小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百四拾九・・・高速道路


ガガンガン!
トトントン!!
「何の音でございましょうか。
 朝まだきに、困ったものでございます」
朝食用の根深汁をこしらえていた北小岩くんは、
音の正体を確かめるために、
おたま片手に飛び出した。


北小岩 「はて、いつの間に?」
道路上に幅1.2メートル、高さ50センチほどの、
天井の無い箱状のものが延々と続いていた。
他の道路と交わる場所は、立体交差になっている。
北小岩 「お忙しいところ大変申し訳ございません。
 これは何でございましょうか?」
工事
の人
「高速道路ですたい」
北小岩 「それにしては幅が狭すぎます。
 通れるのですか」
工事
の人
「十分ですたい。
 対面でいけますばい」
北小岩 「わたくしには理解できませぬ。
 この幅で2台も走れるというのは」
工事
の人
「2台ではありまっせんばい。
 対面2犬線ですたい。
 これは『犬の高速道路』なんですたい」
北小岩 「なんと!」
小林 「なるほどな。犬高速か。
 犬だって、
 大急ぎで移動しなければならんことは多い。
 しかし、スピードを出しすぎると、
 信号で止まれずに事故にあう危険性が高い」


いつの間にか先生が、
弟子の肩越しからまあるいお顔をのぞかせていた。
工事
の人
「そうですたい。
 もしも飼い主が遠くで倒れてしもた時には、
 すぐに駆けつけ
 ペロペロ励ましたかことでしょう。
 また、隣町の知り合いの家に、
 お気に入りのおもちゃば忘れてきたら、
 飛んでいって持ち帰りたかことでしょう」
その時だった。
散歩中のアフガン・ハウンド、
ウエルシュ・コーギー、ジャーマン・シェパードなどが、
まだ未開通の道路に入り込み、
猛ダッシュで駆けていった。
北小岩 「やはり、犬高速は
 待ち望まれているのですね」
工事
の人
「高速ば降りる時は、
 しっぽと耳ば曲がるほうに倒して、
 後続の犬に知らせるとですたい」
北小岩 「かわいらしいですね。
 犬の社会もスピード化。
 時代の移り変わりを感じます。
 ところで、この幅10センチの道路は
 なんですか」
小林 「それがわからんとは、
 まだまだお前も修業が足りんな。
 どうみても、
 『毛の高速道路』やないけ」
工事
の人
「ようおわかりになりましたね」
北小岩 「なぜ毛に高速道路がいるのでしょうか」
小林 「例えば男が女性の眼前でパンツを脱ぐ時、
 どばっと毛を出して
 びっくらこかせたいもんや。
 だが、貧弱な毛しか
 蓄えていないなんちゅうヤツは、
 非常用の毛に駆けつけてもらって、
 そこに貼りついてもらうしかないやろ。
 大量に輸血せなあかん時、
 輸送車がサイレンを鳴らして
 駆けつけるのと同じことや。
 毛ももちろん、
 サイレンを鳴らしながら走るんやな。
 女性が夏に向けて剃りすぎてしまい、
 あまりに
 けったいになってしまった時にも、
 毛の高速道路は大活躍やろ」
北小岩 「‥‥」

もう1本工事をしている道路は、
『玉高速』なるものらしい。
先生に問うてみれば、睾丸を失った時、
即座に金玉が走り来るためと答えるであろう。
スピード社会は人間だけの特権ではなく、
動物の世界にも、体の一部分にも
到来しようとしているのだ。
今後も国土交通省指導の下、
全国津々浦々、多種雑多な高速道路が
お目見えすることは確実である。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2006-07-09-SUN

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