北小岩 |
「はて、いつの間に?」 |
道路上に幅1.2メートル、高さ50センチほどの、
天井の無い箱状のものが延々と続いていた。
他の道路と交わる場所は、立体交差になっている。 |
北小岩 |
「お忙しいところ大変申し訳ございません。
これは何でございましょうか?」 |
工事
の人 |
「高速道路ですたい」 |
北小岩 |
「それにしては幅が狭すぎます。
通れるのですか」 |
工事
の人 |
「十分ですたい。
対面でいけますばい」 |
北小岩 |
「わたくしには理解できませぬ。
この幅で2台も走れるというのは」 |
工事
の人 |
「2台ではありまっせんばい。
対面2犬線ですたい。
これは『犬の高速道路』なんですたい」 |
北小岩 |
「なんと!」 |
小林 |
「なるほどな。犬高速か。
犬だって、
大急ぎで移動しなければならんことは多い。
しかし、スピードを出しすぎると、
信号で止まれずに事故にあう危険性が高い」 |
いつの間にか先生が、
弟子の肩越しからまあるいお顔をのぞかせていた。 |
工事
の人 |
「そうですたい。
もしも飼い主が遠くで倒れてしもた時には、
すぐに駆けつけ
ペロペロ励ましたかことでしょう。
また、隣町の知り合いの家に、
お気に入りのおもちゃば忘れてきたら、
飛んでいって持ち帰りたかことでしょう」 |
その時だった。
散歩中のアフガン・ハウンド、
ウエルシュ・コーギー、ジャーマン・シェパードなどが、
まだ未開通の道路に入り込み、
猛ダッシュで駆けていった。 |
北小岩 |
「やはり、犬高速は
待ち望まれているのですね」 |
工事
の人 |
「高速ば降りる時は、
しっぽと耳ば曲がるほうに倒して、
後続の犬に知らせるとですたい」 |
北小岩 |
「かわいらしいですね。
犬の社会もスピード化。
時代の移り変わりを感じます。
ところで、この幅10センチの道路は
なんですか」 |
小林 |
「それがわからんとは、
まだまだお前も修業が足りんな。
どうみても、
『毛の高速道路』やないけ」 |
工事
の人 |
「ようおわかりになりましたね」 |
北小岩 |
「なぜ毛に高速道路がいるのでしょうか」 |
小林 |
「例えば男が女性の眼前でパンツを脱ぐ時、
どばっと毛を出して
びっくらこかせたいもんや。
だが、貧弱な毛しか
蓄えていないなんちゅうヤツは、
非常用の毛に駆けつけてもらって、
そこに貼りついてもらうしかないやろ。
大量に輸血せなあかん時、
輸送車がサイレンを鳴らして
駆けつけるのと同じことや。
毛ももちろん、
サイレンを鳴らしながら走るんやな。
女性が夏に向けて剃りすぎてしまい、
あまりに
けったいになってしまった時にも、
毛の高速道路は大活躍やろ」 |
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北小岩 |
「‥‥」
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