小林 |
「謎やない。これは現実や。
お前さっきの曲がり角で、
犬の糞を踏んだやろ」 |
北小岩 |
「あっ!!!」 |
北小岩くんの靴裏には、
べっとりと黄金色の悪魔が輝いていた。 |
北小岩 |
「わたくし、靴を一足しか
もっておりません。
この損失は
計り知れないものがございます」 |
涙目の弟子の肩を、師がやさしくたたいた。 |
小林 |
「しゃあないなぁ。
一丁ほど歩けば俺の知人で
オリジナルな靴をつくっている男がおる。
そこで見繕ってもらおうやないか」 |
職人の家は変靴長屋と呼ばれていた。
主人は靴満挿男(くつまんさしお)氏。 |
靴満 |
「先生、お久しぶりです。
あっ、あなたは立ち入り禁止です。
ごっつい物をおみやげにしてますからね」 |
さすがに慧眼。
瞬時に北小岩くんの粗相を見抜いた。 |
小林 |
「そうなんや。こいつにひとつ頼むわ」 |
靴満 |
「それならばお誂えのブツがあります。
今、出してきますね」 |
北小岩 |
「むっ!」 |
氏が奥から運んできた逸品を見て、
弟子がのけぞった。 |
靴満 |
「ではあなたが踏みしめた
屈辱の現場に向かいましょう!」 |
靴満氏は近くで特殊靴に履き替えると、
不気味に光をたたえる巨塊に向かって
直進していった。 |
靴満 |
「♪ 糞ふんじゃった〜
糞ふんじゃった〜ら ぶっとんだ〜」 |
ワケのわからない歌を口ずさむのと、
靴の先端に装着された羽根車が
高速回転したのが同時だった。 |
北小岩 |
「うわあああっ!」 |
吸い込まれた黄金色がダクトから吹き飛び、
猛スピードで北小岩くんの目を直撃した。 |
靴満 |
「すんましぇ〜ん。
これはロータリー除糞靴といいます。
豪雪地帯で使用している
除雪車をヒントにつくりました。
匂いを敏感にキャッチして稼働し、
最長10メートルまで
飛ばすことができるのです」 |
|
北小岩 |
「そばにいると大変危険ですね。
わたしく、不覚にも
目に入れてしまいました。
これが正真正銘の目クソであります」
|
小林 |
「どや。それにしてみいひんか。
日本ではかなり減少してきたが、
フランスなどに行くと
エベレスト級の大物がそこかしこやで。
ヨーロッパで
日本のクソ力を見せたらんかい」 |
北小岩 |
「そういたします!」
|
靴満 |
「よかった。
僕がフランスで試した時も、
パリジェンヌが
狂喜乱舞しておりましたよ!」 |
つくる阿呆に買う阿呆。
パリジェンヌは狂喜していたのではなく、
パニックに陥っただけだろう。
靴満氏は瞬時に糞を焼き尽くす
『やけ糞ブーツ』もラインナップ。
さらにしょうもないものもある。
道に女陰の形をつけて歩く『貝印安全靴』と、
女性の靴跡に合わせると
前後に自動ピストン運動をする『セックツ』だ。
先生は当然のように『セックツ』を購入した。
いつものようにいきがり、
警察沙汰にならないかどうか、
心がかりではある。 |