、
頭と肩にもとまりました!
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宮中 |
かわいいもんでしょ?
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山下 |
はい、これはたのしいですねえ!
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宮中 |
(笑)それはよかったです。
では最後に、
あれに残りのエサをあげてください。
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山下 |
はい。‥‥‥‥‥‥え。
あ、あれは?
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宮中 |
エミューという鳥です。
なかなかの人気者なんですよ。
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山下 |
‥‥エミュー。
だ、ダチョウみたいです。
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宮中 |
ダチョウの次に大きい鳥ですね。
さ、ほら、あげてください。
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山下 |
‥‥は、はい。(超、おそるおそる)
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エミュー |
ぐええええええ。
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山下 |
うわあああああ! む、無理です!!
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僕は、エミューから逃げるように
入口の受付ロビーへと戻ってきました。
「大きい鳥のかわいさを、
このまま僕は理解できないのだろうか‥‥」
ひとりでそんなことを考えていると、
宮中さんもロビーへ到着。
いったん園内に戻していたサイちゃんを、
再びロビーにつれてきてくれました。
サイちゃんを見つめる宮中さんの目は、
とても穏やかです。 |
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山下 |
‥‥あの、宮中さん、
やはり宮中さんは、ここにいる鳥の中で
サイちゃんがいちばんかわいいのでしょうか。
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宮中 |
まあ、そうですねえ、
それぞれの鳥に良さはありますが、
この子は特別かもしれません。
もう18年もこうして一緒ですしね。
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山下 |
ああ、そんなに‥‥。
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宮中 |
おとなしくて、ひとなつっこいし‥‥。
それに、甘えんぼうなんですよ。
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山下 |
え? ‥‥なつくのはわかる気がしますが、
鳥が甘えるというと、いったいどういう‥‥。
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宮中 |
サイちゃん、ほら、こっちおいで。
(カウンターをトントン叩く)
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山下 |
ん? ためらってますね。
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宮中 |
いいんだよ、サイちゃん、きょうは。
いつもはここにのると叱るけど、
ほら、きょうはいいんだよ、おいで。
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サイ |
(ヒョイと、カウンターにのる)
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宮中 |
よーし、よしよし。(背中をなでる)
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山下 |
あれ? あれれれ、横になっちゃいました。
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宮中 |
(なでながら)こんな人になれた頭のいい鳥、
めったにはいないですよ。
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山下 |
ああ‥‥‥‥‥。
ほんと、そうなんでしょうねえ。
いやあ、驚きました。
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宮中 |
(なでながら)犬や猫とおんなじでしょ?
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山下 |
はい‥‥。
あ? あらららら‥‥。
は〜、こうなっちゃうんですかあ。
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宮中 |
‥‥眠ってしまうんです。
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山下 |
(笑)気持ち良さそうに寝てますねえ‥‥。
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サイちゃんの寝顔をながめながら、
宮中さんは「バードピア」28年の歴史などを
静かに話してくださいました。
宮中さん、もともとは電電公社に勤める
ごく一般の愛鳥家だったとか。
「できるだけ広い場所で飼ってやりたくて
鳥カゴを少しずつ大きくしていったら、
結局こういうことになりました」
‥‥のだそうです。
なんてすごい、
「好きが高じて」なのだろうと思いました。
そんなお話をあれこれしていると、
ロビーにお客様がやってまいりました。
仲良さそうな若いアベックです。
慣れた手つきで入園券を切る、宮中さん。
熟睡していたサイちゃんも、
お客様の気配に目を開きます。
ああ、でも、もっのすごく眠そう‥‥。
ガンバレ!
眠るな、看板娘!! |
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「ああ、起きなくちゃ起きなくちゃ起きなくちゃ‥‥」 |
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