インコ商会 |
「いらっしゃい」 |
鳥打帽を被り、パイプをくゆらせた店主が
にこやかに応える。
店内にはカゴが一つしかなく、インコも一羽しかいない。
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北小岩 |
「ここは小鳥屋さんではないのですか?」 |
インコ商会 |
「違います。
うちではインコをレンタルしているのです。
1泊2日で1万円。
それ以降は1泊につき1万円が
加算されていきます」 |
北小岩 |
「えっ?
なぜレンタルインコが
そんなに高いのですか?」 |
インコ商会 |
「うちのスーパーインコは
特殊な技能を持っています。
若い女性のあの時の声や
セリフだけを選別して記憶するのです。
おまけに記憶力が尋常ではありません」 |
小林 |
「ほほう、なるほどな。
つまりこのインコをうら若き女性にあずけて、
何日か後に返してもらえば、
インコが女性の生々しい声を
再現してくれるというこっちゃな」 |
インコ商会 |
「よくおわかりになりましたね。
女性の部屋に
盗聴器をしかけることは犯罪です。
でもこのレンタルインコなら、
捕まる心配なく女性のあられもない声が
楽しめるというわけです」 |
北小岩 |
「でも1泊1万円は高いですよね」 |
北小岩くんが同意を求めようと思って
小林先生の方を見ると、
すでに先生は財布から3万円を取り出していた。 |
小林 |
「それでは、3泊4日でお願いします」 |
小林先生は鼻の下を伸ばし、
鳥カゴをさげて家に帰ってきた。 |
小林 |
「隣のアパートに、
美しいOLはんが引っ越してきたやろ。
金曜日にあの娘にあずけるんや。
日曜日まで家を留守にするからといえば
だいじょぶやろ。
あのなまめかしい姿態や。
金、土、日のどれかに彼氏が来て
楽しまんわけはないやろな」 |
北小岩 |
「・・・・」 |
金曜日の朝、
北小岩くんがインコを連れてOLの家に行った。
最初は困惑した表情を浮かべていたが、
北小岩くんの熱心さに負けて
あずかってくれることになった。 |
小林 |
「でかしたぞ、北小岩!
ええか、今日から日曜まで
完璧に居留守するんや。
電気をつけたらあかん。
テレビも観てはあかん。
トイレも流すのは止めとこう」 |
こうして二人は、
日曜まで物音一つさせずに家の中で過ごした。
そして夕方、北小岩くんがインコを迎えに行った。 |
小林 |
「さて、どんなウハウハな声を
記憶してくれとるんやろな。
考えただけでも興奮してくるわ。
インコはん、ほないってみまひょ〜」 |
インコ |
『あ、あ〜ん、う〜ん』 |
小林 |
「えっ、ええやないか。
ほんまにリアルやな。
あのお嬢さん、あんなに清楚な顔をして、
こんなにいい声を出しとったんか。
えらく興奮してきたわ。
はっ、はよう続けい!」 |
インコ |
『だめ〜、僕、もうイッちゃいそう』 |
小林 |
「僕?」 |
インコ |
『僕、一人で先にイクからね。
あ〜〜〜〜〜〜〜〜!』 |
小林 |
「あかん!これは男の声や!!」 |
北小岩 |
「そういえば、
近頃大きなよがり声を上げる男が
増えていると聞いています」 |
小林 |
「そうや。
その上こいつはとんでもなく高い声で
よがりやがったんやな。
だから、インコが
女の声と間違えて記憶してしまった。
それにしても一人で先にイクとはどういうこっちゃ。
情けないにもほどがあるで。
それでも日本男児か、このどアホ〜〜!!!」 |
悔し紛れに怒りをぶちまける小林先生だったが、
インコは軽蔑した眼差しで先生を見下すと
男のセリフを続けた。 |
インコ |
『僕のよかった?
ねえ、よかった? よかった?』 |
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