小林 |
「ぬるい冬が続いていると思ったら、
いきなり春やな」 |
北小岩 |
「そうでございますね」 |
小林 |
「フライング気味のソメイヨシノが、
恥ずかしげに
蕾を開こうとしている頃やろ」 |
北小岩 |
「まるでパンチラのようです」 |
小林 |
「うむ。ではのぞき見に行こうかな」 |
相変わらず意味のない先生と弟子の会話である。
二人は近所の子供たちから
お下がりでもらった一輪車に乗り、散歩に出た。 |
小林 |
「変やな。
車輪のついたタンブラーを
リードで引いとる若いヤツが
たくさんおる。
ヨーロッパなどでは、
結婚した二人が車の後ろに缶をつけて
ガラガラ走ったりするが、
何か関係あるんかいな?」 |
北小岩 |
「あそこにピンクとゴールドのブツを引いた
カップルがおります。
話をうかがってまいりましょう。
あのう、お忙しいところ
大変申し訳ございません。
そのタンブラーは何なのでしょうか?」 |
カップル女 |
「若い子たちの間で流行しているんだけど、
知らないの?
これはペットなのよ」 |
北小岩 |
「タンブラーが
ペットなのでございますか?」 |
カップル男 |
「違うね。
この中には
自分のおならが入ってるんだよ。
屁がペットなんだ」 |
北小岩 |
「なんと!」
|
カップル女 |
「各自お気に入りのタンブラーを用意して、
おしりにかぶせておならが出たら
蓋を閉めるの。
おならって可愛らしいじゃない。
ペットにしない手はないでしょ。
これからは
“ちょっぴり恥ずかしい”がトレンド。
私たちはこれを
『おなペット』と呼んでいるわ」 |
|
北小岩 |
「おならのペットで『おなペット』‥‥。
小林先生の必需品の意味とは
かなり異なりますね」 |
カップル男 |
「もう21世紀も6年以上過ぎただろ。
時代とともに言葉は変わっていくものさ。
おなペットにも新しい香りが必要なんだ。
屁は自然志向だし、
溜め込むよりもきちんと出した方が
カラダにもいい。
生きている限り尽きない。
だからこのムーブメントは、
HEHAS(ヘハス)とも言われている。
つまり
【屁styles Of Health And Sustainability】
=継続可能な健康屁生活なんだね」 |
カップルの話を聞いている間も、
次々ペットと散歩する若者が通り過ぎて行った。
歩くたびに振動でプップッと鳴るよう
細工されているものもある。 |
カップル女 |
「あの人は自分のおならの音を
録音しているのよ。
私にはまだそこまでの勇気はないなあ」 |
北小岩 |
「んっ?あれは凄いであります!」 |
山のような大男が、
タンブラーを30両連結にして全力疾走している。
|
小林 |
「まるで貨物列車のガス車のようやな」 |
北小岩 |
「あっ、先生」 |
小林 |
「流行に過敏な俺たちも、
さっそくタンブラーを
用意せねばならんな。
まあ俺は屁も大物やから、
ドラム缶ぐらいの容器が必要やがな」
|