馬 |
ぶるるるるるる!
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山下 |
わ! び、びっくりしたあ!
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小林 |
ははははは。
ね、かっわいいでしょお?
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山下 |
か、考えてみれば、こんなに至近距離で
馬を見るのははじめてなんです。
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小林 |
どうですか? ご感想は。
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山下 |
いのちがみなぎっている感じです。
まるでエンジンのようです。
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小林拓生さん(既婚)は、
舞台演出のお仕事をなさっている38才です。
そんな小林さんに、ある日電話で
かわいいものをたずねてみましたら、
「馬! すばらしくカワイイ!」とのこと。
さらに、
「乗ればさらにかわいく思える!」
とも、おっしゃいました。
‥‥乗馬体験、やらない手はありません!
こうして僕は、小林さんの案内で
川崎市の乗馬クラブ「サンヨーガーデン」を
訪れたのでありました。
厩舎(きゅうしゃ=馬を飼う場所)を出た
僕らは、隣接する乗馬場へと向かいます。
馬場の状態を確認しに。
重い足取りで‥‥。
たのしい場所へ向かうのに、とぼとぼ‥‥。
重い足取りの理由はこちら、
この日の乗馬場の様子をご覧ください。 |
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小林 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
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山下 |
‥‥‥‥まさか雪になるとは。
やっぱり乗れませんよね。
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小林 |
‥‥小雨くらいなら乗れるのですが。
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山下 |
指導員のかたは、なんと?
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小林 |
‥‥きょうは無理だそうです。
クラブハウスも閉めていました。
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山下 |
そうですか、残念です‥‥。
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小林 |
‥‥ほんとに残念です。
きょうは、ぜひ、山下さんに、
ぜひ、乗馬を体験してもらいたかったのに。
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山下 |
でも小林さん、乗れなくても
馬との触れ合いはできますから‥‥。
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小林 |
はい。‥‥ですがやっぱり、乗ってわかる
かわいさがあるんです。すばらしいんです。
ぜひ、ぜひ乗ってもらいたかったです‥‥。
ずっとたのしみにしてたのに‥‥。
きょうは朝から何度もここの様子を
みにきていたのです。でも‥‥
ぜんぜん雪が降りやまなくて‥‥。
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山下 |
小林さん‥‥。
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それから僕らは自動販売機で
ホットレモンジュースを買い、
気を取り直して厩舎へと戻りました。
せめて、馬とたのしく触れ合うために。 |
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山下 |
わあ、すごいですね。
ここには、これ何頭いるんですか?
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小林 |
たしか、40頭くらいだったかと。
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山下 |
そんなに‥‥。
あ、みんなお洋服を着ています。
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小林 |
きょうは寒いですから‥‥。
(馬に)おーい、
ごはんを食べてるのかーい。
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山下 |
‥‥そうか、ちょうどお昼ごはんの
時間なんですね。ああ、食べてますねえ。
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小林 |
(馬に)いい子だいい子だ。
あとでニンジンを持ってくるからなー。
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馬 |
ばるっ! ばるるるるるるっ!!
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山下 |
‥‥こ、小林さん。な、なんか馬たち、
ちょっと気が立っているのでは‥‥。
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小林 |
ごはんを食べてますから、
邪魔されたくないのでしょう(笑)。
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山下 |
‥‥正直なところ、すこし怖いです。
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小林 |
大丈夫ですよ、草食動物ですから。
いまはちょっと警戒していますけど。
あとでニンジンを持ってきましょう。
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山下 |
わわわ、首をつきだしてきました!
小林さんのジュースを狙ってますよ!
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小林 |
(馬に)なんですか。ちょっと待ってて。
ね、あとでニンジンを持ってくるから。
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馬 |
(ジュースの匂いをかぐ)。
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小林 |
(やさしく)これはニンジンではありません。
これは、ぽかぽかレモンです。
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馬 |
(ジュースの匂いをかぐ)。
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小林 |
(やさしく)だめです。
これは、ぽかぽかレモンなんです。
あとでニンジンを持ってくるから、ね。
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山下 |
‥‥あ、おとなしくなりました。
僕も触れ合ってみます(手をのばす)。
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馬 |
ばるるるる!
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山下 |
うわあっ!
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馬 |
かぷっ!!
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山下 |
わあああ!!
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小林 |
山下さん! 噛まれましたか!?
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山下 |
い、いえ、間一髪でまぬがれました。
‥‥か、噛むのですね。
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小林 |
噛みます、急に手を出したりすると。
ニンジンがあればべつですが。
最初からニンジンを持ってればよかったです。
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山下 |
‥‥ちゃんとここに書いてますね。
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小林 |
とにかく、ニンジンを持ってきましょう!
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小林さんがニンジンを連呼されるので、
僕たちはクラブハウスに向かい、
カゴにいっぱいのニンジンを
わけていただきました。
このようなものです。

そして再度、厩舎へ。 |
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小林 |
こうやってですね、手のひらに乗せて
食べさせれば噛まれませんから、ほら。
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山下 |
‥‥す、すごいですね、ニンジンの効果は。
小林さんが何度もニンジンニンジンと
おっしゃるのはなぜかと思っていたのですが、
なるほど、たいへんな効き目ですね。
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小林 |
大好きなんですよ。
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山下 |
馬のニンジン好きはもちろん知ってました。
でも、こんなにも好きだとは‥‥。
各馬いっせいにおとなしくなりました。
魔法のアイテムを手にしたようです。
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小林 |
さ、山下さんもあげてみてくださいよ。
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山下 |
は、はい。では‥‥。
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馬 |
ばふ。かりこりかりこり‥‥。
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山下 |
ひゃあー。こ、これは、
なんともいえない感触です!
