糸井 |
これは、『アキレスと亀』の感想でもあり、
北野映画全体の感想でもあるんだけど、
たけしさんの映画ってね、
いつも、真剣なやつが強いんですよ。 |
たけし |
ハハハハ。 |
糸井 |
良かろうが、悪かろうか、
力があろうが、なかろうが、
真剣なやつ、本気のやつが、
だいたい物事を通していくんですよ。 |
たけし |
ウン、ウン。 |
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糸井 |
たとえば、
本気で誰かを殺そうとしてるやつと、
本気じゃなくて、
脅かしてるだけのやつでいうと、
北野映画のなかでは
必ず、本気のやつが勝つじゃないですか。
『アキレスと亀』の画家も、
ずっと売れないけど、
真剣さでは、負けないんですよ。
たけしさんはずーっとそれを描いてきてる。 |
たけし |
ハハハハハ。 |
糸井 |
たけしさんって、
「本気」ってことについて、
いつも考えてる人なんだなぁと思ったの。
単純に「本気」が好きなだけじゃなくて、
いつもそれについて考えてる。
たけしさん自身は、
自分で自分の「本気」について、
どう考えてるんですか。 |
たけし |
ウーン‥‥。けっきょく、
「本気になりたい」
という気持ちはあるんだろうけど、
本気になることの、なんか、危険さというか、
それを客観的に見られるときの
恥ずかしさがあるから。 |
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糸井 |
ああ、うん、うん。 |
たけし |
非常に恥ずかしいのね。
「あいつ、本気でやってるな」っていうのは。
見るほうはいいけど、自分がやって、
そういうの見られたときの
恥ずかしさっていうか。
あの、だから、たとえば、
食事するときって、
ふと本気になるときあるでしょ。 |
糸井 |
あるあるある。
食事は、ある意味で、
いちばん本気になりますよ。 |
たけし |
目の前のご飯食べてて、
「うまいなぁ」と思った瞬間。
それを見られるのは、ツラいねぇ。 |
糸井 |
へぇーー、そうですか。 |
たけし |
ウン。セックス見られたのと
同じような恥ずかしさ。 |
糸井 |
セックスの恥ずかしさってのも、
本気さの裏返しですからね。 |
たけし |
本気だからね。
ご飯食べるのも同じでさ。
ひとりで食べるのはいいけど、
誰かとおいしいものを食べてて
「あ、うまいな、これ」って思って、
あれ、オレ本気になってるの、バレたかな、
っていうのは、あるなァ。 |
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糸井 |
人は誰でもそういうところが
どこかにあると思うんだけど、
たけしさんの場合は、
その「本気」について、
尊敬と軽蔑が、両方ありますよね。 |
たけし |
ウン。憧れもあるんだ。 |
糸井 |
そうですよね。 |
たけし |
恥ずかしいっていうのもある。
よく、ああいうのできるなって。 |
糸井 |
たとえば、その、
いまパッと思いついちゃったんで
例として言うけど、
片岡鶴太郎さんが
ボクシングのセコンドについて
真剣に叫んでたりしますよね。
あれを、「コノヤロー」と
思う気持ちもあり‥‥。 |
たけし |
「コノヤロー」でしょ(笑)。
「あちゃー」って思うよ。 |
糸井 |
でも「あれを本気でやれるんだぁ」
っていうのもあるわけでしょ。
それは本人しあわせだろうな、って思うし。 |
たけし |
そうそうそう(笑)。
だから、夢中になってる人を見ると、
その人はしあわせだと思うんだけど、
そのぶん、リスク背負うとも思うしね。
それを誰かに見られたらと思うと、
恥ずかしいよな、やっぱりオレは。 |
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糸井 |
じゃあ、たけしさんは、自分自身では、
「本気は、したことがない」
ぐらいに思ってるんですか? |
たけし |
ウン。 |
糸井 |
なのに、映画のなかには、
本気の人をいっぱい出すじゃないですか。 |
たけし |
アハハハハハ。 |
糸井 |
本気っていうか、プロっていうかさ。
「仕事だから」って言って、
静かに撃つような人とかさ。
あれ、本気ですよね。 |
たけし |
ウン、そう。
ああいうのは、オレ、撮ってる立場だから。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。 |
たけし |
映像にする側としては、なんていうんだろ、
「ライオンが食ってるところ」を撮るとしたら、
動物園でエサ食ってるようなところよりも、
本気で食ってるところを映像にしたいから。
じゃないと画にならないっていうか、
ウソ食いはイヤでしょ。 |
糸井 |
映像にするときは「本気」がよくて、
自分でやるときは「本気」が恥ずかしい。 |
たけし |
ウン。 |
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(つづくぞ、コノヤロー) |