小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を
一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百六拾四・・・土


北小岩 「先生、お庭で何をなさっているのですか」
日頃手入れは弟子にまかせっきり。
庭には何の興味も示さない小林先生が、
どういう風の吹き回しであろうか。
小林 「いやな、昨日地質学の教授から
 有益な話を伝授されてな」
北小岩 「難解な講義を受け、
 返す刀で研究にうつる。
 まったく先生の向学心には
 頭が上がりません。
 さっそく、わたくしにも
 その有益なるお話をお聞かせ願えませんか」
小林 「まあそう急ぐな。
 ところで北小岩よ、
 この世で一番好色でテクニシャンなものは
 なんだと思う?」
北小岩 「そうでございますね。
 イチモツを2本持つ
 ヘビさんでございましょうか。
 それとも可愛らしいうさぎさん?
 下の方もぴょんぴょんらしいですが」
小林 「お前の発想には奥行きがないな」
北小岩 「もしかして、
 三十頭以上のメスを
 したがえることもある、
 ミナミゾウアザラシさんでしょうか」
小林 「しゃあない、教えたるわ。
 好色&テクニックナンバーワン、
 それは『土』や」
北小岩 「なんと!」
小林 「俺も前々から
 土には妖しいものを感じとった。
 土を逆さに読んでみい」
北小岩 「はっ。『ちつ』でございます!」
小林 「そうやろ。
 その部位で、
 どのようなものが名器といわれとる?」
北小岩 「みみず千‥‥」
小林 「そうや。
 土の中にはみみずがどれほどおるか」
北小岩 「みみず万匹。
 いやそれ以上。
 みみず無限でございます!!」
小林 「母なる大地‥‥。
 生きとし生けるものにとって、
 それほど尊いものはない。
 だがな、大地は母である以前に、
 成熟した体をもった女なんや」
北小岩 「なっ、なんだかわたくし、
 突然興奮してまいりました!」
小林 「想像してみい。
 みみず千匹でもえらいこっちゃなのに、
 無限だったらどうなる」
北小岩 「あまりの気持ちよさに天に召され、
 土に還ることになるでしょう。
 なるほど。
 ところで土というのは、
 やはり女なのですか」
小林 「いや、男もおる。
 草や花が風に揺れているように
 見えることがあるやろ。
 たぶらかされてはあかん。
 あれは風のせいやない。
 男の土が植物に養分を与えるふりをして、
 茎から内部に入り込み、
 中で愛撫しとるんや。
 だからあれは、
 草が悶えとるというこっちゃ。
 それに早朝、
 土がもっこりしている時がある。
 まさに男の証明や」
北小岩 「わたくし、今までそのように
 土をとらえたことはございませんでした。
 さすがに地質学のオーソリティ、
 透徹した眼力で色好みや性技までをも
 見破っておられたのですね。
 その教授、ぜひ今度ご紹介ください」
小林 「うむ」

青く輝く美しき地球。
だがこの星の表面は、好色な土に被われている。
それを理解しているものには、
より一層地球が愛おしく思えてくることであろう。

2007-05-27-SUN
BACK
戻る