小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百四・・・ファッション


「何かお悩みですか?」
小林先生が厳しい表情で腕組みしているのを見て、
思わず弟子の北小岩くんが問いかけた。

小林 「いなや。
 どうもファッション業界は、
 世の中の流れについていけてない気がするんや。
 たぶんそれを自覚しとるデザイナーは、
 世界でも一人しかおらんと思ってな」
北小岩 「話がよく飲み込めませんが?」
小林 「今日彼のアトリエで
 ファッションショーが催される。
 とにかくお前も来てみるこっちゃな」
二人は先生と昔から深い親交を持つ
ファッションデザイナー、
ポール・エロメス氏のアトリエを訪ねた。
紺色のドーム型をした建物で、
町の人々はコンドームと呼んでいた。
到着すると同時に、
ファッションショーが始まった。
北小岩 「さすがにモデルさんは、
 くびれの効いた美しい方ばかりですね。
 しかし先生、
 わたくしの思い違いでしょうか。
 女性のおへその下あたりに
 黒ずんだものが見える気がするのですが」
小林 「そこがポイントなんや。
 エロメス氏はヘアルック。
 つまり陰毛を積極的に出す服を
 発表し続けている男やからな」
北小岩 「なんと!」
小林 「ヘア解禁が既成事実となってから
 もう長い年月がたっておる。
 なのにいかに陰毛を美しく表現するかの
 服の提案がなされてこなかった。
 俺の知るところそれだけを
 専門にデザインしている男は、
 世界広しといえども
 エロメスはんをおいて他にはいない」
♪タラララ ラ・ラ・ラ ラ・ラ・ラ・ラ〜ラ〜
 タラララ ラ・ラ・ラ ラ・ラ・ラ・ラ〜ラ〜

リズミカルな音楽とともに、
舞台にレンガ模様の壁が現れた。
北小岩 「なつかしいですね。
 このリズムは
 志村けんさんと加藤茶さんが
 8時だョ!全員集合でやっていた
 ヒゲダンスですね。
 モデルの方たちが現れました。
 あっ、陰毛がヒゲになっている!」
美女二人組がタキシードのような服を着て、
ヒゲ型の陰毛を出しながら
にこやかにダンスする。
カラダの動きにあわせて躍動する陰毛が楽しげだ。

小林 「ベリーキュートや!
 こんな天真爛漫なダンスは初めて見た。
 さすがエロメスはんや!!」
北小岩 「次のお洋服もかわいらしいです!
 陰毛が筆の穂首に見えるつくりに
 なっております」
それは氏の自信作、
『筆下ろし』というタイトルの服だった。
その後も長髪の陰毛を野性的になびかせる
『ワイルドヘアで行こう』や、
刑事コロンボ風のいでたちで
ルーズに陰毛が飛び出している
『毛衣事(けいじ)ベロンチョ』など、
魅力にあふれたヘアファッションが登場した。
北小岩 「わたくし、胸がときめいております。
 ヘアルックの世界は、
 なんと上品で雅やかなのでございましょうか。
 あれ?男の人が出てきました。
 彼女とおそろいのヘアルックです」
小林 「そうや。
 男と女は閨で陰毛を擦り合わせ愛を深めていく。
 ねんごろになった陰毛を誇示しながら、
 同じ服で街を闊歩する。
 これぞ、見かけだけではない
 真のヘアペアルックや!」
北小岩 「うらやましいことでございます。
 わたくしもいつか彼女と一緒に
 ヘアペアルックでデートしたいものです」


エロメス氏デザインの服は、
ファッション界から完全に無視されている。
だが、アンダーヘアが
これだけ大手を振って歩いている世の中にあって、
魅力的なヘアファッションの提案は
大変意義のあることだと思う。
エロメス氏がこのまま作品を作り続け、
何年後かにファッションの主流となっていることを
願ってやまない。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2003-12-18-THU
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