山下 |
あ、家の中にしまってるんですね。 |
竹嶋 |
ええ、最近はぜんぜん乗っていなくて、
もう2年以上ここに飾ってるだけなんです。 |
イラストを描いたり立体作品をつくったり、
それが竹嶋浩二さんのお仕事です。
僕が竹嶋さんの作品に初めて出会ったのは、
引田ターセンさんのギャラリーでした。
そこで竹嶋作品に触れてから僕は、
「あれをつくったり描いたりした人は
ぜったいカワイイもの好きに違いない」
ずっと、そう思い続けていたのです。 |
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山下 |
日本の自転車ではないですよね。
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竹嶋 |
ええ、ヨーロッパの古いツーリング車です。 |
山下 |
ヨーロッパものですか。 |
竹嶋 |
こっちの2台がイギリスで、
その下にあるやつはフランス製ですね。 |
山下 |
これがフランス‥‥あれ? |
竹嶋 |
なにか? |
山下 |
このフランスの、椅子がふたつです。 |
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竹嶋 |
ええ、はい、サドルふたつ。
タンデムシートですね。 |
山下 |
‥‥あの竹嶋さん、
お願いが、あるのですが‥‥‥‥。 |
平日の昼下がり、
湖畔の静かな住宅地に
男ふたりの声が響きます。 |
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竹嶋 |
いきますよ、せえのお‥‥。 |
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山下 |
あ、わわわわわ。ば、バランスが‥‥。 |
竹嶋 |
もっと強く踏み込んでください! |
山下 |
どうにも、グラグラして、わわわ‥‥。 |
竹嶋 |
(ブレーキ)まだ不安定ですね。 |
山下 |
あの、僕いっかい降ります。(降りる) |
竹嶋 |
え? どうかしました?(降りる) |
山下 |
そういえば自転車の全体像を撮ってなくて‥
一枚いいですか? 失礼します。(撮る) |
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竹嶋 |
‥‥‥‥あの、山下さん。
やはり片手にカメラを持っているから
うまくいかないんだと思うんです。
両手でしっかりハンドルを握らないと。 |
山下 |
はい。 |
竹嶋 |
それに、危ないですし。 |
山下 |
‥‥すみません。(カメラをポケットに) |
竹嶋 |
じゃあ、(乗る)も一度、いきますか。 |
山下 |
はい、(乗る)お願いします。 |
竹嶋 |
せえのお‥‥。 |
山下 |
よいしょ。‥‥‥‥あ!
ほんとだ、すごく安定します! |
竹嶋 |
じゃ、そこを左に曲がりますよ。
一緒に体重を傾けてください。 |
山下 |
はい‥‥。 |
竹嶋 |
‥‥いいです、その調子です。 |
山下 |
ははははは、これは爽快ですねえ。 |
竹嶋 |
感覚つかめました? |
山下 |
はい、もうかなり安定してます。
(よし、気づかれないよう一枚だけ‥‥) |
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竹嶋 |
山下さん、 |
山下 |
は、はい!(カメラしまう) |
竹嶋 |
タンデムシートのいいところはですね、
こうして会話をしながら乗れることなんです。 |
山下 |
そ、そうですね、声が近いです。
自転車2台で走っていると、
相手の声が聞こえなくなったりしますものね。 |
竹嶋 |
そう、これ一体感あるでしょ? |
山下 |
はい、とても。
で、あの、これからどこへ行きましょう。 |
竹嶋 |
どこへでも。 |
山下 |
どこへでも! いいですねえ!
