北小岩 |
「先生、ちょっと気になることがあるのですが」 |
小林 |
「何や」 |
北小岩 |
「わたくしが学生の頃には、
臭い屁との衝撃の出会いがありました。
例えばデパートでエレベーターに乗る。
急いで降りてくるおじさんがいる。
ドアが閉まった瞬間、しまった!」 |
小林 |
「はは〜ん。
えらく臭い屁を
置き土産にされたというこっちゃな」 |
北小岩 |
「そうなんです。
その臭さといったら半端ではありませんでした。
『今、世界が終わった』。
そんな絶望感にさいなまれました」 |
|
小林 |
「俺も満員電車で
よくごっついやつをかまされたもんや。
人にぶつからないように必死で立っていると、
どこからともなくプ〜ン。
一瞬みんながあれ?という表情を浮かべる。
だがどう考えてもそれは屁や。
それも何を食ったら
これだけめちゃめちゃなもんが出るんか!
と叫びたくなるほどの超ド級や」 |
北小岩 |
「先生も経験がおありなのですね。
わたくし、エスカレーターでも
腐った屁が流れてきて、
それを胸の奥まで吸い込んで
肺をやられそうになったことがありました。
でも、近頃そこまで強烈な屁をかいだ
記憶がないのです。
もしかしたら、日本の屁が
弱くなっているのではないでしょうか」 |
小林 |
「う〜む。鋭い見解やな。
確かに日本の屁は、
今重大な局面を迎えているのかもしれん。
ここは一つ専門家の分析にゆだねねばならんで」 |
小林先生と弟子の北小岩くんは、
屁を専門に研究している下半身経済学者の
屁草嗅男(へくさかぎお)先生のもとを訪れた。
呼び鈴を押すとプ〜!という大きな音がして、
屁草氏が現れた。
『屁の用心』と書かれたうちわで
おしりを扇いでいる。 |
北小岩 |
「お忙しいところ大変申し訳ありません。
このところ人生に失望するほどの
臭い屁を嗅いだ記憶がございませんが、
もしかしたら屁に
一大事が起きているのかと思いまして・・・」 |
屁草 |
「へへへ。よく気がつきましたね。
確かに日本の屁は弱っています。
絶頂期はバブルの頃でしたね。
あの頃の屁は24時間異臭を放っていました。
しかし、バブルが崩壊すると
同時に屁も崩壊してしまったのです」 |
小林 |
「やっぱりそうでしたか。
屁力は経済と連動しているのですか」 |
屁草 |
「好況時ほど、臭い成分が増えます。
日本政府も弱体化に懸念を持ち、
『屁の公定歩合』の引き下げを行ないましたが、
政策が後手後手に回ってしまったため
未だに回復に至りません」 |
北小岩 |
「臭い素をたくさんの屁に入れ込むためには、
より一層の引き下げが必要なのですね」 |
屁草 |
「そうです。
今が一番屁にとってつらい時期なんです。
行きつくところまで行ってしまったために、
『屁のリストラ』も断行されています。
リストラされた屁は
最前線で人を臭がらせるチャンスを
失ってしまいます。
臭いを抜かれ、
ゲップに混ざって放出されてしまうのです」 |
小林 |
「屁は人を臭がらせてなんぼや。
それができないとなると、
ガスではなくてカスやな」 |
屁草 |
「海外でも日本の屁は頭痛の種です。
先日行なわれた先進国おなら会議でも、
各国首脳から槍玉にあげられていました。
格付け会社によれば、
日本の屁は現在先進国中最下位だそうです」 |
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小林 |
「それはあかんな。
外国に行った時、
飛行機で何度か外人の屁をかいだことがあるが、
彼らの屁はみょ〜な香水のように
まぬけな臭いやった。
日本人の屁の方が密度が濃く、
より多くのダメージを相手にあたえられると
優越感を覚えたもんや。
にぎりっ屁で真剣勝負したら
負けるわけがないと思ったが、
それもいまでは過去の話なんやな」 |
北小岩 |
「これからはもう、
政府にたよっていてはいけませんね。
国民一人一人が自覚を持って、
自分の力で臭くしていかなければ。
ベンチャーな屁が
これからますます重要になっていきますね」 |
小林 |
「そうやな。
屁草さん、貴重なお話を
どうもありがとうございました。
今日から私たちも、
屁の改革に乗り出してみます」 |
日本の改革者になるべく、
勇んで家路についた先生と弟子であった。
先ず先生は、実態を調査することが大切だと考えた。
男の屁は弱っているが、女の屁はどうなのか。
それを調べよう思い、前を歩いている女に思わず
「屁をかがせてください」
と言ってしまった。
女は逆上し、先生の鼻に怒りの鉄拳を浴びせた。
先生はその場に倒れ、ショックで屁をもらしてしまった。
「ぷにゅ〜」。
マヌケな音が鳴り響いた。
「なさけない屁ね!
それでも男か、このふにゃちん野郎!!」。
女は捨て台詞を残し、足早に去っていった。
確かになさけない屁ではあったが、
ふにゃちんかどうかはまた別の問題だ。
薄れゆく意識の中で、小林先生はそうつぶやきました。 |