山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥似ています。 |
今井 |
そうですか。 |
山下 |
これは、まさしくうちのうさぎそのものです。 |
数カ月前のことです。
読者の方から僕は、あるHPの存在を
教えていただきました。
そこは、ひとりの女性(主婦)が
フエルト製の自作マスコットなどを
紹介・販売するこじんまりとしたサイトでした。
僕はそこで、たいへんな画像に出くわします。
これです。
耳のたれたうさぎが、スプーンのうえに‥‥。
しかも、サイトの説明には
「飼っているうさぎの画像を送れば、
それをモデルにマスコットをつくります」
という内容の案内が。
迷わず僕は愛兎・パンクの画像を添付して、
たれ耳うさぎのマスコットを1体注文しました。
オーダーメールには、
「そちらの商品を愛でているおじさんを、
どなたかご存知ないでしょうか?」
というメッセージをそえて‥‥。
しかし残念ながら、そうしたおじさんには
心当たりがないというお返事。
お客様はやはり女性ばかりなのだとか。
僕は一計を案じ、再度メールをしたためました。
「いかがでしょう、もうこうなったら
ご主人様をご紹介いただけないでしょうか?」
こうして、ご登場いただいた今井良和さんは、
金融関係の会社にお勤めの37歳。
かたい職場にお勤めのご主人から、
やわらかいものをつくる奥様のお話を、
ゆっくりとうかがってまいりましょう。 |
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山下 |
おひさまをあびた、この表情がまた‥‥。 |
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今井 |
気に入っていただけたでしょうか。 |
山下 |
もちろんです。 |
今井 |
そうですか、家内もよろこびます。 |
山下 |
テーブルに置いてみますね。 |
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山下 |
ちっちゃいなあ、ほんとちっちゃい。
‥‥あの、奥様はたしか、うさぎ以外にも
いろいろとつくられていましたよね? |
今井 |
ええ、あそこの棚に並べてるのがそうで‥‥。
ちょっと持ってきますね(取りにいく)。 |
今井さんは、20数点のマスコットを
棚の上からテーブルの上へと
移動してくださいました。
それからしばし、いつものように、
おじさんふたりで素敵なものを並べる作業。
静かに、黙々と‥‥。 |
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山下 |
‥‥いいですねえ。
やはりこのちいささがいいんでしょうね。 |
今井 |
そうなのでしょうか(笑)。 |
山下 |
奥様は昔からこういったものを
つくられていたのですか? |
今井 |
いや、つくりだしたのは
家内が会社を辞めたあとですから、
あれは3年くらい前からですかね。 |
山下 |
そうですか。販売も3年前から? |
今井 |
いえいえ、最初はただつくってただけで。
‥‥それがですね、ある日、
「展示会に出す」と言い出したんですよ。 |
山下 |
思い立ったように。 |
今井 |
ええ、高円寺のお店で、何人かの作家さんが
一緒に出品する展示会でした。 |
山下 |
どうでした? |
今井 |
それが、たのしみにしてみにいったら‥‥。
こう、作品が並んでいる棚の、
いちばんはしっこの、いちばん高いところに
家内のものが展示されてまして‥‥。 |
山下 |
ああ‥‥。 |
今井 |
家内のつくったものは、ちいさいので
目立たない、というかもう、見えなくて‥‥。
誰もみてくれてないような状態で、
ずいぶんがっかりしたのを覚えています。 |
山下 |
そうでしたか‥‥。 |
今井 |
そのあとも‥‥
ほら、箱貸しのお店ってあるでしょ? |
山下 |
え? ああ、はい、
ちいさなボックスがたくさん並んでて
そのひとつを借りて雑貨を売るような。 |
今井 |
そうそう、そこに出してみたんですが
まったく売れず‥‥。 |
山下 |
まったくですか。 |
今井 |
ちいさなひよこがふたつだけ売れました。 |
山下 |
ふたつ‥‥。
奥様もがっかりなさったでしょう。 |
今井 |
ええ、それなりに頑張ってつくっていたので。 |
山下 |
なぐさめたり、なさいました? |
今井 |
え? ええ、まあ、
売れなくてもともとなんじゃないの、と。
ふたつ売れたんだからラッキーじゃない、
最初はゼロだったんだよって。 |
山下 |
そうでしたか‥‥。
‥‥ネットでの販売はそのあとなわけですね。 |
今井 |
はい、ある日帰ってきたらはじめていました。 |
山下 |
あ、ご主人に相談はなさらないんですね。 |
今井 |
しないですしないです(笑)。
アレコレ言われたり教えられたりするのが、
家内は大嫌いみたいなんで。
いつの間にか着々と準備をすすめてて、
私はいつもあとになって知るんです。 |
山下 |
ぜんぶ自分でやりたいかたなんですね、奥様。 |
今井 |
マスコットをつくっているところも
私はほとんどみていませんから。 |
山下 |
そうなんですか、みえないところで。
「鶴の恩返し」みたいですね(笑)。 |
今井 |
(笑)そうですね。 |
山下 |
で、お話を戻しますと、
ネットで販売をはじめてから
注文が増えはじめたのでしょうか。 |
今井 |
いやあ、これがまた最初は売れなくて。
ほんと、ここ最近なんですよ、
ご注文いただけるようになったのは。 |
山下 |
それはやはり、あれの影響で。 |
今井 |
ええ、スプーンにのせたうさぎ。
あれの注文がいちばん多いようですし。 |
山下 |
インパクトありますよねえ‥‥。
あの、今井さん、僕もちょっと、
