小林 |
「いなや。
どうもファッション業界は、
世の中の流れについていけてない気がするんや。
たぶんそれを自覚しとるデザイナーは、
世界でも一人しかおらんと思ってな」 |
北小岩 |
「話がよく飲み込めませんが?」 |
小林 |
「今日彼のアトリエで
ファッションショーが催される。
とにかくお前も来てみるこっちゃな」 |
二人は先生と昔から深い親交を持つ
ファッションデザイナー、
ポール・エロメス氏のアトリエを訪ねた。
紺色のドーム型をした建物で、
町の人々はコンドームと呼んでいた。
到着すると同時に、
ファッションショーが始まった。 |
北小岩 |
「さすがにモデルさんは、
くびれの効いた美しい方ばかりですね。
しかし先生、
わたくしの思い違いでしょうか。
女性のおへその下あたりに
黒ずんだものが見える気がするのですが」 |
小林 |
「そこがポイントなんや。
エロメス氏はヘアルック。
つまり陰毛を積極的に出す服を
発表し続けている男やからな」 |
北小岩 |
「なんと!」 |
小林 |
「ヘア解禁が既成事実となってから
もう長い年月がたっておる。
なのにいかに陰毛を美しく表現するかの
服の提案がなされてこなかった。
俺の知るところそれだけを
専門にデザインしている男は、
世界広しといえども
エロメスはんをおいて他にはいない」 |
♪タラララ ラ・ラ・ラ ラ・ラ・ラ・ラ〜ラ〜
タラララ ラ・ラ・ラ ラ・ラ・ラ・ラ〜ラ〜
リズミカルな音楽とともに、
舞台にレンガ模様の壁が現れた。 |
北小岩 |
「なつかしいですね。
このリズムは
志村けんさんと加藤茶さんが
8時だョ!全員集合でやっていた
ヒゲダンスですね。
モデルの方たちが現れました。
あっ、陰毛がヒゲになっている!」 |
美女二人組がタキシードのような服を着て、
ヒゲ型の陰毛を出しながら
にこやかにダンスする。
カラダの動きにあわせて躍動する陰毛が楽しげだ。
|
小林 |
「ベリーキュートや!
こんな天真爛漫なダンスは初めて見た。
さすがエロメスはんや!!」 |
北小岩 |
「次のお洋服もかわいらしいです!
陰毛が筆の穂首に見えるつくりに
なっております」 |
それは氏の自信作、
『筆下ろし』というタイトルの服だった。
その後も長髪の陰毛を野性的になびかせる
『ワイルドヘアで行こう』や、
刑事コロンボ風のいでたちで
ルーズに陰毛が飛び出している
『毛衣事(けいじ)ベロンチョ』など、
魅力にあふれたヘアファッションが登場した。
|
北小岩 |
「わたくし、胸がときめいております。
ヘアルックの世界は、
なんと上品で雅やかなのでございましょうか。
あれ?男の人が出てきました。
彼女とおそろいのヘアルックです」 |
小林 |
「そうや。
男と女は閨で陰毛を擦り合わせ愛を深めていく。
ねんごろになった陰毛を誇示しながら、
同じ服で街を闊歩する。
これぞ、見かけだけではない
真のヘアペアルックや!」 |
北小岩 |
「うらやましいことでございます。
わたくしもいつか彼女と一緒に
ヘアペアルックでデートしたいものです」 |