北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第7回 「本気」は恥ずかしい。

糸井 これは、『アキレスと亀』の感想でもあり、
北野映画全体の感想でもあるんだけど、
たけしさんの映画ってね、
いつも、真剣なやつが強いんですよ。
たけし ハハハハ。
糸井 良かろうが、悪かろうか、
力があろうが、なかろうが、
真剣なやつ、本気のやつが、
だいたい物事を通していくんですよ。
たけし ウン、ウン。
糸井 たとえば、
本気で誰かを殺そうとしてるやつと、
本気じゃなくて、
脅かしてるだけのやつでいうと、
北野映画のなかでは
必ず、本気のやつが勝つじゃないですか。
『アキレスと亀』の画家も、
ずっと売れないけど、
真剣さでは、負けないんですよ。
たけしさんはずーっとそれを描いてきてる。
たけし ハハハハハ。
糸井 たけしさんって、
「本気」ってことについて、
いつも考えてる人なんだなぁと思ったの。
単純に「本気」が好きなだけじゃなくて、
いつもそれについて考えてる。
たけしさん自身は、
自分で自分の「本気」について、
どう考えてるんですか。
たけし ウーン‥‥。けっきょく、
「本気になりたい」
という気持ちはあるんだろうけど、
本気になることの、なんか、危険さというか、
それを客観的に見られるときの
恥ずかしさがあるから。
糸井 ああ、うん、うん。
たけし 非常に恥ずかしいのね。
「あいつ、本気でやってるな」っていうのは。
見るほうはいいけど、自分がやって、
そういうの見られたときの
恥ずかしさっていうか。
あの、だから、たとえば、
食事するときって、
ふと本気になるときあるでしょ。
糸井 あるあるある。
食事は、ある意味で、
いちばん本気になりますよ。
たけし 目の前のご飯食べてて、
「うまいなぁ」と思った瞬間。
それを見られるのは、ツラいねぇ。
糸井 へぇーー、そうですか。
たけし ウン。セックス見られたのと
同じような恥ずかしさ。
糸井 セックスの恥ずかしさってのも、
本気さの裏返しですからね。
たけし 本気だからね。
ご飯食べるのも同じでさ。
ひとりで食べるのはいいけど、
誰かとおいしいものを食べてて
「あ、うまいな、これ」って思って、
あれ、オレ本気になってるの、バレたかな、
っていうのは、あるなァ。
糸井 人は誰でもそういうところが
どこかにあると思うんだけど、
たけしさんの場合は、
その「本気」について、
尊敬と軽蔑が、両方ありますよね。
たけし ウン。憧れもあるんだ。
糸井 そうですよね。
たけし 恥ずかしいっていうのもある。
よく、ああいうのできるなって。
糸井 たとえば、その、
いまパッと思いついちゃったんで
例として言うけど、
片岡鶴太郎さんが
ボクシングのセコンドについて
真剣に叫んでたりしますよね。
あれを、「コノヤロー」と
思う気持ちもあり‥‥。
たけし 「コノヤロー」でしょ(笑)。
「あちゃー」って思うよ。
糸井 でも「あれを本気でやれるんだぁ」
っていうのもあるわけでしょ。
それは本人しあわせだろうな、って思うし。
たけし そうそうそう(笑)。
だから、夢中になってる人を見ると、
その人はしあわせだと思うんだけど、
そのぶん、リスク背負うとも思うしね。
それを誰かに見られたらと思うと、
恥ずかしいよな、やっぱりオレは。
糸井 じゃあ、たけしさんは、自分自身では、
「本気は、したことがない」
ぐらいに思ってるんですか?
たけし ウン。
糸井 なのに、映画のなかには、
本気の人をいっぱい出すじゃないですか。
たけし アハハハハハ。
糸井 本気っていうか、プロっていうかさ。
「仕事だから」って言って、
静かに撃つような人とかさ。
あれ、本気ですよね。
たけし ウン、そう。
ああいうのは、オレ、撮ってる立場だから。
糸井 ああ、なるほどね。
たけし 映像にする側としては、なんていうんだろ、
「ライオンが食ってるところ」を撮るとしたら、
動物園でエサ食ってるようなところよりも、
本気で食ってるところを映像にしたいから。
じゃないと画にならないっていうか、
ウソ食いはイヤでしょ。
糸井 映像にするときは「本気」がよくて、
自分でやるときは「本気」が恥ずかしい。
たけし ウン。
(つづくぞ、コノヤロー)

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2008-09-29-MON


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