山下 |
(笑)お、おもしろい形ですねえ。
‥‥と、とりあえず、おすしを。 |
小久保 |
おすし‥‥。
らんちで、よろしいですか。 |
山下 |
は、はい、それでお願いします。 |
山下哲は、緊張しています。
おすしやのご主人への取材‥‥。
小久保さんは思っていたほど
強面の方ではないけれど、
それでもやっぱり
職人さんは雰囲気が違います。
おすしが出てきました。
緊張してても、おいしい‥‥。
やがて、お昼の繁盛時は過ぎ、
店内は、僕と小久保さんの
ふたりっきりに‥‥‥‥。
とにかく、この、堅い空気を
僕はなんとかしなければ!
‥‥怒られたりするかな‥‥
ままよ!
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山下 |
小久保さん。 |
小久保 |
はい、なんでしょう。 |
山下 |
握っていただきたいのですが。 |
小久保 |
なに握りましょう。 |
山下 |
その、小久保さんがですね、
いちばんかわいいと思うネタを。 |
小久保 |
‥‥は? かわいい、ですか。 |
山下 |
‥‥はい。 |
小久保 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥わかりました。 |
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山下 |
(怒られなかった!) |
小久保 |
‥‥‥‥これで、どうですかね。 |
山下 |
あ‥‥わあ、こはだ、ですか。 |
小久保 |
姿かたちがね、そういう感じでしょ? |
山下 |
はい! ありがとうございます!
記念に写真を‥‥ |
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山下 |
手乗りこはだ。 |
小久保 |
ははははは。 |
山下 |
(やさしい人だ!
小久保さんはやさしい人だ!) |
小久保 |
(笑)ちゃんと食べてくださいよ。 |
山下 |
もちろんです。
で、あの、小久保さん、本題なんですが。 |
小久保 |
あ、はいはい。 |
山下 |
この、お店の中にある
すごいきれいなガラスのものがぜんぶ、
アールヌーボーなんですね。 |
小久保 |
ええ、そうです。 |
山下 |
そうですかあ‥‥。まず、このランプ、
これはどういう? |
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小久保 |
はい、それは、ガレの作品です。 |
山下 |
ガレ‥‥はい、聞いたことあります。 |
小久保 |
いちばん有名ですよね。 |
山下 |
あの、小久保さんは、どういうきっかけで
アールヌーボーに出会ったんです? |
小久保 |
たまたま骨董屋さんでみかけたんですよ。 |
山下 |
それはいつごろ? |
小久保 |
あれは何年前でしたか‥‥
もう30年くらい経ちますかねえ。 |
山下 |
そんなに前ですか。
小久保さんまだ20代ですね。 |
小久保 |
ええ、すしやに勤め始めたばかりのころです。 |
山下 |
そのころ、骨董屋さんで、
これだ! と思った。 |
小久保 |
そうです。なんって、こう、美しいだろう、
きれいだろうって‥‥
カルチャーショックを受けたんです。 |
山下 |
きれいですよねえ。 |
小久保 |
はい。それで、お店の人に聞いてみたら、
フランスのアールヌーボーっていって
19世紀の終りから20年くらいの間に
つくられたものだっていうじゃないですか。 |
山下 |
はいはい。 |
小久保 |
いいなあ! って、思うわけですよ。
でも値段をみると、これが高くて、
とても手の届くもんじゃないんです。 |
山下 |
まだ20代だし。 |
小久保 |
そうです、あこがれですよ。
それで、それからほんとうに少しずつ
長いことかけてお金を貯めては、
そういう小さいのから買ったんですね。 |
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山下 |
これも、ガレ? |
小久保 |
いや、それはガレではなくて、
ドームという作家のものです。 |
山下 |
こちらは? |
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小久保 |
ミューラーです。 |
山下 |
こういうのを何年もかけて‥‥。 |
小久保 |
ぽつぽつと、買っていきまして‥‥。 |
山下 |
現在に至る。 |
小久保 |
はい。 |
山下 |
そうですかあ‥‥。
奥様も、やっぱりお好きなんですか? |
小久保 |
かみさんですか? ええ、
かみさんも、こういうものは好きです。
でも、文句は言いますよね。 |
山下 |
あ、言われちゃいますか。 |
小久保 |
好きなことは好きなんだけど、
でも、ここまでやる必要はないって言います。 |
山下 |
はははは。 |
小久保 |
でもね、カウンターだけの狭い店だし、
いちんちじゅうそこで働いてるわけだし、
僕はきれいなもんを並べていたいんです。
やっぱし、気分よく仕事ができますよ。 |
山下 |
ほんと、きれいなものいっぱいですよねえ。 |
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小久保 |
ありがとうございます。 |
山下 |
とくに、このガレとかミューラー‥‥。 |
小久保 |
いいでしょお。 |
山下 |
ええ。 |
小久保 |
そう、いいんです、いいんだよなあ‥‥。 |
山下 |
いちばんのポイントはどこでしょう。 |
小久保 |
光、ですね。 |
山下 |
光ですか。 |
小久保 |
ほら、みてください。 |
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山下 |
ああ、それもきれいですねえ。 |
小久保 |
幾重にも重なったガラスの、この光。
‥‥よし、もっとみえやすくしましょう。
山下さんちょっと待っててください。 |
山下 |
あれ? 小久保さんどこへ? |
小久保 |
いま、いくつか、あかりをおとします。 |
山下 |
え? あ、はい。 |
小久保 |
いいですか、いきますよー。 |
山下 |
はい。 |
小久保 |
そら(パチン)。 |
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山下 |
‥‥‥‥わあ。 |
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山下 |
わあああ‥‥。 |
小久保 |
ね、この光なんですよ。 |
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山下 |
はい、もう、ああ‥‥。 |
小久保 |
なんともいえないでしょ。 |
山下 |
電気なのにロウソクの灯みたいですね。 |
小久保 |
そう、やわらかいんですよ。 |
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山下 |
やさしいかんじもするし‥‥
ケーキのロウソクを思いだしました。 |
小久保 |
ああ、はい、そうですねえ。 |
山下 |
お誕生会みたいだ。 |
小久保 |
え? ‥‥はははははは。 |