「あいたたたた」
「なんや、虫歯かいな。
はよ治さんと、えらいことになるで。
今すぐ歯医者に行ってこんかい」
左頬を押さえてうずくまる愛弟子を、
小林先生が気遣った。 |
北小岩 |
「ありがとうございます。
しかし、わたくし幼少の頃から
歯医者さんを大の苦手としております。
あのスズメバチの針のようなドリルを
近づけられるだけで、
頭蓋骨まで削られる気がして
卒倒しそうになるのです」 |
小林 |
「困ったもんや。
歯にまつわるええ思い出がないからやな。
しゃあない、俺の贔屓にしておる
名医さんを紹介したる」 |
先生は難色を示す北小岩くんの背中を
そっと押してやり、
歯科医院の門をくぐらせた。 |
歯科女医 |
「こんにちわんわん」 |
北小岩 |
「むっ!」 |
ピンクのノースリーブミニワンピースを着た女医を見て、
北小岩くんの瞳に光が宿った。
細身の肢体。
ワンピースの股間のあたりに、
歯をモチーフにした大きなアップリケがついている。 |
歯科女医 |
「それじゃ、ここに座ってお口をあ〜んして。
あらあら、こんなになるまでほっといて。
いけない子ね」 |
北小岩くんは赤ん坊のように
やさしく頬をなでられている。 |
歯科女医 |
「今までは有無を言わせず削られたから、
恐怖を感じるようになっちゃったのよね。
ほんとはね、歯の治療にも前戯が必要なの。
前戯がないから痛いのよ」 |
彼女は妖艶な手つきで治療器具に触れると、
スイッチを入れた。
治療器具‥‥。
それはコードの先に特殊シリコン製の舌がついている
バイブレーター状のものであった。
|
歯科女医 |
「まずは歯のお掃除をして、
それから歯茎をほぐすわね」 |
北小岩くんの歯の表面を、シリコン舌がニュルッと蠢く。
歯と歯の間をクリーニングする時には、
舌先がつんと尖る。
舌は歯から上方に移っていき、
ぬめりを持った生物のように北小岩くんの歯茎を這う。 |
北小岩 |
「あっ、あ〜〜〜」 |
歯科女医 |
「うふふ。次は口蓋ね」 |
口腔の上壁をさわるかさわらないかの微妙なタッチで、
舌がチロチロと刺激する。
攻撃が佳境を迎えると北小岩くんの顔が上気した。 |
北小岩 |
「はあはあはあ」 |
息の荒くなった獲物を見つめる女医さんの目がキラリ。
すばやく器具を舌の下に潜り込ませると、
ターボチャージャーのスイッチを押した。 |
北小岩 |
「あっ、うっう〜〜〜〜」 |
シリコン舌が北小岩くんのベロに絡みつく。
女医さんが手に力を込めると、
舌の裏から怪しげなローションが噴出。
強弱をつけたローリングで弄ぶ。
なまめかしい女医さんの顔が
数センチのところにあるので、
まるで彼女と舌を絡ませているような気分になってくる。
北小岩くんの大事な場所は、りっぱに角度をつけている。
彼の恍惚を確認すると、彼女は治療にかかった。
もうどうにでもして!状態の北小岩くんは、
恐怖を感じることなく治療を進めてもらうことができた。 |
歯科女医 |
「は〜い。よく我慢できましたね」 |
女医さんがごほうびに、
ほっぺとほっぺをくっつけてくれた。
北小岩くんは遠い目をしている。 |
歯科女医 |
「また来週しましょうね」 |
北小岩くんは幼児のようにこっくんとうなずいた。
治療といえどもムチだけでは限界がある。
人間にはアメが必要なのだ。
これを見習い、各医療機関は治療の前に
必ず前戯をほどこしてほしい。
人にやさしい医のヒントが、
ここに隠されているに違いない。 |