小林秀雄のあはれといふこと

しみじみした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百弐拾弐・・・靴


「う〜む、何か匂うな」
「腑に落ちないことでもおありですか?」
眉間に皺を寄せた先生を仰ぎ見て、
弟子の北小岩くんがすかさず尋ねた。

小林 「謎やない。これは現実や。
 お前さっきの曲がり角で、
 犬の糞を踏んだやろ」
北小岩 「あっ!!!」
北小岩くんの靴裏には、
べっとりと黄金色の悪魔が輝いていた。
北小岩 「わたくし、靴を一足しか
 もっておりません。
 この損失は
 計り知れないものがございます」
涙目の弟子の肩を、師がやさしくたたいた。
小林 「しゃあないなぁ。
 一丁ほど歩けば俺の知人で
 オリジナルな靴をつくっている男がおる。
 そこで見繕ってもらおうやないか」
職人の家は変靴長屋と呼ばれていた。
主人は靴満挿男(くつまんさしお)氏。
靴満 「先生、お久しぶりです。
 あっ、あなたは立ち入り禁止です。
 ごっつい物をおみやげにしてますからね」
さすがに慧眼。
瞬時に北小岩くんの粗相を見抜いた。
小林 「そうなんや。こいつにひとつ頼むわ」
靴満 「それならばお誂えのブツがあります。
 今、出してきますね」
北小岩 「むっ!」
氏が奥から運んできた逸品を見て、
弟子がのけぞった。
靴満 「ではあなたが踏みしめた
 屈辱の現場に向かいましょう!」
靴満氏は近くで特殊靴に履き替えると、
不気味に光をたたえる巨塊に向かって
直進していった。
靴満 「♪ 糞ふんじゃった〜
 糞ふんじゃった〜ら ぶっとんだ〜」
ワケのわからない歌を口ずさむのと、
靴の先端に装着された羽根車が
高速回転したのが同時だった。
北小岩 「うわあああっ!」
吸い込まれた黄金色がダクトから吹き飛び、
猛スピードで北小岩くんの目を直撃した。
靴満 「すんましぇ〜ん。
 これはロータリー除糞靴といいます。
 豪雪地帯で使用している
 除雪車をヒントにつくりました。
 匂いを敏感にキャッチして稼働し、
 最長10メートルまで
 飛ばすことができるのです」
北小岩 「そばにいると大変危険ですね。
 わたしく、不覚にも
 目に入れてしまいました。
 これが正真正銘の目クソであります」
小林 「どや。それにしてみいひんか。
 日本ではかなり減少してきたが、
 フランスなどに行くと
 エベレスト級の大物がそこかしこやで。
 ヨーロッパで
 日本のクソ力を見せたらんかい」
北小岩 「そういたします!」
靴満 「よかった。
 僕がフランスで試した時も、
 パリジェンヌが
 狂喜乱舞しておりましたよ!」
つくる阿呆に買う阿呆。
パリジェンヌは狂喜していたのではなく、
パニックに陥っただけだろう。

靴満氏は瞬時に糞を焼き尽くす
『やけ糞ブーツ』もラインナップ。
さらにしょうもないものもある。
道に女陰の形をつけて歩く『貝印安全靴』と、
女性の靴跡に合わせると
前後に自動ピストン運動をする『セックツ』だ。



先生は当然のように『セックツ』を購入した。
いつものようにいきがり、
警察沙汰にならないかどうか、
心がかりではある。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「小林秀雄さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2005-01-28-FRI

BACK
戻る