小林 |
「これから大人の社交場へな。
そうや、
お前もそろそろええ歳やろ。
これからは
大人のたしなみも
身につけなあかんで」 |
先生は北小岩くんを
町はずれの格安レンタルショップに連れて行った。
そこでタキシードに着替えさせ、
銀座のとある店に急いだ。
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北小岩 |
「むっ!」 |
店のたたずまいを目にした北小岩くんが
思わずのけぞった。
女性のおしりを模した黄金の扉の真ん中下めに穴があり、
そこから出入りするのである。
看板には
『FART BAR かぐや姫』と書かれている。
二人が中に入ると、ロマンスグレイの温厚な紳士が
声をかけてきた。
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ロマンス
グレイ |
「やあ、先生おひさしぶり」 |
小林 |
「これはこれは。
今日は何を
たしなんでいらっしゃるのですか」 |
ロマンス
グレイ |
「『ヨーグルト・ロワイヤル』ですね」 |
白いロングドレスに身を包んだ痩身の美女が、
ロマンスグレイに近づいていった。
この店はタキシード着用が義務づけられており、
バーの女性はすべて高価なドレスを着ている。
美女はカウンターに座っている
ロマンスグレイの前に立つと
後ろを向いた。
彼は美女のおしりに鼻をつけた。
「プゥ〜」
ロマンスグレイは目をつむり、
ほのかな香りを吸い込むと何度もうなずいた。
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ロマンス
グレイ |
「デリシャス!」 |
美女は頬を赤らめ、恥ずかしそうにお辞儀し
カウンターの奥へ入っていった。
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北小岩 |
「もしかするとここは・・・」 |
小林 |
「そうや。FART BAR。
つまりおならを味わうバーやな。
彼が今賞味したのは、
ヨーグルトをベースにした屁のカクテルや。
近頃の一番人気や。
屁にも健康ブームが押し寄せとるので、
あまり香りがきつすぎず、
マイルドに嗅ぎほせるものが好まれとる」 |
ロマンス
グレイ |
「すぐにおならは出ませんから、
来店の6時間ほど前に
電話でカクテルの予約を入れておくのです。
すると美女は
カクテルのもとになるものを食べて、
ちょうどいいタイミングで
嗅がせてくれるというわけです。
料金は種類によって異なります。
ヨーグルト・ロワイヤルは4千円ですが、
レアのステーキと
玉ねぎ、にんにくのカクテルである
『ドラキュラ・ジンジン』は
1万円以上します。
匂いがきついものほど
女性も恥ずかしいので、
値段が高くなるのです」 |
小林 |
「せっかくやし、
北小岩も何かオーダーしたほうがええな。
初心者は
『スィート・ポテプー』からやろな」 |
スィート・ポテプーとは、
サツマイモをベースとした
もっともスタンダードなカクテルである。
コーヒーでいえばブレンド、
お酒でいえばビールといったところである。
注文が多いため、店の女性たちも何人かは
常にサツマイモを食べて待機している。
予約せずに来店した場合は、
とりあえずスィート・ポテプーをオーダーするのが
賢明だろう。
先生とロマンスグレイが談笑していると扉が開いた。
上場会社を経営している伊達男が、
店のナンバーワンと腕を組んで入ったきた。
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小林 |
「同伴出勤や。
いろいろな香りのもとを入れ込んだ
フランス料理のフルコースを、
一緒に楽しんできたんやろ。
そのコースのカクテルは、
まあ10万は下らないやろな」 |
ナンバーワンは、
VIPE(びっ屁)シートに座った
経営者の目の前におしりを差し出した。
「プルルルン、プンルル」
お洒落なおならの音が響いた。
伊達男はおしりの割れ目を鼻でなぞると、
至福の表情を浮かべた。
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小林 |
「俺もいつかあの人のように、
フルコースのカクテルを堪能するのが
夢やな」 |