北小岩 |
「何か御用でしょうか?」 |
猜疑の心持ちで弟子が玄関を覗くと、
そこには二宮金次郎の銅像のような
とっちゃん坊やが爪立ちしていた。 |
前田 |
「おらは前田玉金(ぎょくきん)と
申するちゃ」 |
北小岩 |
「そうでございますか。
ところでその背にある
柳行李は何ですか?」 |
前田 |
「これかい。中には薬が入っとるだよ」 |
北小岩 |
「ついに疑問が氷解いたしました。
あなたはまさに、
富山の薬売りさんではないでしょうか」 |
前田 |
「おしいやねえ。
おらは富山の薬売りじゃなくて、
富珍山(とみちんやま)の薬売りなのよ」
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小林 |
「遠方からの客人やな。
どんな薬があるのか見せてみい」 |
柱の陰で聞き耳を立てていた先生は、
弟子と前田氏のスローモーなやり取りに業を煮やし、
会話に割り込んできた。 |
前田 |
「おらはね、
ちんちんとちんちんの心の健康を保つために、
妙薬を売り歩いてるんだちゃ。
これはね、ちんちんの睡眠薬で
『コロチン』というんだなぁ」 |
北小岩 |
「何やら怪しげですね」 |
小林 |
「いや、そんなことはないで。
例えば夜中に一人、
世界人類の幸福について
思いを馳せているとする。
永久に無くならない戦争、
飢餓で死にゆく子供たち・・・。
だが思考の内容とは関係なく、
股間だけが妙にもっこりしてくることがある。
『コロチン』の出番や。
幸せへの聖なる希求を邪魔されぬよう、
その時間ちんちんには静かに
おねんねしてもらうと、こういうわけやろ」 |
前田 |
「その通りですちゃ。他にもね、
息子の風邪によくきく
『頓服ポール』もございますだ。
もちろん非ピンピン系だんよ」 |
北小岩 |
「非ピリン系はよく耳にしますが、
チン薬にはそのような系統のものが
存在するのですね。
ここにある『睾丸』というのは何ですか?」 |
前田 |
「玉金を強打して脂汗を流している時に
飲む丸薬ですちゃ」 |
小林 |
「なるほど。わかりやすくてええな。
ほな、その箱ごと置いてってもらおうか」 |
前田 |
「ありがたき幸せですちゃ。
お代は1年後に使っただけいただきますので、
今はいいですわっぴんぐ」 |
北小岩 |
「富山の薬売りさんは、
子供たちにおまけで紙風船などを
置いていってくれたそうですが、
富珍山の薬売りさんは
そういうものはございませんか」 |
前田 |
「もちろんございますちゃ。
これ、あげる〜ら」 |
前田氏が、白いお手玉のようなものを手渡した。 |
小林 |
「これはちんちん用の枕やな。
う〜む。
このやわらかさ、へこみ具合なら、
あやまってちんちんが
寝違えることもないやろ。
ええもんもらったな」
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北小岩 |
「ありがとうございます!」
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