北小岩 |
「先ほどほんの少しですが、
お話が耳に入ってしまいました。
もしさしつかえなければ、
わたくしにも全貌を
お教えいただけませんでしょうか」 |
小林 |
「ええか?」 |
客人 |
「はい」 |
小林 |
「彼とは数年前に
ひょんなところで知り合ってな。
それ以来ずっと懇意にしとるんや」 |
客人 |
「僕は小さい頃から引っ込み思案で、
クラスでもいじめられっこでした。
学校を卒業してもどこにも就職できず、
彼女もいたことがありません。
小林先生と初めてお会いしたのは、
歌舞伎町の裏DVD屋でした。
僕がDVDを選んでいると、
先生はカゴをのぞき込んで
大きくうなずきました。
君はええセンスしとる。
なかなかのエロ眼の持ち主や!
そうほめてくださったのです。
人からほめられたのは
生まれて初めてでした」 |
小林 |
「それからDVDを貸し借りしたり、
エロ情報を交換したりしとったんやが、
いきなり音信不通になってな。
連絡もとりようがなく、
えらく心配したわ」 |
北小岩 |
「どこかにおでかけになっていたのですか?」 |
客人 |
「はい。
再び帰ることのない旅に
出ようと思ったのです」 |
小林 |
「彼は思い切って告白した女の子から
酷い仕打ちをうけ、
おまけにバイトもクビになり、
希望を失ってしまったんやな」 |
客人 |
「気がつくと日本海の断崖に立っていました。
そのまま身を投げようかと思ったのですが、
最後に先生の声が聞きたくなったのです。
電話に出た先生は
何か不穏なものを感じとったらしく、
やさしくこう言いました。
まあええ、まあええ。
そんなに急ぐことないで。
そこで素っ裸になって脱糞してみい。
肛門が微笑むほど気持ちええんやから」 |
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北小岩 |
「・・・」 |
客人 |
「僕は朝から腹を下していたこともあり、
先生の言葉に従いしゃがみこみました。
お尻の穴からブホッと飛び出したものが、
大海原へと吸い込まれていきました。
すると全身が
ポーッとシアワセな気分になり、
今、僕は生きているんだって
強く感じられたのです」 |
小林 |
「それから彼は日本中の、
人が思わず
命を絶ちたくなるような場所を回り、
脱糞しまくったんや。
傷心旅行。
つまり彼のセンチメンタルジャーニーは、
『ウンチメンタルジャーニー
(傷心脱糞旅行)』に昇華された」 |
客人 |
「旅が終わる頃には、
小さな自信が芽生えてきました。
自分はちっぽけな存在に過ぎないけれど、
まだまだ何かができるはずだと。
そして今日東京に戻り、
先生にお礼を言いにきたのです」 |
小林 |
「そうや。
まあ、つらいことがあったら
一人でぐずぐず悩んどらんで、
いつでもまっすぐうちに来い。
たまにはエロい店もおごったる。
お前の悩みなど木っ端微塵になるぐらいの、
俺が今まで味わってきた
数々の生き恥話を聞かせたる。
だが1回につき1枚、
ちんちんが涎を流して喜ぶ裏DVDを
みやげに持ってくるのを
忘れたらあかんで!」
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