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小林 |
どうです!?
エサをあげるとまたちがうでしょ?
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山下 |
は、はい、ちがいますね。
急に親近感が生まれました。
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小林 |
でしょお? 乗ればもっとすごいんです。
ああ、ぜひ乗ってもらいたかった。
ぜひ‥‥あ。そうだ、そうそう!
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山下 |
なんでしょう?
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小林 |
ぜひ、山下さんを連れていきたかった
蕎麦屋があるんですよ。
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山下 |
お蕎麦屋さん?
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小林 |
これがもう、すばらしいんです!
ぜひ、食べてもらいたい。
ちょうどお昼ですし、行きましょう。
すぐそこですから。
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山下 |
わかりました。
ではそこでもうすこし
馬のお話を聞かせてください。
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雪の坂道をのぼること約10分。
お蕎麦屋さんが見えてきました。
「あそこです!」と元気に駆けていく小林さん。
僕はころばないように、それでも急いで
お店の前にたどりつきました。

‥‥テーマからずれてしまうので、
お蕎麦に関する小林さんの落胆ぶりは
省略させていただきます。
雪の坂道をくだる空腹の男ふたり。
歩きながらお話をうかがうことにしました。 |
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山下 |
小林さんはいつごろから乗馬を?
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小林 |
この近所に引っ越してきたのが
7年ほど前ですから、それからですね。
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山下 |
では「サンヨーガーデン」がはじめてで。
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小林 |
たまたまのぞいてみたら体験乗馬ができると
書いてあって、それでやってみたんです。
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山下 |
そうですか。
これまでに何回くらい乗っているのですか?
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小林 |
3回です。
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山下 |
え? 3回?
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小林 |
はい、3回乗りました。
きょうで4回目になるはずでした。
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山下 |
‥‥そうですか。
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小林 |
‥‥乗馬が趣味とは言えませんよね。
ですから‥‥こんな私のお話で、
果たしてよかったのでしょうか‥‥。
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山下 |
そ、それはもう。
だって馬がかわいいわけですよね?
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小林 |
カワイイです! あの美しさ、つぶらな瞳!
乗ったのは3回ですが、
もう何度厩舎に通ったことか。
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山下 |
ああ、何度も通われてるんですね。
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小林 |
休みの日に天気がいいと、自転車で
ふらっと来て、ニンジンをあげたり
ぼーっと馬をながめたりしてるんです。
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山下 |
なるほどお、乗馬というと、道具もいるし
本格的に取り組む趣味というイメージが
ありましたが、馬をかわいがるだけならば
あんなに気軽にできるのですよね。
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小林 |
そう! 特別なことではないのですよ。
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山下 |
‥‥そうかあ、そうですよねえ。
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小林 |
‥‥あれ?(クラブハウスの方を見て)
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山下 |
どうしました?
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小林 |
馬が2頭、クラブハウスの前に
つながれています!(タタタ)
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山下 |
ほんとだ、厩舎から出てる(タタタ)。
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小林 |
(到着)‥‥外で見ると、またちがうでしょ。
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山下 |
(到着)はあはあ‥‥。ああ、みごとです。
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小林 |
どうですかこれ、白馬ですよ白馬。
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山下 |
ロードオブザリング!
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小林 |
え?
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山下 |
いや、その映画に白馬が出てたので‥‥。
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小林 |
ああ(笑)。
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山下 |
こっちの馬も、やさしい顔をしてますね。
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指導員 |
パセリっていう名前なんですよ。
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ふたり |
あ、どうも、お邪魔してます。
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指導員 |
お写真を撮るのでしたら、
服を脱がせましょうか?
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小林 |
ぜ、ぜひお願いします!
このパセリのからだの美しさを、
ぜひ山下さん、見てください。
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指導員 |
よいしょ(脱がす)。
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山下 |
わあああ、きれいですねえ‥‥。
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小林 |
でしょお?
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山下 |
はい! いやあ、圧倒的です。
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指導員 |
(小林さんに)引き綱を持ってみますか?
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小林 |
はい、ぜひ! こうですよね(持つ)。
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山下 |
(笑)小林さん、最高の笑顔ですよっ!
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小林 |
ありがとうございます!
でも私が体験するんじゃしょうがないですね、
山下さんに持ってもらわなくちゃ。
さ、こっちきて、ぜひ綱を持ってくださいよ。
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山下 |
わかりました(そっと歩み寄り、綱を持つ)。
うわあ、こ、こんな近くで‥‥。
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パセリ |
ふー、ふー、ふー。
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山下 |
‥‥息づかいが聞こえます。
ああ‥‥ほんとにつぶらな目だなあ。
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小林 |
ね、そうでしょお?
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山下 |
(指導員さんに)なでてもいいでしょうか?
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指導員 |
ええ、首のあたりをやさしく。
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山下 |
はい‥‥(なでる)。
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小林 |
どうです?
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山下 |
(なでながら)‥‥小林さん、
きょうはあいにくの雪で
乗ることはできませんでしたが、
それでも僕、わかりました。
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小林 |
そうですか(笑)。
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山下 |
‥‥はい(なでながら)、わかりました。
馬は、馬はかわいいですねえ(なで続ける)。
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