小林秀雄のあはれといふこと

しみじみした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百弐拾参・・・プロポーズ


「おっと、この曲がり角は気をつけねばなりません。
 特に夜道は危険です」

先日、ここで巨糞の餌食になってしまった
北小岩くんは、
用心の上にも用心を重ねた。

「ほっ、大丈夫でした。でも不思議です。
 ブツはなかったはずなのに、
 何やら厳しい匂いがいたしました。
 どうしたことでありましょう?
 むっ、この中からではないでしょうか」

朽ちかけた塀の隙間からのぞいてみると。

「あっ!」

廃材で作られた小さなPUBがあった。
看板には「ASS HOLE」と大書されている。

「客人が豪華であります!」

カウンターには、ウンコ、おならなど、
各界の人気者が勢ぞろいしていた。
おならは目に見えないのだが、
プープー音がするので分かるのだ。

「このラインナップで、
 いかような話に興じているのでございましょう」

北小岩くんは必死に耳をそばだてた。

「おひょ〜〜〜」

彼らはそれぞれのプロポーズの言葉を
語り合っているのだった。

ウンコ男爵 「当時僕は気弱でね。
 愛想つかされフラれる寸前でした。
 彼女は僕を頼りないだけの
 内気な糞だと思っていましたから。
 別れ話を切り出された時、
 意を決したのです。
 『この世で誰よりも
  君の匂いが好きだ!
  一生臭い仲でいてください!!』
 と」
おけつ
マスター
「糞度胸を出しましたね。
 彼女のお返事は?」
ウンコ男爵 「『私、今までいろいろな恋をしてきた。
  だけどそんなに真剣に
  向き合ってくれた糞、初めてよ。
  私が乾燥して匂わなくなっても、
  ずっと愛してね』。
 応援してくれていた金バエたちも
 目に涙を浮かべ、
 汚物がくっついた手で
 拍手してくれました」
おけつ
マスター
「そうでしたか。
 私なんて単純に
 『ケツ婚してください!』って、
 彼女の生のケツに
 私の生のケツを
 くっつけただけですから。
 男爵のプロポーズは洒落てますね」
男爵の隣りに座っていた
ボーン・トゥ・ビー・ワイルドな切れ糞が語りだした。
切れ糞 「なんだかゆるいな。
 俺なんか
 『お前に俺以上のヤツは現れないぜ!
  この赤い情熱を感じるだろ。
  さあ、俺の黄土色の胸に
  飛び込んでこい』。
 それで彼女はイチコロさ」
おけつ
マスター
「赤い情熱とは?」
切れ糞 「俺をひりだしたヤツが、
  切れ痔だったのさ」
おけつ
マスター
「‥‥」
おなら娘 「私は自分からプロポーズしたの。
 おならの男の子と女の子が
 出会えるなんて、
 それ自体が奇跡なのよ。
 出会えても一瞬で消えてしまう
 儚い恋だから‥‥。
 私、
 『もう会えないかもしれないけど、
  一緒になっていい音立ててください』
 とつぶやいた。
 彼は微笑んで、
 そのままプ〜〜〜〜という音を残して
 消えてしまった。
 周りの人にはおならの音にしか
 聞こえなかったと思う。
 だけど私には分ったんだ。
 それが彼が私にくれた
 さよおならの歌だったこと。
 こんな歌だった‥‥。
 ♪ 幸せなら屁を鳴らそ プップッ」
おなら娘は屁再生装置を使って
生きながらえているらしい。
北小岩 「彼女の心にだけは
 彼の歌が響いていたのですね‥‥。
 大便やおならに男と女がいたなんて、
 わたくし今まで知りませんでした。
 それにしても、
 涙なくしては聞けないお話の
 なんと多いことでありましょう。
 うっうっうっ‥‥」
北小岩くんが嗚咽をもらした。
人間だけではない。
ウンコにだっておならにだって、
二人だけの愛の言葉が胸に刻まれているのだ。
それにしてもおけつマスターって、
一体どんな方なんでしょ?

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2005-02-23-WED

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