第6回 筒井康隆という、不思議な存在。

川上 筒井康隆さんの『敵』は、
老いるということがテーマです。
これも人の手に負えないことですね。
自分ではどうしようもない。
糸井 今回、川上さんが選ばれた本はすべて、
僕が挙げてもおかしくないんですよ。
川上さんが挙げてくださったラインナップを見て
あまりに重なっていたので、
すき間をねらおうと思って
選び直したんです。
筒井康隆さんも、はじめは重なっていました。
僕は筒井さんの本は、
ほんとうにたくさん読みました。
川上 筒井さんは不思議な小説を書く方です。
それはシュールだとか、幻想的だとか、
空想的だとかいうだけの意味ではなくて、
何か変なんだな。それがよくて。
糸井 書ける範囲をどこまで広げられるか
ということをさんざんやって、
さんざん成功してきた人です。
川上 最近の問題作とか、
前衛的だと言われている作品を見ると、
でもこれ昔、どこかで見たぞと
つい思っちゃうんです。
そして、それは筒井さんの本だったぞ、と。
もちろんすごくオリジナルな本もあるんですけど。
糸井 うん、うん。
川上 筒井さんはしばらく断筆していらして、
その後、お書きになったのが
この『敵』だったと思います。
筒井さんは、実験的なにぎやかなものをたくさん
書いていらっしゃるんですが、
この作品はとても静かな作品です。
そしてまた、わざと
書き割りのような感じで書いていらっしゃる。
人工的な中から、どうやって
生な何かを立ちのぼらせるか、
ということをやっていらっしゃるのではないか。
糸井 わざと書き割りのように書くということは、
いま、通り過ぎるわけにいかない
ひとつの技法ですね。
川上 『敵』で老人の生活を書いたときに、
筒井さんが何かのインタビューで
こう答えていらした記憶があるんです。
“私は老人小説を書きたいと
 ずっと思っていた。
 これで書いた。
 次にもうひとつだけ
 老人小説を書きたいんだけど、
 それはほんとにボケたときに書こうと思う”
逆説的な意味を含んではいるんですけど、
おもしろいなと思います。
糸井 どうしてこの人は、
自分のやっていることを
いちいち解説できながら、
茶化したりできながら、
書けるんだろう。
裏表、裏表、いっぺんに考える人ですね。
川上 5番目ぐらいの裏まで、
考えていますね。
糸井 こういう人は
ほんとに成仏しないと思いますね(笑)。
実際にお会いすると、
すごく普通の、いい方なんです。
川上 ものすごく紳士的な方ですね。
ほんとうに行き届いてらして
恐縮しちゃうくらいに。
糸井 これが話をややこしくするんです。
「おまえ、失礼じゃないか」と
突然怒りそうなイメージがあるのに、
この紳士とあの筒井さんは一緒なのかよ!
ということで、混乱する。

(つづきます)

2006-01-23-MON
写真提供:活字文化推進会議
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