山下 |
わあ(笑)、かわいい、かわいいです。 |
きはら |
ありがとうございます。
ベトナムくんという名前です。 |
山下 |
ベトナムくん! |
きはら |
頭にかぶせたのが、
ベトナムの三角帽みたいになったので。 |
山下 |
そうですかあ‥‥。
この、口がいいです、ぽかんとあけた口が。 |
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山下 |
あどけないなあ‥‥。
きはらさん、あみぐるみはいつごろから? |
きはら |
ええと、あれはいつでしたか‥‥。
先生、
最初に教わったのはいつでしたっけ? |
先生。
そう、今回の取材には
「先生」がいらっしゃるのです。
あみぐるみの先生といえば、
お察しの読者もおられることでしょう。
こちらのコンテンツでもおなじみの
タカモリ・トモコ先生、そのかたです。
僕たちはタカモリ先生のお宅に
お邪魔しているのでありました。
直々に、あみぐるみを教えていただくために。
そして、順不同でご紹介させていただきます。
今回のおじさん=きはらようすけさん(既婚)。
きはらさんのお仕事は、イラストレータです。
ジャカジャカジャンケンでおなじみの、
「ポンキッキーズ」のコニーちゃんを描かれた、
まさしくそのかたです。
おじさんふたりと、キュートな先生。
春の日のマンションの静かな一室で、
なんとも平和な時間がはじまりました。 |
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先生 |
最初は‥‥たしか3月末? |
きはら |
そうですね、そのくらいですよね。 |
山下 |
先月のことですか。 |
きはら |
なので、まだ2体しかつくってないんです。
最初に編んだのが(リュックから出す)、
これなんですよ。 |
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山下 |
わあ(笑)、困った顔がいいですねえ。 |
きはら |
ピーナッツのピーちゃんです。 |
山下 |
なるほど(笑)、ピーナッツですか。
ああ(手に取る)、ピーちゃん困ってるなあ。
「やめて~、はなして~」 |
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きはら |
ははははは。 |
山下 |
しかしすごいですね、最初からこんな
オリジナルをつくられるなんて。 |
先生 |
きはらさんは、ほんとに真面目で
優秀な生徒さんなんですよ。 |
きはら |
いやいや、僕なんか編み目も雑だし‥‥。
みてくださいよ先生のこの作品。 |
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山下 |
‥‥すばらしいかわいさです。 |
きはら |
ねえ、かわいいですよねえ‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥あ、あの、じつはですね。 |
きはら |
はい、なんでしょう。 |
山下 |
せっかく先生に教えていただくのにですね、
なにもできない丸坊主のままでうかがうのは
これ、やっぱり失礼だろうと。
僕なりに編み方の基本を勉強しまして‥‥。 |
きはら |
そうですか。 |
山下 |
それで‥‥(カバンをまさぐる)。
‥‥あの、笑わないでくださいね。
‥‥(出す)あ、編んでみました。 |
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きはら |
おおー。 |
先生 |
すごーい! 山下さんすごい。
できてるじゃないですか。 |
山下 |
天使くんを‥‥。
家にあった毛糸と、動眼で‥‥。 |
さて、のんびりしてはいられません。
この日の僕らの目標は、
「あみぐるみをそれぞれひとつ完成する」こと。
僕はさっそくテーブルにつくと
自分がつくりたいあみぐるみのイメージを
タカモリ先生に伝えます。
編みたいものは、うさぎ。
自分が飼っている、パンクという名の
耳のたれたうさぎをどうしても編みたいのです。
ユザワヤで、パンク色の毛糸も買ってきました。

僕が伝えたイメージをもとに、
それを形にするための数式を
タカモリ先生が紙に書いてくださいます。
白い紙に並ぶ数字、数字、数字の列‥‥。
しかし、僕は決してうろたえません。
なぜなら予習をしてきたからです!
いよいよ、山下は編みはじめました。
きはらさんは、すでにどんどん編んでいます。
さすが先輩! |
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山下 |
(編みながら)‥‥きはらさん、
今回なにをつくられるんですか? |
きはら |
(編みながら)それは、のちほどの
おたのしみということで。 |
山下 |
そうですか、わかりました(笑)。
‥‥それにしても、さすが先輩、
手つきが慣れてらっしゃいますね。 |
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きはら |
いやいやいや、まだまだですよ。
どうもこの、力の加減がむずかしくて‥‥。 |
山下 |
はい、もどかしいですよね‥‥。 |
きはら |
なな、はち、くう、じゅう‥‥。 |
山下 |
‥‥そもそも、なぜあみぐるみを
はじめられたのでしょう。 |
きはら |
‥‥‥‥え? すみません、上の空でした。 |
山下 |
あ、こちらこそすみません、
編み目を数えている最中に‥‥大丈夫ですか? |
きはら |
じゅうさん、じゅうし‥‥大丈夫です。
で? なんでしたっけ? |
山下 |
あみぐるみをはじめたきっかけを‥‥。 |
きはら |
あ、きっかけはですね、
もともと先生とは昔から知り合いでして。
じゅうく、にじゅう‥‥
で、いつかやってみたいと‥‥
‥‥あれ? 僕いくつまで数えましたっけ? |
山下 |
申し訳ありません、邪魔をして。
‥‥わかりました、お話はよしましょう。
とにかく集中しましょう。 |
きはら |
そうですね、それがいいですよね。 |
山下 |
はい、編みましょう。 |
きはら |
編みましょう。 |
山下 |
‥‥‥‥(編む)‥‥‥‥。 |
きはら |
‥‥‥‥(編む)‥‥‥‥。 |
そんな僕らのやりとりを、
タカモリ先生は笑顔で見守っておられます。
いつもの取材ですと、きっかけですとか
エピソードなどをうかがうのですが、
今回それはよしにしました。
とにかく編みます、仕上げます。
男ふたりは、結果で勝負いたします!
