小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

其の百七・・・怪獣


「先生、何か辛いことがおありでしょうか」
小林先生がこぶしを固く握りしめ、
涙をこらえている様子を見て、
弟子の北小岩くんが心配そうにたずねた。

小林 「いやな、久しぶりに
 レンタルビデオ屋で
 AV以外のビデオを借りてみたんや。
 そしたら、思いのほか感動巨編でな。
 恥ずかしながら、
 目頭が熱くなってしもうたんや」

北小岩くんがタイトルをチェックすると、
そこには『怪獣の思春期』と書かれていた。

北小岩 「わたくしも拝見して
 よろしいでしょうか?」
小林 「そやな。
 俺ももう一度観ときたいしな」

そのビデオは、火山での怪獣の出産シーンから始まった。
以前の怪獣は産卵していたが、
どうやら哺乳類に進化したらしく、
母怪獣は赤ちゃんを産んだ。
怪獣はすくすく成長し東京に現れた。
新宿副都心の高層ビルを片っ端から壊して歩く。
科学警備隊が戦闘機を出動させミサイルを発射するが、
まったく効果はない。

北小岩 「哺乳類になっても、
 見かけは今までの怪獣と
 変わりませんね。
 それにやっぱり大きくなると、
 建物を破壊してしまうのですね」
小林 「まあそう言わんと、
 これからの展開に注目や」

東京の危機を目の当たりにした
中学生のモロダシ・ダンくんがついに変身する。


街の人々 「あっ、ウルトラチンだ!」
「お願いだ。
 早く怪獣を倒してくれ!!」

ちんちんがでかいから
ウルトラチンと呼ばれているのではない。
彼はまだ童貞なため、マンの味を知らない。
だからウルトラマンになりきれずに、
ウルトラチンと呼ばれているのだ。
怪獣との戦闘経験も少ないので技もいまいちだ。
パンチを繰り出そうとして高速道路につまずき、
怪獣の胸をむんずと掴んでしまった。
怪獣は恥ずかしそうに胸を押さえた。
どうやら女の子らしい。
パンチが効いたと勘違いした
ウルトラチンがキックするが、
つま先で怪獣の秘所を蹴ってしまった。

街の人々 「あっ、股間から血が流れた!」

それはキックによる出血ではなかった。
哺乳類に進化したので、
お年頃になり初潮が始まったのだ。
まだケツの青いウルトラチンも
さすがにそのことに気づいたようだ。
だが、毛が生えたばかりの
童貞野郎になすすべはない。
怪獣は恥ずかしがって泣き出してしまった。
その時だった、東京中の女子中学生たちが
立ち上がったのだ。

女子中学生A 「あの怪獣は
 私たちの町を破壊したわ。
 でも、私たちは同年代だから
 今の彼女の悲しみがよくわかる」
女子中学生B 「みんな、それぞれの学校に行って
 マットを体育館から
 運んでくるのよ!」

彼女たちはマットを抱えて代々木公園に集合。
それをタコ糸と針金でつなぎ、
一枚の大きな布にした。
片側の表面を切り綿を露出させる。
巨大なナプキンの出来上がりだ。
しかし、怪獣は泣いたまま。
人間の力では
それを陰部にあてがうことはできない。


女子中学生A 「あんた、でかい図体して
 何さっきから突っ立てるのよ」
女子中学生B 「そうよ。
 ちょっとは手伝ったらどうなの。
 いくら童貞だからって、
 これをどうすればいいかぐらい
 わかるでしょ」
ウルトラチン 「でっ、でも・・・」
女子中学生A 「そんな根性無しで
 正義の味方面するなよ。
 女の子一人救えないぐらいなら
 やめちまいな」

そこまで言われたら、
ウルトラチンも引き下がれない。
彼は巨大ナプキンを持つと、
それを怪獣の股間にあてた。
そのままもう片方の手で彼女の体を支え、
すかさず飛び立つ。

ウルトラチン 「ジョワッチョ!」

ウルトラチンは女のそこに触れるのは
初めてだったので、
股間がもっこりしてしまい
飛んだ瞬間に精通した。
だが、それを笑うものは誰もいなかった。
そのまま彼女をお母さんのもとに送り届けた。
感謝したお母さん怪獣は、
これからはもう何も破壊しないと約束した。
その後、怪獣の女の子と彼は恋に落ちた。
女を知ったウルトラチンは
その蔑称を返上し、
誰もが認めるたくましきウルトラマンとなった。

北小岩 「くうぅ・・・。
 すばらしいお話でございます!」
小林 「そうやろ。
 この世知辛い世の中に、
 こんなに心のあたたまる話が
 残っていたとはな」

狭い部屋の中に、
先生と北小岩くんの泣き声が響き渡った。
とはいえ、こんな話が大の大人が二人で
号泣するほどのものなのであろうか。
そこに大いなる疑問が残るのである。

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2004-02-05-THU
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