小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の七拾参・・・・下着

「先生、難解な哲学書をお読みなのですか?」

小林先生が眉間にシワを寄せて
書物を睥睨しているのを見て、
弟子の北小岩くんが思わず声をあげた。

「いやな、この本に
 女性がガーターベルト姿で載っているんやが、
 堂々として実に気持ちええ。
 女性用下着には穴つきパンティという飛び道具もある。
 どちらも男を圧倒する強い意思が感じられるわな。
 それにひきかえ男の下着はブリーフにトランクスや。
 あまりに意志薄弱でだらしないと思ってな」

「確かにそうですね。
 わたくしも縞々のトランクスをはいておりますが、
 何か深い考えがあってのことではありません。
 惰性で身に付けているだけです」
 
「そうやろ。
 これは日本男児として憂うべき問題や。
 何とかせねばあかんな」

小林先生と弟子の北小岩くんは、
男の下着の惨状を救うべくとある下着ショップを訪れた。
看板には『特別男性下着 ブラブラ本舗』と書かれている。
この店にはパンツさんと呼ばれる
下着のスペシャリストがいるのだ。
小林 「こんにちは。
 あなたがパンツさんですか?」
パンツさん 「はい。私がパンツさんです」
小林 「女性の下着には気迫を感じます。
 それに比べて男性下着はなさけない。
 このままでは滅んでしまうでしょう。
 ますます女性上位の時代が
 進行していくんやないですか」
パンツさん 「女性上位も気持ちよくて大好きです。
 あっ、いや、それでは
 男性下着に未来がありませんね。
 私は積極性をもってはく
 気骨のある男性下着を
 いくつも開発しております」
北小岩 「どんなものがあるのですか?」
パンツさん 「例えばこれですね。
 一見何の変哲もないブリーフです。
 でもよく見てください。
 睾丸のところに
 球根が埋め込まれているのです。
 ヒヤシンスとクロッカス。
 パンツの中の湿気によって
 栽培することができます。
 『ダブルファンタジー』といいます」
小林 「ダブルファンタジー・・・。
 さすがや!男根の根元に球根。
 己の湿気で植物を育て花を咲かせる。
 パンツで命をはぐくもうという
 強固な思いが感じられる。
 パンツはん、他にはどうですか!」
パンツさん 「これなんか、いかがでしょうか。
 『しおり付きパンツ』です。
 これをはけば、
 女の人が
 今日どこまでおちんちんを読んで、
 次の日にどこからおちんちんを
 読み続ければいいかがわかります」
北小岩 「う〜む。思わずうならされますね。
 今までわたくしは、
 おちんちんを読むという
 発想自体したことがありませんでした」
小林 「経験豊富な女性ともなれば、
 それぐらいの付き合い方をするわな。
 すでにちんちんは、
 含む時代から
 読む時代に変わっているんや。
 ところで北小岩、ええ機会やから
 ひとつ試着させてもらったらどうや」
北小岩 「そうですね」
試着室の入口は、赤貝を模した形になっている。
相好を崩しながら出てきた北小岩くんの右手には、
小さなリモコンが握られている。
北小岩 「先生、スイッチを入れてみますね!」

このブリーフには
ワイヤーが仕掛けられてあり、
リモコンを操作すると
ちんちんが見事なつり橋になるのだ。
小林 「すぐれもんやないか!」
パンツさん 「パンツが女性と
 おちんちんの架け橋になってくれたら、
 という願いからつくりました」
小林 「パンツはん、
 俺にもひとつ試着させてください」
言うが早いか、小林先生は股間が
巨大な球状に盛り上がったブリーフを試着してしまった。
パンツさん 「それは危険です!
 パンツの最終兵器です!!」


先生が履いてしまったものは『パンツボム』と呼ばれ、
金玉爆弾が装備されているのだった。

「もう、金玉はいらない」。

そのように決意した男が
自分の金玉を自爆させる時に使う悲しいブリーフなのだ。
それを店主から聞かされた先生は
恐ろしさのあまり失禁した。
だが、そのおかげで火薬が湿り爆発を免れた。
自分の実力以上に己のものを誇示しようとし、
すぐに墓穴を掘る小林先生が義玉になる日も
そう遠くはないだろう。

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2002-09-01-SUN

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