山下 |
‥‥‥‥こ、これは。
し、渋いです。 |
島沢 |
ここまでにするのはさ、
もう、たいへんなことなんだよ。 |
山下 |
そうなんですか‥‥。 |
島沢 |
ちょっとやそっと、こすったくらいじゃ、
このつやは出ないんだから。 |
島沢さんのお仕事は、タクシーの運転手さん。
お子様が独立されてからは、
府中で一人暮らしをなさっている
コールドパーマがとてもお似合いの63歳です。
この日はお仕事がお休みとあって、
なじみのカフェに僕を案内してくださいました。
さて、店内のギャラリーを堪能した
僕たちふたり、テーブルでゆっくり
ホットなコーヒーをいただいております。 |
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山下 |
こちらのお店‥‥ええと、お店の名前は‥‥。 |
島沢 |
「流木カフェ」。 |
山下 |
ん? 「ネイチャークラフトガーデン」と
メニューに書いてありますが‥‥。 |
島沢 |
あ(笑)、そういう名前なんだ。
いやあ、流木がいっぱいあるからさ、
勝手に「流木カフェ」って呼んでたよ(笑)。 |
山下 |
たしかに、山のようにありますよね。
その、窓のそと。すごいなあ。 |
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島沢 |
あっちのさ、裏っかわにもあるよ。 |
山下 |
え? あっちにも。 |
島沢 |
うん、あるよ。見にいく? |
山下 |
はい、ぜひ。 |
島沢 |
じゃあ、コーヒー飲んじゃおうか。 |
コーヒーを飲み干し席を立ち、
僕たちふたりはカフェのお庭へ向かいました。
‥‥なるほど。
広い敷地のそこにもここにも、
個性豊かな流木たちが、
ズラリときれいに並んでいます。 |
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山下 |
(歩きつつ)島沢さん、ここへは
よくいらっしゃるのですか? |
島沢 |
うん。 |
山下 |
それはやはり流木を見に。 |
島沢 |
それもあるけどさ、
やっぱ癒されるよな、こういうとこくると。 |
山下 |
ああ、はい。 |
島沢 |
いい流木がないか探したりしてさ。
‥‥これ、好きなのをレジに持ってくと
値段つけて売ってくれるんだよ。 |
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山下 |
そうなんですか。
‥‥流木は昔からお好きで? |
島沢 |
うん、昔ね、京都の山に住んでてね、
川で流木を拾ってきたのが最初。 |
山下 |
それを磨くわけですよね。 |
島沢 |
そう。これは俺のやりかただけどさ、
トーチランプの炎であぶって、
ワイヤブラシで削っちゃう。
それを何回も繰り返すの。 |
山下 |
燃えてしまわないのですか。 |
島沢 |
いい流木はさ、ぜんぶは燃えないんだよ。
最後に芯だけが残るの。 |
山下 |
どういうのが、いい流木なんでしょう。 |
島沢 |
ええとね、芯が残るいいやつは(探す)‥‥、
いぼいぼが、こぶしなんだな。 |
山下 |
え? いぼいぼが、こぶし? |
島沢 |
うん、いぼいぼが、こぶし。
‥‥あったあった、
ほら、こういうの(持ち上げる)。 |
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山下 |
あ、つまり根っこのことですか。 |
島沢 |
そうそう、根っこの、いぼいぼのところ。
ここにはもう、木の命がさ、
こぶしみたいにギュッと詰まってるんだよ。
だから燃えないよ。かならず芯が残るの。 |
山下 |
さっきギャラリーで見たやつみたいに。 |
島沢 |
そう。俺も立派なのつくったんだよ。
こおんなでかいの。手間ひまかけてさ。 |
山下 |
時間をかけて‥‥。
なるほど、それは愛着がわきますよねえ。 |
僕らは再び店内へ。
なかで販売している観葉植物や雑貨たちを、
島沢さんのたのしい案内で、
ひとつひとつ見て歩くのでした。 |
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山下 |
あ! こ、これは‥‥。 |
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島沢 |
これな、おもしろいだろ(笑)。 |
山下 |
は、はい‥‥(ど、動眼!)
