川上 |
筒井康隆さんの『敵』は、
老いるということがテーマです。
これも人の手に負えないことですね。
自分ではどうしようもない。
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糸井 |
今回、川上さんが選ばれた本はすべて、
僕が挙げてもおかしくないんですよ。
川上さんが挙げてくださったラインナップを見て
あまりに重なっていたので、
すき間をねらおうと思って
選び直したんです。
筒井康隆さんも、はじめは重なっていました。
僕は筒井さんの本は、
ほんとうにたくさん読みました。
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川上 |
筒井さんは不思議な小説を書く方です。
それはシュールだとか、幻想的だとか、
空想的だとかいうだけの意味ではなくて、
何か変なんだな。それがよくて。
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糸井 |
書ける範囲をどこまで広げられるか
ということをさんざんやって、
さんざん成功してきた人です。
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川上 |
最近の問題作とか、
前衛的だと言われている作品を見ると、
でもこれ昔、どこかで見たぞと
つい思っちゃうんです。
そして、それは筒井さんの本だったぞ、と。
もちろんすごくオリジナルな本もあるんですけど。
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糸井 |
うん、うん。
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川上 |
筒井さんはしばらく断筆していらして、
その後、お書きになったのが
この『敵』だったと思います。
筒井さんは、実験的なにぎやかなものをたくさん
書いていらっしゃるんですが、
この作品はとても静かな作品です。
そしてまた、わざと
書き割りのような感じで書いていらっしゃる。
人工的な中から、どうやって
生な何かを立ちのぼらせるか、
ということをやっていらっしゃるのではないか。
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糸井 |
わざと書き割りのように書くということは、
いま、通り過ぎるわけにいかない
ひとつの技法ですね。
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川上 |
『敵』で老人の生活を書いたときに、
筒井さんが何かのインタビューで
こう答えていらした記憶があるんです。
“私は老人小説を書きたいと
ずっと思っていた。
これで書いた。
次にもうひとつだけ
老人小説を書きたいんだけど、
それはほんとにボケたときに書こうと思う”
逆説的な意味を含んではいるんですけど、
おもしろいなと思います。
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糸井 |
どうしてこの人は、
自分のやっていることを
いちいち解説できながら、
茶化したりできながら、
書けるんだろう。
裏表、裏表、いっぺんに考える人ですね。
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川上 |
5番目ぐらいの裏まで、
考えていますね。
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糸井 |
こういう人は
ほんとに成仏しないと思いますね(笑)。
実際にお会いすると、
すごく普通の、いい方なんです。
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川上 |
ものすごく紳士的な方ですね。
ほんとうに行き届いてらして
恐縮しちゃうくらいに。
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糸井 |
これが話をややこしくするんです。
「おまえ、失礼じゃないか」と
突然怒りそうなイメージがあるのに、
この紳士とあの筒井さんは一緒なのかよ!
ということで、混乱する。
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