約2時間が経過しました。 |
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山下 |
‥‥まだこれだけです。 |
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先生 |
大丈夫ですよ、かならずできますから。 |
山下 |
わかりました、がんばります。
‥‥あれ? きはらさん、
もうそんな、4本も編んだんですか? |
 |
きはら |
いえ、いま編んだのは1本だけです。
とてもいちにちでは編めないと思ったので
家で途中まで編んできたんですよ。 |
山下 |
えっ! そ、そうなんですか。
‥‥僕はなんにも準備をせずに
丸坊主でやってきてしまいました。 |
きはら |
大丈夫ですよ、先生がいるんですから。 |
山下 |
‥‥‥‥せ、先生、
あらためて、どうかよろしくお願いします。 |
先生 |
はい、こちらこそ。 |
時々わからない部分を先生に質問しながら、
僕らは黙々と編み続けました。
タカモリ先生は、どんな質問にも
これ以上ないほどやさしく、ていねいに、
わかりやすく、何度でも、答えてくださいます。
やがて陽が落ち、
部屋にやわらかな照明が入るころ、
僕はなんとか頭の部分を編み上げました。 |
|
 |
きはら |
おおー。 |
先生 |
頭ができればもう、ほとんどできてますから。
もうすぐですよ。 |
山下 |
はい!
きはらさん、編みましょう。 |
きはら |
編みましょう。 |
山下 |
‥‥‥‥(編む)‥‥‥‥。 |
きはら |
‥‥‥‥(編む)‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥(編む)‥‥‥‥。 |
きはら |
‥‥‥‥(編む)‥‥‥‥。 |
さらに僕らは編み物を続けました。
そして矢のように時は過ぎ、午後10時、
ついに完成のときがやってきます。 |
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きはら |
‥‥‥‥‥‥よし、と。 |
山下 |
‥‥できましたか! |
きはら |
‥‥これで、どうでしょう。 |
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山下 |
わああああ。 |
先生 |
かわいい! すごいです、きはらさん、
この子は、宇宙人? |
きはら |
はい、火星人です。 |
山下 |
名前を、名前をきめてあげないと! |
きはら |
ええと、うーん‥‥‥‥火星人くんで。
すみません、頭がぼーっとしてて
それくらいしか思いつきません。 |
山下 |
や、シンプルですてきだと思います。
足は3本にしたんですね。 |
きはら |
ええ、1本の足に費やしたあの2時間は
なんだったのかとも思いましたが、
バランスをみてそうしました。 |
山下 |
そうですかあ、いいなあ‥‥。 |
きはら |
目玉と口がうごくんですよ。
こうやって(動かす)‥‥。
ほら、「へっ」という顔にしてみました。 |
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山下 |
ほんとだ! すごい! |
先生 |
3作目でこれは、ほんとに優秀です。
きはらさん、やりましたね。 |
きはら |
ありがとうございます。 |
山下 |
これを、こうすると‥‥。
はははは、びっくりした顔になったぞ! |
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先生 |
‥‥さ、山下さんもあとひといき、
がんばって完成させましょう。 |
山下 |
はい!
編みましょう。(ひとりで編む) |
時刻は夜の11時。
とうとう、僕のうさぎも完成のときが‥‥。
最後の最後に、糸で口を描きました。 |
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山下 |
‥‥‥‥‥‥で、できた。 |
きはら |
‥‥できましたねえ。 |
山下 |
‥‥‥‥か、か、かわいい。 |
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きはら |
‥‥うれしいですよね、できあがると。 |
山下 |
はい、それはもう‥‥。
この顔をじっとみてたら、
ちょっといま泣きそうになりました(笑)。 |
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きはら |
すごいですよ、きれいに編めているし。 |
山下 |
先生のおかげなんです。
僕はご指導の通りに編んだだけで‥‥。 |
きはら |
はい。先生がいたから
僕ら最後までできたんですよね‥‥。 |
山下 |
先生、ありがとうございました。 |
きはら |
ありがとうございました。 |
先生 |
いいえ、おふたりががんばったからですよ。
ほとんど休まず10時間も編み続けるなんて、
大変なことなのに。
最後までがんばってくれて感謝しています。 |
山下 |
そ、そんな‥‥。 |
先生 |
それに、おふたりとも
辛そうではなくずっと楽しそうだったことが
みていてすごく嬉しかったです。
ありがとうございました。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
きはら |
‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
先生 |
‥‥あの、せっかくですから、
この子たち一緒にお写真撮りませんか? |
山下 |
は、はい、それはもう! |
きはら |
じゃあ‥‥(並べる)こんな感じで。 |
山下 |
撮りまーす。 |
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きはら |
どうせなら僕らのあみぐるみを
ぜんぶ並べますね(並べる)。 |
山下 |
いいですねー、撮りまーす。 |
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こうして、10時間にわたる
「あみぐるみ教室」はぶじ終了。
僕らはそれぞれ終電に駆け込み、
帰途についたのでありました。
帰宅後、僕はもちろんすぐに
新しい仲間をうちのうさぎに紹介しました。
パンクはしばらくクンクン臭いをかいでから、
あごをポンと、あみぐるみの上にのせました。
こちら、パンク最上級の親愛の行為なのです。 |
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