小林 |
「いやな、
近頃町内に空き巣やひったくり、
変質者などが出没するようになってな。
町内会から、出歩く時には
腕章をぜひにと懇願されたんや。
犯人へプレッシャーをかけ、
犯罪の減少に役立たせるためにな」 |
とはいえ、今の姿でもかなり怪しい上に、
先生は公園で読むためエロ本を手にしている。
これでは、不審者と間違われ
連行される可能性が大である。 |
北小岩 |
「腕章をつけた大人が
大勢徘徊するのも
効果があるかもしれません。
しかし、ちょいと他町で
見聞したことがございます。
今日はぜひ、
わたくしに案内させてください」 |
先生はエロ本を懐にしまい、
威風堂々と歩を進める北小岩くんに従った。 |
北小岩 |
「これから出張るのは、
区のはずれにある的射町です。
もしかすると流れ弾が
飛んでくるかもしれませんから、
お気をつけください」 |
小林 |
「物騒な話やな。
それほどの凶悪犯がおるんかい」 |
二人が的射町に足を踏み入れたその時だった。 |
若い女性 |
「ひったくりよ、早く投げて!」 |
街角に置かれた台に立っていた男は叫び声を聞き、
鞄から黄土色の物質を取り出した。
大きく振りかぶると、
ひったくりの顔面目掛けて投げつけた。
グショ! |
小林 |
「むっ。あれは糞やな。
見事な速糞や。
鼻面で砕け散り、
目、口、耳、鼻
すべての穴に入り込んだ」 |
北小岩 |
「投げ手は
『街角さん』と呼ばれております。
選りすぐりの
強肩&コントロールの持ち主たちが、
24時間交代で角々に立っているのです。
犯人は糞を顔にぶつけられたショックで、
この町には近寄らなくなります。
街角さんを配置してから、
犯罪率は10分の1に減りました」 |
小林 |
「なるほどな。
だが犯人だって
そうそうぶつけられてはいないやろ。
もし、首を傾げられたらどうするんや」 |
北小岩 |
「問題ございません」 |
男の二投目が、
ひったくり野郎にうなりをあげる。
野郎は首を左に倒してよけようとした。
だがシュート回転した凶器は、
目と鼻をべっとり覆った。 |
小林 |
「うむ。
糞投げの世界にも、
カミソリシュートがあったか」 |
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北小岩 |
「それだけではありません。
あの方は、
カーブ、フォーク、ナックル、パーム、
カットボールなど、
七色の魔糞を投げ分けます。
特に剛速糞がくると読んで屈んだ相手が、
もう通過したと思って
安心して体勢を元に戻した時に
糞がヒットするチェンジアップは、
華麗の一語です」 |
小林 |
「犯人が
ヘルメットをかぶっておる場合は?」 |
北小岩 |
「足元に
ワンバウンドになるフォークを投げ、
すべって転んだところで
ヘルメットの中に糞をトスします。
そしてメットごと
前後左右に大きく揺らして、
ブツはミキサーにかけられたような状態で
何度も何度も顔に‥‥」 |
小林 |
「一生のトラウマになりそうやな。
確かに腕章よりも、数十倍の効果がある。
今度の町内会議で、
街角さんの導入を強く薦めておくわ」
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