うさぎをスプーンにのせて
写真を撮ってもよろしいでしょうか? |
今井 |
あ、どうぞどうぞ、
その珈琲についてますよね、スプーン。 |
山下 |
はい、ではこちらを使わせていただいて。
まずはやっぱり、この子から‥‥。 |
|
山下 |
‥‥‥‥すごいなあ。
もしも、もしもですよ今井さん、
ほんとにこういう生き物がいてですね
ちょこちょこ動いていたら、
それはさぞかし、たまらないでしょうねえ。 |
今井 |
(笑)それはかわいいでしょうね。 |
山下 |
こっちの白い子ものせてみます(のせる)。 |
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今井 |
それがいちばん最初につくったうさぎだと、
家内は言っておりました。 |
山下 |
そうですか、なるほどプリミティブです。
‥‥次は、この立ち上がってる子を(のせる)。 |
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今井 |
それはつくるのに時間がかかるうさぎだと、
家内は言っておりました。 |
山下 |
そうですかあ‥‥(うさぎをおろす)。
いやあ、ありがとうございました。
‥‥ところで今井さんは
どのマスコットがいちばんお好きですか? |
今井 |
私ですか。私は、ええと‥‥
カメはいいですね、この、カメ。 |
|
山下 |
どのあたりがいいですか? |
今井 |
カメなのに、こんなカラフル。
甲羅がやわらかいっていうのもね‥‥。 |
山下 |
(笑)なるほど。
奥様のいちばんのお気に入りは
うかがってますか? |
今井 |
家内は、これが、なんかこう、
心細いかんじで、そこが好きだと言います。 |
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山下 |
ああ、ほんとだ、なんだか心細い。
‥‥やっぱり、うさぎなんですね。 |
今井 |
ええ、やっぱりうさぎ。 |
山下 |
やっぱりうさぎ‥‥。
うさぎだけで記念撮影を撮ってもいいですか? |
今井 |
もちろん、かまいませんよ。 |
山下 |
では、うさぎ以外の子は‥‥(動かす)。 |
今井 |
ちょっと横にどいてもらって‥‥(動かす)。 |
山下 |
うさぎだけが‥‥(並べる)。 |
今井 |
(並べる)‥‥並びましたね。 |
|
山下 |
ああ‥‥。 |
今井 |
ん? 山下さんのパンク、
一緒に並べないんですか。 |
山下 |
え? ああ、そうですねえ‥‥。
僕がつくってもらったパンクは、
キノコの横で、たそがれてます‥‥。 |
|
今井 |
はい‥‥。 |
山下 |
考えてみれば、この子はまさしくこれから
よその場所へと旅立っていくわけですよね。 |
今井 |
‥‥なるほど。 |
山下 |
そんなことをテーマに、ひとつ今井さん、
パンクを加えて再度並べてもらえますか。 |
今井 |
‥‥わかりました。
ではテーマは「そうべつ会」ということで。 |
山下 |
はい、「そうべつ会」をテーマに、
お願いします。 |
今井 |
パンクちゃんをここに置いて‥‥。
で、こいつはここで(動かす)、
こっちを向いて(動かす)。
‥‥‥‥これでどうでしょう? |
|
山下 |
‥‥‥‥‥‥素晴らしいです。 |
今井 |
みえますかね、そうべつ会に。 |
山下 |
みえます。みえるんですが今井さん、
「そうべつ会」ですと、これ、
なんだか会社みたいですので、
ここはひとつ「おわかれ会」にしませんか。 |
今井 |
あ、おわかれ会のほうがいいですね。
途端に「うさぎの学校」にみえてきました。 |
山下 |
このクラスからパンクは転校する、と。 |
今井 |
はい‥‥。 |
山下 |
お別れ会、次はどうなりましょう? |
今井 |
‥‥どうしましょう。 |
山下 |
パンクといちばん仲のよかったのは
どの子でしょうか。 |
今井 |
‥‥‥これ、似てますよね。 |
|
山下 |
はい、この子。
では、パンクはこの彼女のことを
好きだったと、そういう設定にしましょう。 |
今井 |
‥‥‥‥ああ、はい。 |
山下 |
そうなると、このおわかれの場面で、
パンクは、どうするか‥‥。 |
今井 |
どうするでしょう‥‥。 |
山下 |
‥‥ええと‥‥(パンクを少し動かす)。 |
今井 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥(少し動かす)。 |
今井 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥(少し動かす)。 |
今井 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥(手を止める)。 |
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今井 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥そして、おわかれです(動かす)。 |
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今井 |
‥‥‥‥大切にしてあげてください。
家内もよろこびます。 |
山下 |
本日は、ありがとうございました。
奥様に、くれぐれもよろしくお伝えください。 |
ちいさなパンクをカバンにしまい、
僕はその居心地のよいお宅をあとにしました。
数時間後、山下はわがやに到着。
いつもの居間の、いつもの定位置に、
パンク(大)が寝ころんでいます。
僕はカバンからパンク(小)をとりだすと、
まずは挨拶をさせてみるのでありました。 |
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