流木に、ねんどをくっつけてますね。 |
島沢 |
そうそう、おもしろいんだよそういうのも。 |
山下 |
こんなものも‥‥。 |
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島沢 |
ははははは。
この流木、ほんとに馬の顔にみえるな! |
山下 |
はい(また動眼!)。
‥‥ん? 島沢さん、これ。 |
|
島沢 |
ああ、やってるんだよ体験教室。 |
山下 |
‥‥やってるんですか。 |
当然の成り行きで、僕らふたりは
「流木ねんど教室」の授業を受けることに。
親子での参加が大半とのことでしたが、
それは気にしなくていいと思いました。
教えてくださる先生は、
柴田弘さん(57)。
ボーダー柄のシャツが素敵なおじさんです。
先生のご指導で、まずは各自、
好きな流木を拾ってまいりました。
山下はこんな↓ものを、
島沢さんはこのような↓ものを。
さあ、たのしい授業のはじまりです。 |
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先生 |
お教えすることは実に簡単でして。
まずこうして紙ねんどに絵の具を混ぜまず。 |
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ふたり |
はい。 |
先生 |
よく混ぜて色がつきましたら、
好きな形にととのえてボンドで流木につける。
こんな具合ですね。 |
|
ふたり |
はい。 |
先生 |
とまあ、お教えすることは以上です。 |
島沢 |
‥‥せ、先生、質問(挙手)。 |
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先生 |
はい、なんでしょう。 |
島沢 |
お手本を見せてはいただけないのでしょうか。 |
先生 |
‥‥それをしますと、みなさんどうしても
真似をなさってしまわれますので‥‥。
やはり自由がよろしいかと‥‥。 |
島沢 |
‥‥わ、わかりました(ダメージ小の様子)。 |
山下 |
先生、僕も質問いいですか。 |
先生 |
ええ、どうぞ。 |
山下 |
動眼はないのでしょうか。 |
先生 |
え? |
山下 |
あ、あのほら、
キョロキョロ動く目玉のことです。 |
先生 |
ああ、はいはい動眼。
‥‥ごめんなさい、きょうはないんですよ。 |
山下 |
‥‥わ、わかりました(ダメージ大)。
ここはひとつ、ねんどのみでやりきります! |
先生 |
がんばって(素敵に笑う)。それでは
流木ねんどをお楽しみください(素敵に去る)。 |
広い店内の作業テーブルで、
山下と島沢さん(合計年齢105歳)は、
黙々と、ねんど細工に取り組みます。
‥‥約30分後。 |
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島沢 |
‥‥お、山下くん、できたじゃない。 |
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山下 |
「山登りをする子供」。 |
島沢 |
やっぱ、あなたはすばらしいな。
センスがいいんだわ。 |
山下 |
いやいや、必死なだけですよ。
‥‥花を取ろうとしてるんです、この子。 |
島沢 |
高嶺の花だ。 |
山下 |
そうそうそう! テーマはそれです! |
島沢 |
でも、手が届くよな、これ。 |
|
山下 |
あ、そういえばそうですね。 |
島沢 |
手が届くっていうのがいいよ。
届かねぇんじゃつまんねぇもん。 |
山下 |
すばらしい解釈、ありがとうございます。
‥‥ところで、島沢さんのもできてますね。 |
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島沢 |
へび。 |
山下 |
やっぱり! へびだと思った! |
島沢 |
しっぽが、ネズミだよな(笑)。 |
山下 |
いやいや、へびです! |
島沢 |
へび年生まれだからさ、そうしたの。
でもこれ見えるかね、へびに。 |
と、そこへひとりの子供がやってきました。
たぶん小学1年生くらいの男の子です。 |
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子供 |
あ、おとながねんどやってる。 |
島沢 |
ちょっと、ぼく、こっちきてごらん。
あのさ、これ、なんにみえる? |
子供 |
え〜、これ〜? |
|
島沢 |
そう、なんにみえるかなあ? |
子供 |
ええとね‥‥。 |
島沢 |
うん。 |
子供 |
‥‥とけが。 |
島沢 |
え? |
山下 |
とけが? ‥‥あ、ああ、とかげ(笑)。 |
島沢 |
(笑)これね、へびなの。 |
子供 |
ええ〜、へびじゃないよ〜(笑)。 |
島沢 |
じゃあ、それ(山下作品)は?
なにかな? オバQかな? |
子供 |
木のぼりしてる、おっちゃん! |
山下 |
ははは、だいたい当たってる! |
子供 |
‥‥とかげ、へんなの〜。 |
島沢 |
は、はははは‥‥。 |
山下 |
‥‥そ、そんなに、へんじゃないでしょ? |
子供 |
へんだよ〜、ぜったい、へん! |
山下 |
‥‥‥‥さ、ぼく、
木のぼりしてる人形をあげるから、
おうちでお母さんと一緒につくりなよ。
ね、ほら、ねんどもあげるから。 |
子供 |
くれるの? |
山下 |
うん、だからさ‥‥。 |
子供 |
じゃあ、とかげがほしい。 |
山下 |
え? ‥‥木のぼりじゃなくて? |
子供 |
うん、とかげ。 |
島沢 |
‥‥お、おう。いいよ、ほら、持ってきな。 |
子供 |
ありがと!(受け取り、走り去る) |
山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
理解できるものと、ほしいものっていうのは、
これ、まったく、別なのですねえ‥‥。
島沢さん、まいりました、僕の完敗です!
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島沢 |
(笑)なんだよ、やめなよ。 |
山下 |
本日は、ありがとうございました! |
こうして、 ねんどを介して流木と
たっぷり触れ合った僕は、
もう一度ギャラリーに向かい
あの作品を手にしてみるのでありました。
いぼいぼの、こぶしを。
「理解するのではない、感じるんだ!」
そう自分に言い聞かせながら。
‥‥‥‥‥‥‥‥ん? んんん!?
「流木よ、僕はすこし、
ほんのすこしかもしれないけれど、
お前のことがわかったと思うぞ」
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