では、せっかく相模湖に来たので
水ぎわに行きたいです。 |
竹嶋 |
わかりました、上流の川原に行きましょう。 |
山下 |
そうだ! そこでお話もきかせてください! |
竹嶋 |
了解です。
‥‥さ、ここから登り坂、きついですよ。 |
山下 |
はい。‥‥‥やや、こ、これは、また。 |
竹嶋 |
大丈夫ですか。 |
山下 |
‥‥ホント、運動不足なもんで、ふうはあ。 |
竹嶋 |
‥‥降りて引いていきましょうか。 |
山下 |
いえ降りません! はあはあ。 |
竹嶋 |
(笑)がんばって、もう少し。 |
山下 |
はあはあ、はあはあ、はあはあ‥‥。 |
竹嶋 |
‥‥よしと(ブレーキ)。ここが峠ですね。 |
山下 |
はあはあ(降りる)はあはあ‥‥やった! |
竹嶋 |
ふー、(降りる)きつかったですね。 |
山下 |
ええ‥‥はあはあ(振り返り)
この坂を、はあはあ、登って、はあはあ、
きたんですね。写真撮っておこう。 |
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右がカメラを構える僕、左が竹嶋さん。 |
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竹嶋 |
はい、水どうぞ。回し飲みですけど。 |
山下 |
やあ、これはこれは、ありがたい。 |
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山下 |
(飲む)‥‥ああー、おいしいっ!! |
竹嶋 |
(笑)ひと息ついたら川原へおりますよ。
自転車、持っていったほうがいいですよね。 |
山下 |
ぜひ、川原で自転車の写真を‥‥。 |
重たい自転車を連れて、僕たちは
けっこう険しい山道をくだります。
途中、自転車を引いて進めない場所が
わりとたくさんあったりして、
そこはふたりで「よいしょ」とかついで。
ぜえぜえ言いつつ、なんとか川原に到着。 |
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山下 |
‥‥‥‥では、あらためまして、
自転車についてきかせていただけますか。 |
竹嶋 |
はい、まあ、こういうヨーロッパのですね、
古い自転車が好きなんですよ。 |
山下 |
スポーツ車ではないですよね。 |
竹嶋 |
そう、ゆったり乗れる実用自転車ですね。
競技用じゃないので軽量化されてないんです。 |
山下 |
重かったです(笑)、フランスくん。 |
竹嶋 |
あ、そうそう、ほらここ、
ボルドー(BORDEAUX)って書いてるでしょ。 |
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山下 |
あ、ワインの?
ボルドー地方でつくられたんですかね。 |
竹嶋 |
ええ、おそらくは。 |
山下 |
それは、いつごろ? |
竹嶋 |
たぶん1940年代ですね。 |
山下 |
そんなに‥‥。よくちゃんと動いてますね。 |
竹嶋 |
骨董屋で買ったときはボロボロでしたよ。
それをリストアするんです。 |
山下 |
ああ、手がかかってるんですねえ。 |
竹嶋 |
そう、なにしろ古い物ですから
パーツひとつ探すのも大変で‥‥。
ほら、ライトも、これガラスですよ。
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山下 |
ほおんとだ。 |
竹嶋 |
ここなんか、アルミの部品がないから
給食のお盆を切ってくっつけて直しました。 |
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山下 |
はあ~、すごい、すごいなあ。 |
竹嶋 |
前が2段、後ろが3段ギア、
ブレーキはドラムブレーキなんですね。 |
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山下 |
最近の自転車とは違いますか。 |
竹嶋 |
そう、まったく違ってて‥‥。
あの‥‥話がマニア向けすぎます? |
山下 |
いえいえ、たのしくうかがえてます。 |
竹嶋 |
そうですか。 |
山下 |
僕は、この泥よけが好きです。かわいい。 |
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竹嶋 |
そうでしょお? それとですね‥‥。
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古くておしゃれな自転車のお話を
しばらく僕はうかがいました。
やがて、川原風で体が冷えた僕らは
来た道を戻ることに。
なんと! 帰りの下り坂は
山下が前を運転させてもらいました! |
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山下 |
わあああああああ、きっもちいいなあ、
前に乗ると風が直接ぶつかってきます! |
竹嶋 |
も、もうすこしブレーキかけませんか。 |
山下 |
お、坂が終りますね。それじゃあ‥‥。 |
竹嶋 |
あ、いいです、ギアは変えなくていいです。 |
山下 |
ここは軽くしたほうが(ガチャガチャ)。 |
竹嶋 |
無理にやると壊れますから。
‥‥‥‥あ、こんにちは、先日はどうも。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥いまの方は? |
竹嶋 |
ご近所さんです。 |
山下 |
‥‥あの。‥‥ふと、思ったんですけど。 |
竹嶋 |
はい。 |
山下 |
僕たち、これ
どういう関係に見えるんでしょうね。 |
竹嶋 |
うーん‥‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
竹嶋 |
‥‥‥‥‥‥‥ともだち?
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